日々
@myulo
第1話
小さな意識。大切で難しいものだと思う。
スポーツでのフォーム、数学での計算ミス、日常での物忘れ。
小さい意識を忘れずに向けることで大きな一つを完璧にすることができる。
人に意識を向けると、髪型や言動の小さな変化に気づくことができる。だが私にはどうも向いていないようで。
炊飯器をよく閉め忘れる。米がカピカピになる。引き算が苦手である。二桁になると暗算ができない。フォームがよく崩れる。すべての競技において。
だが、苦手だったのは"小さな意識"である。
私は昔から、"大きな思い込み"をすることが得意だった。
『私は虫が嫌いだ。』
去年まではベタベタ触っていたバッタが気持ち悪く見えた。
『私は明るい人間だ。』
恥ずかしがり屋で人見知りな性格が、以前とは別人と思えるほど積極的に発言できるようになった。
『私は真面目な人間だ。』
過去の自分が異常者に思えるほど、規律を重んじる性格になった。
一つ一つ呪いをかけて、全く違う人間を作り上げてゆく。
それに比例して、一人になった時だけに出てくる自分への嫌悪感も増えていった。
外での笑いが増えた。どんな褒めも、貶しも罵倒も嫌味も。笑って流せるようになった。
家での涙が増えた。一人部屋で、刺さった針を抜けずに布団に沈んでいた。
怒られることがないのが自慢だった。教師から認められる手本のような生徒だった。
怒られることが一番の恐怖になった。私1人に向けられた怒りでなくとも、重いストレスを感じる。これから怒られるというだけで、胸が凍るような恐怖を感じた。
たくさん褒められた。テストの点も、評定も、何かを人前で発表するのも。学級ではいつも私が一番だった。
家で褒められないことに気がついた。私がどんなに良い点を取ろうと、どんなに素晴らしい結果を残そうと、両親の目には、それを上回る誰かが私の上に常に居た。
正反対になってしまうそれらは、私が小さな意識を積み重ねられないからだと気がついた。
そんなこと気が付いていた。ずっと前から。
それでも治らないのは私が努力をしない怠惰で傲慢な人間だからだ。
人を自分より上か下かで判断し、愚痴が絶えず、虚言を吐き、裏切り、猫を被る最も姑息な人間だからである。
これに気が付いてしまった。
自分にはなにも結果も賞賛も、求める資格などないのである。それが辛い。可哀想な人間でいたい。だが努力なんてしたくない。最初から全て持ち合わせている人間として生まれてきたかった。あいつが妬ましい。
だが、それの感情を私に向ける者もいるのだと、人を見下し、今日も正気を保っているのだ。
日々 @myulo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。日々の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます