サンタの知らないクリスマスプレゼント
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これは、サンタすらも知らない物語
今日がクリスマスだと気付いたのは、
「メリークリスマス、だ。」
と、目の前の少女に言われたからだった。
僕は、特別変わったことのないしがない大学生だ。
日夜勉強とアルバイトに明け暮れて、たまに友人と遊んだりする“普通”な学生だ。
ただほかの人と異なることもある。
それが目の前にいるこの少女だ。
鬼咲椿珀(きさきちはく)。うちにいる居候だ。
本人曰く、鬼族の長らしく人族との交流を深めるために響界という場所からやってきたらしい。
ただ、僕はそんなことを信じていない。
理由は単純明快、彼女との初対面が鬼の長としては情けないものだったからだ。
まぁ、今この話は置いとくとして、大事なのは今の状況だ。
「おかえり。それと、メリークリスマス、だ。なんだ?妾の顔に何かついてるか?」
そういわれ変な顔をしていることに気づく。
「あぁ、いや、そっか今日はクリスマスだったか。どこで聞いたんだ?」
とりあえず一応疑問になったことを口に出す。
彼女は外に出てないはずだ。そして、別の世界から来たと自称している彼女が知るわけないのだ。
「そなたの母君を名乗る女が来てな、こっちの世界について教えて貰った時に今日のことも言っててな、それで知った。」
「は⁉」
唐突な爆弾発言に驚いて声をあげてしまった。
親にこのことがばれるのは想定外だったが、きっと母親のことだ。ろくでもないことを考えているだろうから、それも考えないことにする。
「はぁ、そのことは後で聞くとして、なにしたいんだ?」
「妾にもわからん。というか、クリスマスとは何をするのだ?」
くっそ母さんめ。あることだけ伝えて何の催事かすら伝えてやがらない。
とりあえず、椿珀にクリスマスの主な内容を伝えた。一部を除いて.....
「妾、デートというのがしてみたいな。」
「は⁉」
先ほどと全く同じ反応をしてしまう。
それは、その通り。その除いた一部に、『恋人同士がデートをする』ことも含まれていたからだ。
まあ、僕と椿珀が恋人同士ではないから伝えなかったのだが、なぜか椿珀がデートという単語を口にした。
「そなたの母君がこんな『可愛い彼女がいるなら、デートでもするのかしら?』とか言っておっての、そのデートというのをしてみたいのだ。」
とりあえず、母親を恨むことにした。
「わかった。デートはしよう。ただその前に母さんとどんなことを話したのかを教えてくれ。」
~少年・少女会話中~
「//////」
話を聞いた後、顔を真っ赤にしている椿珀を横目にデートの支度を始める。
ストレッチ素材のパンツに、厚手のタートルニット。上にコートを羽織って準備完了。
固まってる椿珀に支度をするように促し、デートプランを即興で考える。
「まあ無難にショッピングとかでいいか。夜はどうするか.....」
と、独り言をつぶやいていると
「へぁ⁉」
という声がして後ろを向くとまたしても顔を真っ赤にした椿珀がたたずんでいた。
どうしたのかは気になったが、聞くのは野暮だと思い聞くのをやめた。
「この前買った服着てくれたのか。うん、似合ってるよ。」
父の教えに倣いとりあえず来ている服をほめた。感想はちゃんと本心からだ。
「そ、そうか。似合っているのならよかった。ところでさっき言ってたのは......」
彼女の服は、白のニットワンピに赤を基調としたチェックストールだ。
前に似合うと思って買ってよかった。
「さっき言ってたの?」
「やっぱり何でもない。気にせんでよい!」
「ん?そうか?ならいいが。もう夕方だし、さっさと出ちゃおうか。」
午前バイトの終わりでかつ話していた時間もあったのでもう時刻は16時を過ぎている。
彼女も初めてのショッピングだし長く楽しみたいだろうから早めに出ることにする。
「どこか見たいところでもあるか?ないなら、椿珀の服でも買いに行くつもりだけど。」
そういい椿珀のほうを見る。
「.........」
「椿珀?どうした?ボーっとしてたら危ないぞ。」
ボーっとしている椿珀に声をかける。
「あ、いや、妾たちも周りからはその....ああいう風に見えとるのかなと......」
といい指をさす。
そちらには仲睦まじいカップルがいた。
「あー....まあ、そう見えるかもな?」
