Ep5.揺さぶる男


それから最初の一週間は、スケジュールの通り情報収集に徹底した。


朝九時から昼前までは、会議室にこもってひたすらパソコンと資料と向き合う。

三人並んでパソコンに向かい、キーボードを叩く音だけが響く時間。

午後はそれぞれが抱える通常案件に戻り、終業後、再び会議室へ集まって進捗を共有した。


——その繰り返し。


そして週の半ば。

最初の中間報告で、清水は遠慮なく牙を剥いた。


「…悪いが、これじゃ企画の土台にも立てない。“誰でも拾える情報”を並べても意味がない」


淡々とした口調が容赦なく刺さる。


田端はその瞬間、膝から崩れ落ちそうな勢いで肩を落とし、佐々木も「ですよね…」と小声で呻いた。


杏華も胸がきゅっとしたが、こう言われることは正直、想定内だった。

——毎日デスクでパソコンと睨めっこしているだけでは見えないもの。ネットの表面だけでは拾えない情報。


——なら、動くしかないか。


「では、今日の午後、直接店舗に行きたいと思います」


杏華の言葉に佐々木と田端の「えっ」と言うような気配が飛んでくる。


清水は資料をめくっていた手を止めたが何も言わない。けれどその沈黙が答えだった。


その反応を横目に確かめてから、杏華が佐々木と田端へ視線を向けると、二人が申し訳なさそうに声を上げた。


「杏華さん…今日の午後は私、別件のミーティングが立て込んでいて…」


「僕も、クライアントとの顔合わせがあります…」


「大丈夫。じゃあ今日は私がひとりで行ってくるよ」


佐々木と田端は「すみません、お願いします!」と慌てて頭を下げる。


正直、杏華の方も業務が立て込んでいるが——ここをクリアしなければ次の段階に進めない。

誰かがどうにか動くしかないのだ。


それはもちろん、この企画の統括を任された杏華の役目だ。

杏華は頭の中で予定を組みながら、小さく頷いた。



°・*:.。.



