クラスのイケメン(女)が、俺の初恋を全部壊してくる

なおや ゆかり

第1話男だと思っていた

クラスのイケメンは、いつも俺の隣にいる。

 それが当たり前になったのは、いつからだったか覚えていない。気づいたら、朝のホームルーム前も、昼休みも、放課後も、相川は当然の顔で俺の席に腰を下ろしていた。

「今日さ、数学やばくね?」 「……急に言うな」

 机に肘をつきながら、相川は笑う。

 整った顔立ちに、短く切った髪。シャツの着崩し方まで様になっていて、女子が遠巻きに見ているのが分かる。

 クラスのイケメン。

 それが相川だ。

 俺は女子と話すのが苦手だ。

 でも、相川と話すときだけは、そんなことを忘れられた。

 相川は男だし、

 距離が近くても、視線が合っても、変な緊張は生まれない。

「なあ、昼どうする?」 「弁当」 「俺も。隣いい?」 「……いいけど」

 断る理由はなかった。

 購買で買ったパンを机に並べて、相川は無造作に封を開ける。その仕草がやけに慣れていて、妙に目を引いた。

「相川ってさ」 「ん?」 「女子から人気あるよな」

 言った瞬間、少し後悔した。

 相川は一瞬だけ手を止めて、それから肩をすくめた。

「そう見える?」 「見えるっていうか……実際そうだろ」 「どうだろ」

 相川は笑った。

 でも、その笑顔はどこか曖昧だった。

「お前はどうなんだよ」 「俺?」 「好きな人とか」

 急に話題を振られて、言葉に詰まる。

「……いない」 「ふーん」

 相川は、それ以上突っ込んでこなかった。

 その距離感が、妙に心地よかった。

 チャイムが鳴り、昼休みが終わる。

 相川は立ち上がる前に、俺の頭を軽く叩いた。

「またな」 「……おう」

 男同士なら、普通のやり取りだ。

 そう思っていた。

 ――なのに。

 相川の手が離れたあと、

 なぜか胸の奥が少しだけ熱くなった。

 この違和感の正体を、

 俺はまだ知らない。

 クラスのイケメン・相川が、

 男のふりをしている“彼女”であることも、

 そして、こいつが俺の初恋を壊してくる存在になることも。

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2025年12月30日 21:00

クラスのイケメン(女)が、俺の初恋を全部壊してくる なおや ゆかり @naoya06

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