思ったことを正直に言いう。
そうすると椿珀が、
「あの、なんだ、えっと、ほら」
といい、手を差し出してくる。
「?」
「あぁもう!手!周りみたいにつなぎなさい!」
そう言われ理解する。
「ああ、わかった。」
なんとなくこっちのほうがいいと思い恋人つなぎにする。
満足げな顔を見せた椿珀に再度質問し、それでいいとのことだったので椿珀の服を買いに行く。
再度歩き始めて少ししたあたりで隣から軽快な鼻歌が聞こえてくる。
きっと初めての外出だから楽しいのだろう。
そんなこんなで服屋についた僕たちは椿珀の服を選び始めた。
隣から聞こえる鼻歌はまだ続いている。
「こんな服とかはどうだ?椿珀?」
似合いそうな服を身繕い提案してみる。
「えっ、あ、あぁ。いいと思うぞ?」
「なんで疑問形なんだ?まあ、いいと思うなら試着でもしてくるか?」
「あ、あぁ。そうする。」
そうして彼女を試着室に連れていく。
彼女の試着が終わるまで試着室の前でスマホを見ている。
周りからの視線がすごい。
椿珀は鬼族らしいので角があるが、本人曰く気合で隠しているらしい。
しかし、それを除いても椿珀はとても美人だ。まるで僕とは釣り合わないくらい。
きっと、男たちの嫉妬と女たちの好奇の目にさらされているのだろう。
「居心地悪いなぁ....」
そんなことを思いながら椿珀を待つ。
「お、おいそこにおるか?」
「うん。ちゃんと待ってるよ。」
「着てみたぞ。」
といわれ、試着室のカーテンが開かれる。
グレージュのジャギーニットにライトグレーのリラックスパンツ。
椿珀はどんな服も似合うなと思いながら感想を言う。
「うん、よく似合ってる。可愛いね。」
すると椿珀は小恥ずかしそうに感謝を言ってきた。
「そ、そうか。そなたはこういうのが好きなのか....ならこれを買おう。」
「ん?それ買う?じゃあ支払いしちゃうからゆっくり着替えてていいよ。」
そういい会計に向かおうとすると、
「ま、まて!これは妾の服だ、童が支払う!」
椿珀はこっちに来てから、うちの家事手伝いとしておこづかいをそれなりにあげてるから支払えなくはないが、
「ん-、いいよ。クリスマスプレゼントってことで。あ、サンタには内緒ね?勝手にプレゼントすると怒られちゃうから。」
まぁ、せっかくのクリスマスだしプレゼントをしてもいいだろう。
もちろん、サンタの件はちょっとしたジョークだが。
「サンタとは誰だ?」
伝わらなかった。そういえばサンタのことは教えてなかったな....
あとで教えようと思った。
そんなこんなで支払いも椿珀の着替えも終わり店を出た。
椿珀が「妾が持つ!」と言っていたが、服は重くて大変だろうなので僕が持つことにした。
「むぅ~」
さっきからこの調子である。
あ、そういえば店を出てから『あれ』をしていなかった。
「キャッ」
僕が椿珀の手をつなぐとそんな声を出す。
「あれ、いやだった?」
悲鳴のような声を出すので聞いてしまった。
「い、いやというわけではない。急だったからびっくりしただけだ。」
といい、手をつなぎ返してきてくれた。
そのあと少ししたら、再度軽快な鼻歌が聞こえてきた。
「むぅ....」
僕たちは今ジュエリー店にいる。
理由は単純、椿珀が気になるといったからだ。
「ここのものはなかなかに高価なのだな.....」
少し落ち込んだように椿珀がそういう。
「そうだね。宝石とか使われてるからかなり高いね。」
椿珀にそういいながら商品を物色する。
(あ、これいいかも。)
そうして結局ジュエリー店で椿珀は何も買わなかった。
もう日も完全に暮れ聖夜のムードが広まってきた。
いったん荷物を家に置き、そのあとに友人が経営しているレストランへと行く。
「妾、人間のマナーなど知らないぞ?」
「大丈夫。そういうの緩いところだし、一応貸し切りにしてもらってるから。」
「は⁉貸し切りとはどういうことだ⁉」
貸し切りと伝えると、声を荒げてそう言ってくる。
「そいつとはいろいろあるんだよね。ちょっと恩を売ってたから、お願いしたらOKくれたの。」
「そ、そうなのか....そなた、意外と顔が広いのだな....」
そんな会話をしながら目的のレストランに向かう。
もちろんつながった手は離れていない。
レストランについた僕たちは、連れてこられた席に座り料理が提供されるのを待っていた。
その間の会話は本当に他愛のないものだった。