昼休憩を少し早めに切り上げた杏華は、ひとりエレベーターに乗っていた。


一階に着いてドアが開くと、エントランスの中央に背の高いシルエットが目に入る。

いつもの硬い表情が嘘のように和らいだ、完全に営業モードの清水だ。


おそらく取引先だろう。何やら穏やかに話し込んでいる。

その横を通り過ぎ、自動ドアを抜けて駅へ向かおうとしたその時。


「安積」


低い声が背中を捉え、杏華は振り返った。


「これから行くのか?」


先ほどの柔らかな表情は跡形もなく消え、いつもの感情の読めない顔つきに戻っている。


「はい」


短く返すと、杏華は早々に歩き出した。が——


「それなら俺も行く」


「え、清水さんが?」


思いがけない言葉に、杏華は反射的に足を止めて再び振り返る。


「ああ。会食の時にミーティングも済ませたから、午後は空いた」


杏華の意思確認は不要で、清水の同行はもう決定事項らしい。


清水はそう言いながら路肩へ出て手を挙げ、すぐに一台のタクシーを停める。


「タクシーで向かうぞ」


横顔だけこちらに向けてそう言うと、清水は当然のように先にタクシーへ乗り込んだ。


——もう、選択肢なんてないらしい。


タクシーに乗り込むと清水が本店の住所を告げ、車はゆっくりと走り出した。


車内は妙に静かだった。

清水はタブレットの画面に目を走らせている。

杏華もスマホで店舗のレビューやSNSの動向を確認しながら、意識が隣に向かないように画面の中に集中した。


数分後、清水が不意に口を開いた。


「店舗ではまず何を見る」


突然の問いかけに杏華がスマホから顔を上げると、清水はタブレットから視線を外さず、答えを待つ姿勢だけ作っている。


基本的な質問のはずなのに、すぐに返せず杏華は数秒だけ視線を泳がせた。


「…客層のズレや、売り場の世界観、それから接客のトーン、でしょうか」


「間違ってはいない。だが、それだけでは浅い」


淡々とした声のまま、清水は言葉を継ぐ。


「GELLATはオンラインで興味を持った客が、実店舗に来た時点で興味を失う。それがなぜ起きているのかを把握しなければならない」


杏華は無意識に姿勢を正した。

言われてみれば当然なのに、自分では拾えていなかった視点だった。


「それから——本店の周りには競合が三つある。人がどの店に吸い寄せられ、どこで足を止めるのか。“GELLATが選ばれなかった理由“を見ないと意味がない」


——選ばれなかった理由。


ネットの数字を追っているだけでは絶対に見えてこない。

実際の空気、客の表情、商品に触れた後手を離す一拍の間。

自分も普段から観察してきたつもりだったのに。


(気づいてたつもりで、全然見えてなかった…)


清水は“今見るべきもの”を一気に浮かび上がらせる。


(負けたくないな…)


杏華はスマホを握り直し、唇を噛み締めた。



°・*:.。.



