生を授かる子、死にゆく子

かるゆく

第1話 無知な子、無自覚の子、無垢な子

 この世界に始めて生物が生まれて四千年ほど時が流れたとき、四番目の子が誕生した。

「あっ、もうこんな時期なのか。みんな〜生まれたよ」

三人が四番目の子のもとへ歩み寄る。

「あら、ほんとね。可愛らしい」

「カワイ〜。私たちも最初はこんな感じだったよね」

「時の流れが早くて、たまに怖いわ……」

一番目の子が四番目の子を胸に抱き寄せる。

「あたたかいわ。この子の名前は何にしましょうか」

「可愛いし、可愛い名前にしよ!」

「誰が決める?」

「みんなで決めましょう」

上の子たちが話し合う間、四番目の子は理解できず考えることもなく、ただ瞬きをしているだけだった

「モナとかいいんじゃない? 可愛いし」

「確かにいいかも!」

「可愛らしいし、それでいいんじゃない?」

こうして四番目の子の名前はモナに決まった。

「何の反応もないね」

「最初はこんなものよ」

「へぇ、まだ考えることもままならない時だったから、覚えてないよ私」

「まあ、まだまだ生まれてくる子はいるし、気長に楽しみましょう」

「そうだね〜」

三人の子たちはモナを抱き、自分たちの家に帰り、言葉を教えた。

――それから三百年ほどの月日が流れた。

モナは明るく元気な子に育っていた。

「ねえねえ見て! 海に行った時拾ってきたんだ! 可愛い?」

モナが見せているのは耳がついてる石のようなものだった

「うん、可愛いよ」

「だよね? 私がより可愛く見えるでしょ?」

「ははっ、ちょっとー。誰よこんな自信過剰に育てたの」

「まあ、実際可愛いし、いいんじゃない?」

「お姉ちゃん! そうやって甘やかすから」

「一年前くらいまで、あなたも甘やかしてたじゃない。私たちよりも」

「だって、初めての年下だし」

「そんなことより、クルタお姉ちゃんどこ?」

クルタは二番目の子だ。

「さっき、この世界についてもっと知りたいとか言って、どっか行ったよ」

「あらまぁ、あの子らしい」

「さすがクルタ姉ちゃんだね。あったまいい〜」

ピチャピチャ、と音がする。

「あっ、こら! 動かないで」

さっき拾ってきた生き物が突然暴れ出した。

「きゃっ」

「んっ」

謎の生命体がモナの手元から這い上がり口から体内に入り込んだ。

「ちょっと、大丈夫?」

「お姉ちゃん! これどうなってるの、モナが!」

それは、ただの石じゃなく、動く生命体だったのだ。

「初めて見るわ。何かしら?」

「お姉ちゃん、そんな場合じゃないでしょ。モナの口に――」

「くっ、苦しいよぉ……」

「モナ? モナ!?」

モナはそのまま意識を失い、倒れた。

「これは大変。急いでクルタを呼んでこなくちゃ」 

_____        

「カリナ、セレナお姉ちゃん、一体どういう状況?」

「口の中に生き物が入ったの。モナの……」

「それで気絶したのよね」

一瞬沈黙が流れた。

「こんな状況、僕も初めてだ。どうすることもできないよ」

「そんな……」

「じきに良くなるでしょう。その時まで気長に待ちましょう」

「セレナお姉ちゃんってさ、いつも自分じゃ何もしないくせに時間が解決してくれると思ってるよねモナのことも他人事っていうか」

「カリナも何もしてないわよね?自分のことを棚に上げ過ぎじゃないかしら。それに実際私じゃないし他人じゃない? 逆にあなたが深入りしすぎなのよ」

「二人とも落ち着きなって。僕たちって、ほら、傷ができてもすぐ修復するし。長いこと起きなかったら、お腹を切ってその生物を取り出せばいいじゃん?」

「……そんな酷いこと、モナにするって言うの?」

「起こすためには、それしかないじゃないか」

「それでも……」

「カリナ。本当にモナのことを思うなら、そうしたほうがいいと思うわよ」

カリナは何も言い返せずに部屋に向かって歩き出した

 それから一ヶ月ほど時が経った。

「クルタ、どう? 起きる気配ある?」

「まったくない。何の動きもない。そもそも、なんでモナの口の中に入ったんだ。体内で何をしてるか想像もつかないよ」

「そうだよね……」

「僕は海に行ってくるよ。カリナも来るか?」

「私はいい。モナの側にいたいから」

「分かった。お姉ちゃんと行ってくるよ。何かあったら呼びに来い」

「分かった」

――――

「ゔぅ……ん。あれ? ここどこだろ。真っ暗……」

「どうなったんだっけ……あー、口の中に入ってきて……倒れたのかな」

「どうしよう。ここどこだろ。体の感覚はないのに、意識はある……ほんとにつらーーい」

(よくぞ目覚めたな)

「なにこれ……頭になんか響いてる」

(すまないな、まずは説明をしてやろう。いいところにお主が来て我を連れ出したのがお主、そのおかげで貴様の体内に潜り込めたという訳だ)

「なにそれ?私の自業自得って言いたいわけ?いきなり一方的に説明してさ。というか、ここどこなの教えて! 」

(すまないそう言うつもりで説明したわけでは…、まあよいここはそなたの精神世界だ。それなりに楽しませてもらったぞ)

「へぇー楽しむとこないでしょここ。ははっ、これが面白いとか変わってるー」

(自分の精神世界は見えぬものなのだ。今は感覚もないじゃろ?精神世界にいる間は精神世界にいる者の声しか感じ取れないのだ)

「……というか、元に戻してよ! なんで精神世界にいて、私に何かしたの?」

(今は我が元に戻してやるつもりだ。何もしてないし安心せい)

「ちょっと待っ――」

ハッ。

「モナ!」

目覚めたモナに、カリナが抱きつく。

「あ、お姉ちゃん」

モナも抱き返し、泣き出した。

「モナが無事でよかった、」

「お姉ぢゃん……怖かったよぉ」

カリナもつられて涙を流す。しばらく、その状態が続いた。

「おっと、起きたのか。無事で何より」

「ほら、待ってたら自然と起きたでしょう?」

セレナとクルタが帰ってきた。

「ははっ。お前ら泣き虫だな……本当に無事でよかった」

クルタも二人に混ざる。それを、セレナは静かに見守っていた。

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