暴君上司の甘い支配に囚われて

千ノ晴璃

Prologue


「どういうこと…」


封筒から取り出した用紙を手に、杏華は愕然とした。

「辞令」という文字が真っ先に目に飛び込んでくるが、あとは無駄な装飾も愛想もない、ただ黒いタイピングされた文字だけが並べられた紙切れ一枚。

そこには確かにこう書かれてある。


『安積杏華 殿

四月一日付で、広告企画部一課から広告企画部二課へ異動を命ずる。

 兼ねて、広告企画部二課 アシスタントチーフを任ず。』


何かの間違いではないか——間違いであって欲しい。杏華は強くそう思った。

思ったというより、願ったという方が相応しいかもしれない。

これが間違いであってほしい。

しかし、辞令に間違いなどあってはならない。

だとすれば——


「また、アシスタント…?」


口に出してそう呟けば、文字だけで示されたそれが現実を帯びていくように感じた。

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