店舗に到着し、一歩足を踏み入れるなり違和感を感じた。


このブランドは杏華も何度かネットで見たことがあるが、こうして実店舗に足を運んだのは初めてだ。


そしてまず初めに感じたのは——オンラインのイメージと全く違うということ。


画面では軽やかでトレンド寄りの印象なのに、店内で見る商品の色味や生地感は、どこか落ち着きすぎている。

客層も三十代半ばから四十代が中心で、二十代の姿はほとんどない。

入ってきても、商品に触れる前に踵を返してしまう。


接客も丁寧ではあるが、やや堅い。

カジュアルブランドの“手に取りやすさ”より、フォーマル寄りの“かしこまり感”が強い。


「オンラインと印象が違う…」


杏華の独り言ような言葉に、清水が店内を逡巡していた視線を止めた。


「ああ。オンラインの世界観と、店舗の空気が一致していない。それがこのブランドの一番の問題だ」


清水はそう言うと、店舗の奥へ歩き出した。


それに続くように杏華もディスプレイの方へ歩み寄る。

陳列されている商品をしっかり見てみても、トレンドの色や形のアイテムが少なく、定番のものばかり。


「若年層向けのアイテム、ほとんど置いてないですね」


「店側の仕入れ判断と、マーケ側の打ち出しが噛み合っていない証拠だ」


同じようにディスプレイを見ながら淡々と言葉を零す清水の向こうで、ちょうど二十代に見える女性客が入ってきたのが見えた。

けれど、入口のマネキンを一目見ただけで、すぐに店を出て行ってしまう。


「…やっぱり二十代は長居しないですね」


「扱っているアイテムとディスプレイ。根本的な問題だな。…隣の競合ブランドの方に移動しよう」


店を出て隣の店舗へ足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

照明は明るく、軽やかな色味のマネキンが目を引く。

店員の接客トーンも柔らかく、若い客が楽しそうにラックを見て回っていた。


「…全然違う……」


「世界観が統一されている。オンラインとのギャップも小さい。だから若い層が自然に入る」


ブランドごとの差が、歩くだけで明確だった。


オンラインの世界観と、実店舗の雰囲気。

GELLATが若者に届かない理由が、ひとつずつ輪郭を帯びていく。


会社へ戻る頃には、就業時刻が目前に迫っていた。


「戻りましたー…」


そう小声で呟きながら、すでに残業が確定しているような丸まった背中たちの間を通り過ぎ、自席に滑り込む。


杏華はコートを脱ぐ暇もなくパソコンを立ち上げ、今日気づいたことを忘れないうちに箇条書きで打ち出し始めた。

店内の空気、客層、競合との比較、頭がまだ熱を帯びているうちに、一気に形にしてしまいたい。


リズム良くキーボードを叩いていると——


「まとめが早いな」


背後で聞き慣れた低音がした。

振り返ると、清水がコートを片手に、微かにタバコの匂いを纏いながら立っていた。

タクシーを降りたとき「先に戻れ」と言われたが——その間に一服していたらしい。

そのマイペースさに、杏華は密かに眉をひそめた。


だが清水は、そんな杏華の表情など当然のように意に介さず、デスクに片手をついて画面を覗き込むように身を屈める。


キーボードに乗せていた自分の手のすぐ隣に、清水の骨ばった指が置かれた。

さっきより濃くなったタバコの匂いが近づき、杏華は思わずそっと手をずらして姿勢を正す。


清水はただただ箇条書きへ視線を滑らせているが、その距離の近さに杏華の呼吸は微かに浅くなる。


そして数秒後、清水は上体を起こし、自席へ戻りながら淡々と言った。


「——悪くない。だが、“客層の離脱理由”と“購買導線のねじれ”は分けて整理しろ。混ざると分析が甘くなる」


杏華は条件反射のように「はい」と返した。

だがその裏で、つい今しがた——ほんの一瞬、この男を“異性”として意識してしまった自分に気づいて胸がざわつく。


さっきまで溢れていた今日の収穫も、全部一瞬で真っ白にされた気さえして——


(……ムカつく)


小学生みたいな感情で、この謎の動揺を誤魔化した。



°・*:.。.



二週目に入り、ようやく企画の“核”となる工程に突入した。


清水が最初に「ここが最初の山場になる」と告げた、アイデア出しと企画骨子の作成の段階だ。


会議室のホワイトボードは連日書き込みで埋まり、杏華のデスクには、没案・参考資料展SNS分析の紙束が積み上がっていく。


朝から夜まで槍のように飛んでくる清水の指摘、佐々木の仮デザイン、田端が投げてくるデータの更新、それらを杏華がひとつひとつ整理していく日々。


考えても考えてもアイデアは数時間で色褪せ、使える案はわずかで、デスクの端には没になったアイデアの書かれた付箋が山を作っていた。


——そうして、企画立案で走り抜けた二週目も、ようやく終わりが見え始めたある日の夜。


この日も残業は確定で、杏華は少しの休憩に自販機ブースにいた。

ガコンと落ちてきた缶ジュースを拾い上げた瞬間、重力に逆らえず、その場でしゃがみ込んだ。


「はぁ……」


今日は飲み物を口にする暇すらなかった。

勢いよく流し込んだ炭酸が喉を焼き、ほんの少しだけ生き返る。


(これがビールならなぁ……)


拓海の言っていた通り、飲み会——“愚痴り大会”は、この二週間一度も開催できていない。

毎日二十一時前後までの残業が当たり前で、そこからはさすがの杏華も一杯という気にはなれず、会社と自宅を行き来するだけの日々だ。


(終わったら盛大に飲み明かしてやる……)