テーブルマナーのことや、このレストランを経営している友人とのこと。
椿珀が響界にいた時のことに、こっちに来てからどうだったかなど。
サンタについても。そして、今日どうだったかも。
途中料理が来て会話が止まることもあったがゆったりとした時間は常に流れていた。
「そうだのう、やはりあのジュエリー店の“ダイヤモンド”の値段には驚かされたものだ。」
「そうだね、やっぱダイヤは高いからね。」
こうしてジュエリー店の話になり、僕は話すのは今だと思い話を切り出す。
「なあ、あのジュエリー店で椿珀何も買ってなっかただろ?」
「そうだな。思ったよりも高かったのもあるが、妾には似合わないと思ってな。」
そんなことないだろうと思いながら話を続ける。
「それでさ、椿珀に絶対に合うと思ったのがあったから買ってきたんだ。受け取ってくれるかい?」
そういって、アメジストのネックレスを渡す。
「これは?」
「アメジストのネックレス。アメジストは別称が紫水晶だったかな?」
プレゼントの説明を軽くする。
そうすると、
「紫水晶⁉鬼族にそれを贈る意味を知っているのか....?しかも首飾りときた。いや、こやつが知るわけないか....」
とぶつぶつ呟いていたが、僕の耳に届く前に空気と混じり溶けてしまった。
「それ、椿珀にプレゼントしたいんだ。受け取ってくれる?」
「し、仕方ないのう。特別に受け取ってやらんでもないぞ。」
こうして受け取ってもらったところで今度こそリベンジをする。
「サンタには内緒ね?」
そして、椿珀は返事をした。
「ああ、内緒だな。約束した。」
と、微笑みながら。
「なあ、この首飾り妾につけてくれんか。」
「仰せのままに。」
いわれた通り、椿珀の首元に紫の輝きを与える。
「うむ。これはなかなか良いな。気に入ってやった。」
「そうか。それだととてもうれしいな。」
こんな一幕もはさみ、僕たちはレストランを出ることにした。
「そ、それでこの後はどうするのだ....?」
椿珀がそんな質問を急にしてくる。
こっからは少しサプライズを含むから濁すことにした。
「んーとね、行ってからのお楽しみ。」
そういった僕は椿珀の手をつなぎ歩き始める。
「やはり『夜はどうするか』といっていたのは、この後のことなのか⁉」
とつぶやかれたが、残念ながら僕に伝わらないのは同じだった。
疲れてしまったのか動きが硬くなっている椿珀を連れて、駅前の広場でやっているイルミネーションを見に来た。
「椿珀、ついたよ。」
「へぁ⁉あぁついたのか....って、これは.....」
目の前に広がるのは、木々が黄色と白に光り輝く風景。
その幻想的な風景を前に、動きが硬くなってた椿珀もまるで子供化のようにはしゃぎ始める。
「なんだ!なんなのだ!こんなもの見たこと今までないぞ!」
「イルミネーションって言ってね、LEDとかを使って光らせているんだ。」
軽く説明して、“ライトロード”を歩き始める。
周りは夫婦やカップルだらけ。だが、その周りからしたら僕たちもそのうちの一人なのだろう。
隣からの楽しそうな声を聴きながら歩き進める。
僕の記憶が正しければこの奥に......
「あ、あった。」
「何がだ?」
そうして、椿珀を連れてそこに行く。
もともと行くのはこっちではなかったが、今回のデートで思ったより気持ちがあふれてしまったようだ。
目の前には巨大なハートのイルミネーション。
もちろんここは恋人の聖地。
ここに来たからやるのは一つしかない。
「なあ椿珀、大切な話があるんだ。」
「な、なんだ...?」
周りは思ったより人が少なくて助かった。
人が多くて振られたら恥ずかしいってものじゃないし。
「椿珀。好きだ、付き合ってくれ。」
そう、言葉にする。
ただ、単純に。
愛の言葉を。
沈黙が続く。
気まずくなって声を出してしまう。
「きゅ、急にこんなのと.....」
「妾もだ。妾もそなたのことが好きだ。」
僕の言葉をさえぎって椿珀がそういう。
椿珀の胸元のアメジストがピンクに染まっているようにみえる。
「じゃあ、それって、」
「うむ!妾もそなたと付き合いたい!」
そういい強く抱擁をする。
そうして僕と椿珀は付き合うことになった。
「そなたへのプレゼントは妾じゃ。サンタには内緒だぞ?」
そういう椿珀はとても美しいという単語では表せないほどのものだった。
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