第1話:不思議ちゃん
「あの〜!」
教室を出ると、後ろから女子の声が聞こえた。明るい茶髪の子で、不思議な様子から、不思議ちゃんと呼ばれている。そして、クラスでも5本指に入るほど元気な、いわゆる陽キャと言われる部類の女子だ。
少し進んだところで背後に気配を感じた。
「あの、
僕の名前を呼ばれ、思わずびくっと肩をあげた。
振り返ると、やはり不思議ちゃんがいた。
「それってギターですよね?」
不思議ちゃんが首をかしげる。
「は、はい。そうです、けど」
めったに女の子と話さない僕は僕は動揺を隠せなかった。
「
そうだ。不思議ちゃんは
元気すぎてクラスでも聞くことの多い名前だが「自分には関係ない」と勝手にシャットアウトしていたのだ。
「楽器弾けるんですか?」
「一度顧問の先生に聞かないといけないですね。一旦、音楽室まで案内しましょうか?」
考え抜いた末、僕じゃ決めれないと判断して顧問の元へ案内することにした。
「はい!お願いします!」
笹良さんはそう答えると僕の後ろをてくてくと着いてくる。
「ギター弾けるのすごいですね!」
「いや、僕なんて、全然ですよ」
そんな言葉を交わしながら、僕らは音楽室へ向かった。
プロを目指している僕は謙虚と感謝を忘れずにというお父さんから教えてもらったことをずっと守っている。
実際、実力はというと、同い年の中ではトップレベルに上手いと言われている。自分でも自覚はしているが出さないだけだ。
「ここが、部室です」
僕は音楽室を指さす。すると、笹良さんはドアをコンコンとノックした。
「入って〜」
合図をしてくれたのは顧問の宮村先生だ。髪型はアフロで、メガネをかけている。口調はゆるく、ふわふわしているのでわたあめ先生と呼ばれている。
宮村先生に話しかけに行った。さすがだな、笹良さん。コミュ力お化けにも程がある。
「あの、軽音部入りたいんですけど未経験でも大丈夫ですか?」
「いいよ」
「あの、軽音部って部員少ないんですか?」
「うん、今は3人。バンド組むとしたらベースがいないな」
入学式から一週間。卒業した3年生の代は人が多くて活気があったらしいが、今は3人だけだ。
「じゃあベースやります!」
「うん、よろしくね」
「ええ⋯」
僕はあまりの早さに小さく驚きを吐き出した。
こうしてベースが決まったはいいが、練習するにはベースが必要だ。
「あの、この辺って楽器店ありますか?」
笹良さんがまた口を開いた。まさか⋯⋯
「たしか駅の方にあったよな」
リードギター担当の
「じゃあ行ってきます!」
笹良さんは教室を出ていった。
「え?え?もう買いに行くの?」
僕は思わず疑問符を並べた。やはり行動力もお化けだったか。
「透、追いかけて一緒に行って案内してあげたら?迷ったら困るし」
ドラム担当の
「はい、行ってきます」
僕は急いで笹良さんが向かった方向へ走り出した。
季節外れのスノードーム 平井ララライ @Hirairararai
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