嘘つき夏if、クリスマス

紫水ミライ

大人になった二人と、家族

※注意

うつになった作者の、久しぶりの小説です。

表現や文体が不自然であったり、何か変わった文章であるかもしれませんがご了承ください。

また、この小説は自創作のifを作者自身が書いたものです。

本編未読の方向けの内容ではないかもしれません。


——————————


「ただいま〜〜!」


 玄関から風と一緒に入ってきたのは、聞き慣れた低い彼の声だった。


 キッチンに立っていた私は火を止め、少し嬉しい気持ちで彼の方へ行った。



「あなた! おかえり、今日もお疲れ様!」


「ありがとう、桜」


 心人君は両手を私の頬に当てて、優しく微笑んだ。


「わぁっ、冷たい!」


「冬だからねぇ、そりゃそうさ」


 そうしてしばらく笑いあっていると、後ろから子どもたちの小さな足跡がする。



「パパ! ママ! みてみて、さんたさんへのおてがみ、かけたよ!」


「おっ、ほんとか! 凄いな! 後でパパに見せてくれるかい?」


「うん!」


 長男の夏人なつとは嬉しそうにし、いつものようにそうして父である心人に抱きついた。


 長女の千春ちはるは何やら少し浮かない様子で、うつむきながら立っていた。


 「どうしたの、千春ちゃん。何かあった?」


「その……わたしは、やっぱりクリスマスプレゼント、いらないかなって……」


「どうして?」


「それは……その……なんていうか……」




「……」



 少し心配に、私と心人君は見つめてしまった。


 千春はどうにか微笑んで誤魔化してみせて、リビングにみんなで向かった。


「メリークリスマース!」


 フライドチキンや唐揚げなどの鳥料理、トマトスープと焼きたてのパンを皿の上に飾った料理が置かれる。


 クリスマスの今日のため、腕にふるいをかけて私が作った料理だ。


 心人くんも子供達も美味しく食べてくれたようで、幸せに溢れた食卓だった……が。


 少し気分が乗ってない様子の千春が、やっぱり私は気がかりだった。


 ❆❆❆


 ちょうど子どもたちが寝る前だった。

 千春はその時も浮かない顔をしてて、私はそんな娘に尋ねた。


 「千春ちゃん、やっぱり何かある?」


「その……サンタさんは、今年も来るのかな」


「もちろん来るよ!」


「でもその……やっぱり毎年毎年……私たちのために。大変じゃない?」


なるほど、と私は千春の言わんとすることを察した。


 おそらく彼女は、もうサンタさんの正体に気づいている。

 小学4年生の女の子、となればそうだろうか。


 特にこの子は、心人君譲りの優しさや賢さがあるため、サンタさんの正体を知ってから、おそらく変に気を遣ってしまっているのだろう。


 私たちが毎年プレゼントを渡すのが大変じゃないか、と、子どもながら働く父の姿も見つつ、そう思ったのかもしれない。


 実際、心人君はそれで仕事を頑張りすぎてる時もあるから、尚更、か。


「……そう、でもね……」


 私はとして、娘に安心を与えようと話す。


「千春ちゃんはまだ、私たちに甘えてもいいのよ。子供だもん、サンタさんにお願いしてもいいし、気を遣う必要なんてないんだよ」


「……でも……」


「でもじゃなくてね、お父さんもお母さんも、千春に安心してほしい。お父さんが一生懸命働いてるのも、千春や夏人に美味しいものを食べさせたり、楽しいことをいっぱいさせたいからなの」


「……そう……そうだよね。なんか、ごめんなさい」


「ううん、謝んないで。むしろ、そうやって優しく気遣ってくれて、お母さんうれしかった」


「うん……」


「まぁ、そろそろ時間だね。サンタさんが来る前に寝なきゃ、プレゼントはもらえないぞ?」


 わざと茶化すように笑ってあげると、ほっとしたように優しい顔で頷いた千春。


 我が子ながら、その顔はやっぱり、可愛く見える。


「じゃあ、おやすみ」

「うん、おやすみ!」



 千春はいつものように、お姉ちゃんとして、弟の夏人を連れ、寝室に入っていった。


 その後姿を見送って、私と心人君は顔を見合わせた。


「僕たちの娘は……ほんとにいい子に育ったなぁ」


「ええ……ほんと。考えてみれば、あの子もサンタさんの真実を知る歳になったんだからね。子供の成長って早いわ」


「本当だよ、それに……来年はもう少し、君と、子どもたちのために仕事をしすぎないようにするよ」


「ええ、そうして。心人君も、私たちの大事な家族なんだもん。あの子にまた心配、かけるわけにはいかないでしょ?」


「ああ……。来年はもう少し、君たちとの時間を増やしてみるよ」


そうして夜が老けていく、子どもたちの寝息もしっかり聴こえるくらいになると。


 私たちはサンタさんの衣装に着替えて、袋に包まれたプレゼントを置きに行った。


 寝室ですやすやと眠る我が子を見て、心人君も私も、温かい気持ちになった。


「メリークリスマス」


「千春、夏人、いい夢を」



 小さくそう言うと、私たちはその寝室を後にする。


 雪の降る日、私たちはそう、穏やかな幸せに包まれた。



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