そんな未来だけを心の支えに、ビールの代わりに炭酸を呷っていたその時——


「安積?」


思いがけず飛んできた柔らかい声に、反射的に振り返る。


「国立部長……お疲れ様です」


まさかここに国立が現れるとは思わず、杏華は慌てて立ち上がる。


「しゃがみ込んでたから、具合悪いのかと思ったよ。大丈夫?」


「大丈夫、です。疲れてはいますが…」


くすっと笑った国立は、自販機のボタンに手を伸ばす。

部長室で優雅にコーヒーを飲んでいる姿ばかり見ているから、缶コーヒーを手にする姿さえ庶民的に見えてしまう。


缶を開け、一口飲んだあと、国立が何気ない口調で尋ねた。


「清水とは順調?」


その何気なさに反して、この疲労の原因を正面から突き刺すような質問に、杏華は分かりやすく肩を落とした。


「…順調どころか、この二週間で心が荒みました……」


国立は軽やかに笑う。


「二週間もてば、もう大丈夫だよ。それに——あいつ、安積のことを評価してたよ」


「……評価?」


「うん。“俺が仕事を任せたいのはああいう人間だ”ってね」


「……えっ、清水さんが……?」


「そう。あいつが誰かを褒めるのは珍しいよ。だから自信持って」


杏華は、呆然と瞬きをする。


「そんなふうに思ってるようには……全然見えないんですけど…」


「清水は分かりやすいタイプじゃないからね」


「……褒めるならちゃんと直接お願いします、とお伝えください」


杏華がぷいと顔を背けたのに、国立は吹き出しそうになるのを堪えたように口元を緩めた。


「はは。言っとくよ。ちゃんと優しくしないと嫌われちゃうよ、ってね」


——すでに嫌いですけど。

喉まで出かかった言葉を飲み込み、杏華は肩を竦めて呆れたように笑う。

国立なら、本当にそう言いかねない。

もっとも、それで清水の態度が改善するとは到底思えないが。


けれど——

清水がそんな風に自分を評価していたと知れたことは、正直、嬉しかった。

疲労感も、荒んだ心も、どこかふっと軽くなったけれど——杏華はそれを、炭酸のせいにすることにした。



°・*:.。.



翌日。

国立との会話を思い返すたびに、杏華のキーボードを叩く指はわかりやすく軽やかに跳ねていた。


杏華は昔から“褒められて育つタイプ”だ。

負けん気もあるし打たれ強くもあるけれど、やっぱり褒められた方が圧倒的に気持ちがいい。

特に、こういう——お世辞を言うタイプではない人間の言葉は、変に飾られていないぶんまっすぐ響いてくる。


ちらり、と向かいで無表情に資料へ目を落としている清水を盗み見ると——


「……っ」


あっさり視線がぶつかり、杏華は慌ててモニターへ視線を戻し、何事もなかった風を装ってキーボードを叩き始めた。


けれど——


「おい。俺を見ている暇があるならこれを直せ。データの出典が曖昧だ。それと三ページ目の数値、算出式が違う」


モニターの視界を遮るように資料が降ってきた。

杏華はそれを反射的に受け取りながらも、反論の口を開きかける。


「はい?別に見てませ——」


「それからこれもだ。表現が冗長すぎる。要点は三行で済む内容だろう。あと、誤字脱字。疲れてるのか知らないが、読んだ瞬間に萎える。気をつけろ」


杏華の言い訳は最後まで許されず、嫌味のような言葉とともに追加の資料が積み上がった。


その瞬間、昨日の国立の言葉が、実は適当な社交辞令だったのでは?という最悪の疑念すらよぎる。


鬼の清水にも人を認める心があるのかと、少しでも見直した自分が馬鹿みたいだ。


(……どこが“評価してる”のよ、ほんと)


けれど、清水の指摘はどれも的確で反論する隙がない。

悔しいが正論だ。

そう自分に言い聞かせて、杏華は黙って手を動かし続けた。


その日も、時間はあっという間に過ぎ去っていった。


杏華をはじめ、佐々木も田端も外出の予定はなく、本来なら比較的落ち着くはずの一日だった。


けれど——企画案の精査、SNSデータの補填、クライアント向けの調査項目の洗い出し。


椅子に縛りつけられて、息をつく暇すらない。


ここ数日で、田端のデスクにエナジードリンクが並ぶのは、完全に見慣れた光景になっていた。


ふと顔を上げれば、オフィスのざわつきは徐々に静まり、時計の針はいつの間にか二十時を過ぎている。


残業が多い会社とはいえ、監査の目は厳しい。

よほどの理由がない限り、二十時には課長から帰宅の声がかかる。


佐々木と田端も、どれだけ仕事が残っていようとその時間にはきっちり帰している。


けれど、二十時を過ぎても杏華と清水が残っているのはもう、暗黙の了解のようになりつつあった。


「じゃ、戸締りだけよろしくな」


そう言い残して鳴海が帰っていくのも、もはやデジャブ。


そして結局今日も、二十一時になっても杏華と清水のデスクだけは明るく灯っていた。


「安積、さっきの案の軸はそれでいい。だが——」


清水が向かいの席から淡々と指摘を投げる。


「世界観の言語化が甘い。ターゲットの心理導線も一本に絞れていない。今出している案は方向として悪くないが、ブラッシュアップが必要だ」


「……了解しました。じゃあ、ここのペルソナをもう一段深く掘ってみます」


「それなら、過去のキャンペーンをもう一度洗い直せ。“何が外れたのか”を整理すれば、打ち出すべき軸も見えてくる」


「分かりました」


疲れているはずなのに、会話の中で新しい視点が拓けるたび、頭は勝手に猛スピードで回転していく。

この閃きを逃すまいと、杏華はキーボードを叩き続けた。


けれど——


「……今日はもういい。帰れ」


清水が時計を見やりながらそう言った。


「えっ、無理です!」


杏華は顔を上げて即答する。


「今、めちゃくちゃアイデア浮かんでるんです。ここで帰ったら絶対冷めます!今詰めます!」


勢いのまま前のめりになった杏華を、清水は一瞬だけ呆気に取られたように見つめ、それから「そうか」と短く返してモニターへ視線を戻した。


杏華もすぐに椅子を引き寄せ、画面へ身を乗り出す。

箇条書きでもいい、とにかく頭に浮かんでいるものを一気にテキストへ吐き出していく。


すると。


「…この仕事が好きか?」


唐突な問いかけに、杏華は画面から目を離さないまま即答した。


「ええ、とても」


その返事に、清水の声がいつもよりわずかに低く落ちた。


「それほどにいいことはない。生きていくために嫌々働き、会社では抜け殻になっている人間なんて山ほどいる。だが君は違う。——君のような人間はどんどん成長していく」


「な、なんですか急に」


いつもと調子の違う言葉に、杏華はようやく手を止め、清水へ顔を向けた。

清水は手にしていた缶コーヒーのラベルに目を向けたまま、表情も変えずに続ける。


「褒めるなら直接そうしろと言ったことに素直に従っているまでだが」


「それってまさか、国立部長から…?」


「ああ。そうだ。君は負けず嫌いのようだから、貶された方が燃えるタイプだと思っていたが…褒められて育つ方なのか?」


清水は視線をあげ、杏華の目をまっすぐ捉える。


「確かに負けず嫌いですけど、褒められた方が嬉しいに決まってるじゃないですか」


杏華が小さく唇を尖らせると、清水はふっと鼻で笑った。


「飴と鞭をうまく使い分けろということだな」


「清水さんの場合はきっと九割が鞭ですよね」


もはや鞭しか振るわなさそうな男に、杏華は思わず頬杖をつきながらため息を零した。


「それが俺のやり方だ。その代わり——残りの一割は相当甘いから覚えておけ」


——覚えておけ、なんて言われても…と内心で口をへの字にする。


「私にそんな甘い飴をくれる日なんて来ます?」


「さあな」


清水のそっけない返事に、杏華は——ですよね、と心の中で小さく息を吐き、頬杖を外そうと身を起こした。


その時。


「……君が欲しいと言うなら、応えてやるだけだ」


清水はそう言いながら、ほんのわずかに目を細めた。

その口元には、微細なはずなのにやけに存在感のある笑みが浮かぶ。


挑発的、と言えば確かにそう。

けれど——その整った顔立ちに乗った甘さは、反則に近い破壊力で。


(なに……それ…)


杏華は返す言葉を失い、咄嗟に視線を手元へ落とした。


不覚にも胸が高鳴った自分が悔しくて、それを打ち消すようにキーを叩く指先に力がこもる。


静まり返ったオフィスに、杏華のキーボードの音だけが澄んで響いた。

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