一生忘れたくない恋愛をしました。

おこめ

出会いと別れ

普段は普通の会社員として働いている私が、

9月の1週間だけ大阪万博の社員スタッフとして働くことになり、休憩時間にお土産を買いに行ったときのことです。

レジに並んでいるとき、ふとあたりを見渡して、ほとんどのスタッフが女性の中、1人だけ高身長の男の子が目に入り、かっこいいなと思いました。

20個ほどあるレジの中でその子にあたる確率などほぼなく、視力悪めの私が異性をかっこいいかもと思うのは日常茶飯事なので、そんな気持ちは頭の中から一瞬でどこかへ飛んでいきました。

並んでいる間も、ついで買いを促すレジ横のお菓子やミャクミャクグッズを買うか買わないかで頭を悩ませ、あっという間に列は進み、気がつけば、案内されたのはあの男の子のレジでした。

男の子は決して手早くとは言えないくらいマイペースなスピードで商品のバーコードを読み取り、商品をカゴからカゴの外へうつしていきます。東京から来ていた私は、職場や友人、北海道に住む家族へのお土産を大量に買っていたこともあり、お土産屋さんのレジ対応にしてはだいぶ時間がかかりました。その間にふと彼の顔を見て、近くで見てもかっこいいかも、と思いました。そんなことを考えているうちに、レジ打ちがおわっていました。

彼は目の前のお土産の数とレジの画面を見比べ、少し笑って言いました。

「あれ、数が合わないっすね(笑)」

え〜なんでだろう、買いすぎてるからですよねとか言って笑いながら一緒に数を確認する私。2人で何回か数え直した結果、結局レジ袋をカウントするのを忘れていただけでした。


「よかったです」とホッとする私に

「どこから来たんですか?」と商品を袋に詰めながら彼が聞いてきたので、

「東京です!」と答えると、会話が続き、


「へ〜いいですね!旅行でですか?」

「いえ!会社のスタッフで!そこのパビリオンにいます!」

「えっまじすか!あとで休憩のとき行っていいすか?」

「ぜひぜひ!」


こんな縁もあるんだなあと思いながらお店を出てパビリオンに戻り、お昼ご飯でも食べようと思ったとき、自分のシフト表を見て、ふと心配になりました。彼が本当に会いに来るかはわからないけれど、今日私がスタッフで外に出るのは15時以降だから、彼の休憩時間と被らないかもしれない。担当場所も変わるから、もしかしたら私を見つけられないかもしれない。ぜひ来てくださいとか言っておいて、いなかったら申し訳ないなあと。真面目すぎる私は、それをいますぐにでも伝えに行かなきゃと思い、急いでお店に戻って彼のことを探しました。

しかし、さっきのレジに、もう彼はいません。お店の中を一周しても見つけられなかったら諦めようと思いましたが、お店の奥の真ん中で品出ししている彼を見つけました。

よかった、見つけた!と思いました。


「すみません!さっきレジでお話しした、」

「おお、どうしたんすか!」

「私今日15時以降じゃないと外にいなくて、しかも場所もいろんなところの担当があって、もし本当に来てもらってもいなかったら申し訳ないなと思って、どうしてもそれを伝えなきゃと思って、きました」

「わざわざありがとうございます(笑)大丈夫ですよ(笑)」

「それだけです(笑)では(笑)」


彼には言いませんでしたが、彼がかっこよくて、とても優しそうな人だったからより一層、わざわざ戻って伝えなきゃと言う気持ちが強くなったのだと思います。


夕方日が沈みそうなころ、本当に彼が顔を出しに私のところへ来てくれました。来てくれた時間帯はそんなにお客様もおらず、比較的自由時間が多めな担当場所だったため、ちょっと立ち話することができました。


「最初受付のほう行ったんですけどいなくて、2回目探しに来たら会えました(笑)」

「さっきも来てくれてたんですか、ごめんなさい!」


そのあと、お互いがどこに住んでるかや、年齢、出身地など、他愛もない話をたくさんしました。

彼の休憩時間が15分間だったこともあり、すぐにお別れの時間が来てしまいました。

最後に彼から、

「これも何かの縁な気がするのでインスタとか聞いてもいいですか?」

「ごめんなさいインスタやってなくて。LINEだったらやってます!」

「えっLINE逆にいいんですか」

「むしろLINEしかなくてすみません」

と連絡先を交換することになりました。


じゃあまた、と言ってお別れし、その日の夜に私から連絡をしました。彼が直後に南米旅行に行ってしまったこともあり、連絡頻度は下がり気味に。私もそこまでの熱量はなかったので一旦連絡は途切れてしまったのですが。

10月上旬に、もっと話してみたかったなあとふと思い出す瞬間があり、もう一度連絡をしてみました。

するとタイミングよくすぐに返信が返ってきて、高校生ぶりに秒速のLINEをしました。次の日の電話で意気投合し、一気に仲が深まり、毎日連絡を取り合うようになりました。約1ヶ月の間、電話やボイスメッセージを繰り返し、毎日お互いのことをたくさん話しました。

将来のことを真剣に考え始めている社会人の私とまだ大学4年生の彼との間には気持ちに差があるかもしれないことを懸念しつつ、まずは好きな気持ちを優先したいと思った私は、彼も同じ気持ちでいてくれたら嬉しいなと思いながら、何もなければこれで最後にしようと思い、10月下旬、彼に会いに行くことにしました。

初めて万博で出会った日から1ヶ月半ほど経って2回目の再会。彼はありえないほど緊張していて、最初は目も合わないくらいでしたが、ご飯を一緒に食べたり、カラオケに行ったり、飲みに行ったり、徐々に緊張が解けて、距離が縮まっていくのを実感して、嬉しかったです。

あっという間に夜になり、彼が予約してくれたイタリアンレストランでディナーをいただきました。彼が今まで言えなかった大切な話を打ち明けてくれたことで、私も思っていたことを正直に話すことができました。そしてそこで、彼に、俺の彼女になってほしいと言われました。

限られた時間の中での日帰りデートでしたが、最初から最後まで思い出深い1日でした。


出会ってから4ヶ月、付き合ってから2ヶ月弱。短い期間ではありましたが、私にとっては本当に濃い時間でした。毎日が楽しくて、彼のことで頭がいっぱいで、数年間一緒にいたんじゃないかと思うくらい濃密な時間でした。


別れ話をされた日、彼に言われました。

「距離が離れてるとこんなに気持ちって薄れていってしまうんやな。与えてもらってばっかりで、優しくしてもらってばっかりで、これが恋愛としての好きなんかもわからんくなった」


LINEの頻度が減って、話す内容も薄くなって、彼からの電話の数も減って、気持ちが離れていることに気づき始めて、彼の気持ちがわからず毎日不安で仕方なくて、そんな自分が嫌になって。

そんな中で彼から言われる言葉は想像できていたはずなのに、実際に大好きな彼を目の前にして、最悪な事態が起きたとき、私はなんの言葉も発することができませんでした。

それでも冷静に、私は歳上だから、彼の気持ちは冷めてしまったんだから、物理的な距離はどうしようもできないからと、頭と心でなんとか自分の気持ちを落ち着かせようと頑張りました。

その数分後、

「まず、一緒に過ごそうと決めたクリスマス前の土日に、こんな気持ちを抱いたまま私に会いに来てくれて、言いづらいことを言葉にしてくれて、ありがとう。

私はまだ好きな気持ちがあるから悲しいけど、こればっかりは仕方ないね。」

と笑って伝えることができました。


幼い頃の悔し泣きしか涙を流した覚えがないくらい滅多に泣かないと話していた彼が、お別れの日のバス停で涙目になっていた姿を忘れられません。

それに比べて涙脆い私は、別れ話をした時は耐えられたものの、その日の夜も、次の日のお出かけ中も、最後のバス停でも、彼の前でたくさん泣いてしまいました。

こんなにも泣いて、悲しい気持ちになるのは、彼が私のことを心から愛してくれた過去があったからだと思います。そして、こんなにも辛く、ご飯も喉を通らないのは初めてだったので、人の痛みというものを知り、周りの人たちに助けられたことで、人の温かみも実感することができました。まだまだ完全に立ち直れたというわけではないですが、同じような経験をされた方に共感したり、寄り添ったりできるような人間になれたと思うと、人として少し成長できたのかなと思います。


結婚と出産を人生の目標にしている社会人の私が、

ある程度いろんな経験をして、いろんな人と出会い、いろんな思いをしてきたこの私が、

遠距離で、しかもまだ学生の彼と付き合うということを決断するには、相当な覚悟と勇気が必要だったはずなのに、そんなの余裕で乗り越えられると自信を持って思えたのは、彼がそれ以上に魅力的で、かっこよくて、男らしくて、私のことを大切にしてくれる、温かくて素敵な人だったからです。付き合うまでにもいろんな話をして、将来を考えられるくらい濃い話をして、私にとって、本当に理想の男性でした。

でも、私と彼との間で、その覚悟や意思の重さに違いがあったのだと思います。当たり前に、学生の彼には未来があって、これから出会いもたくさんあって、私との出会いや時間は彼にとって一時的なものに過ぎない。この関係性にかける思いも、向き合い方も、決断までの思いも、悲しいけれど温度差があったのだと思います。

まだ学生で自由奔放な彼、愛情表現を態度で示す男らしいところも相まって、遠距離恋愛は難しかったのかなと思います。学生と社会人という違いと、遠距離恋愛という大きな障壁を、もっとしっかり難しいものと理解して、今この年齢で立ち向かうべきものなのかと考えていたら、こんなに好きになる前に、踏み込むことさえせずに済んでいたのかもしれません。私もまだまだ、考えが幼かったなと思います。


そして、好きな相手に対して気を遣いすぎて自分を後回しにしてしまうところや、異常に優しくしてしまうところが私の悪いところで、直したい部分でもあり、今回の彼にもその部分がよくなかったと言われてしまいました。ひとつ言い訳をするなら、遠距離じゃなかったら、もっと近くにいたら、ほんとはすぐ会いたかったし、もっとわがまま言いたかったし、突然会いに行って困らせたりしたかったし、もっと彼に甘えられてたと思います。

彼には言えませんでしたが、遠距離恋愛だと、なかなかわがままを言うにも限界があることをほんとはわかって欲しかったです。

ただきっと、遠距離恋愛をするうえで彼が私に求めていたのは、私が口にしていた電話したいとかLINEしたいとかそんなことではなく、実際に会った時にもっと素直な気持ちむき出しでわがままを言ったり、私の気持ち最優先で行動して欲しかったとか、そういうことなんだろうなと思います。


付き合うまでの思い出も、付き合ってからの思い出も、ずっとずっと楽しい思い出ばかりで、どんな時も明るい声で私の名前を呼んでくれた彼の声を忘れられません。


こんなに素敵な彼だから、絶対幸せになってほしいし、ずっと笑っていてほしいし、いつまでも元気に過ごしていてほしいです。

そして私も、もっと素敵な女性になって、

これからの人生を謳歌したいと思います。


もう会うことはないかもしれないけれど、

私と出会ってくれたこと、本当に感謝しています。


私に初めて愛を教えてくれた人です、本当にありがとう。

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