Bitter Love
PW-10
Episode:1「in 3 month」
もしどんな結末でも、君を本気で想えたなら―――。
2035年9月17日
高校に入学してから5ヶ月が経って、分かったことがある。
―――今の自分は、孤立している。
ただ、クラスの人と全く話せないわけではなく、別に話そうと思えば話せる。けれど、休憩の時間は大体気付けば一人になっていて、みんな別の友達と話しているから、今の自分は入る輪を失ってしまっているような......そんな気がする。
「楽しい高校生活を過ごせてる?」って聞かれたら、きっとすぐに答えは出せないと思う。
「じゃあ、この問題出来たら周りの人と確認してください」
と、先生は言った。近くの人と自分の回答が合ってるか確認をする。その繰り返しの日常に、「早く授業終わってよ」と、最近の自分は時間の流れを待つばかりだった。
すると好都合にチャイムが鳴り、先生は授業を中断せざるを得なくなった。
「...あ、鳴っちゃった。じゃあこの解説は次回やるから、それまでやっといて下っさい。お疲れ様でした、終わりましょー!」
明るい先生の声、いつも楽しそうなクラスメイト。それとは対照的な自分がこの教室にいるのは、少し場違いなんじゃないかとさえ思えてきた。
「起立!」
その室長の声で生徒たちは立ち、「ありがとうございました」と一礼して、昼休みになった。
トイレに行ってて手を洗い、教室に戻り、自分の席で一人、黙々とお母さんの作った弁当を口に頬張る。窓から見る景色は、いつも消えてしまいたいという存在を忘れさせてくれて、差し当たる日光が暖かい。ずっとこの景色だけを見ていたいと思った。他の人達が机をくっつけて食事の時間を、楽しそうに過ごしているのを見てると、負の感情が加速して止まらないから。
弁当を完食した自分は、予鈴の鳴るあと20分の間、何をして時間を過ごそうかを考えていた。ずっとこの景色を見るのもいいけど、それだと変な人に見えるだろうから。教室にいても話す人もいなけりゃやることもないな、と退屈な気分で水を飲もうとしたら、運の悪いことに、今日も水筒にもう水がなかった。そこで自分は、少しなら、時間潰せるかなと思って、ウォーターサーバーに水を汲みにいくことにした。
出来るだけ多く時間を潰したかったから、いつもよりも歩くスピードを遅めた。
廊下を歩いていると、生徒が移動する足音や話し声が聞こえてきて、教室の廊下側の窓を開けて話をしている人たちの姿や、楽しそうに食事の時間を過ごしてる人たちの姿が目に入ってきた。
オレ...このまま高1終わるのかな。移動中ふと、思ってしまった。
本館から南館の渡り廊下に到着すると、ウォーターサーバーの前に一人の女性が立っていた。彼女の靴の色で、自分は同級生だと分かった。移動中は聞こえたはずの話し声は、もう幻のように聞こえなくなっていて、涼しい風の音だけが聞こえていた。その人は物寂しそうに外を見つめており、水を汲もうとしない。
「あの...水、汲まないんですか」
自分がそう尋ねても返答はなく、彼女は外を見つめたままだった。「あの、聞こえてるんですか」と言いかけた瞬間、彼女はその場に座り込んだ。そこにイスがあるわけでもないのに、地べたに力が抜けていくように、その膝は強く着地した。
「大丈夫ですか!?」
その言葉は反射で出た。そしてやっと、彼女は自分に目を合わせた。
「......あ。ごめんなさーい、ありがとうございまーす」
数秒間の沈黙の後、意識を取り戻したかのように、結構明るめな声で彼女は返してきた。今までの行動は一体何だったんだと、頭の中は疑問で埋め尽くされていた。
「ワタシもう汲んだんで、もう使って大丈夫ですよー。じゃっ」
そう言って、彼女は去っていった。所々に水色に染められた長い黒髪がなびく。そしてその数十秒後、自分は彼女にあった、ある『違和感』に気付いた。
―――あの時彼女は笑顔だったけれど、目元腫れてたよな。
それからの午後の授業は、彼女の姿が頭にちらついてしまったせいで、あまり内容が頭に入ってこなかった。
「ミノル......なんか変なことあってさ」
その日の放課後、自分は中学からの親友・
「いるけど......それがどうかしたの?」
「実は―――昼休み、自分と同じ学年の女子に会ったんだけど、なんかウォーターサーバーの前で座り込んじゃってさ。それで大丈夫か、って声掛けたら、その人はハッと意識を取り戻したかのように、大丈夫って言ったんだけど、確かに目元が腫れてたんだよね。だから何でかな.........って」
ミノルはうん、と頷きながら聞いていた。そして彼は自分に訊く。
「なるほどねー......ちなみに、その人の見た目って、どんな感じだった?」
「うーん......身長が自分より少し下らへんで、長い黒髪をしてたよ。あ、そうそう、所々、水色に染められてたかな」
彼の顔を見ると、死んだ魚のような目をして前を見ていた。まるで生気がなくて、感情が失われたような目を。
オレ、もしかして変なこと言ったかな.........?
「......何かごめんな、黙らせちゃって.........嫌だった?」
「......あ。いや全然。オレは何て返そうか考えてただけだから、大丈夫だよ」
その言葉で少し安心した。
「なんかあの人の行動は、意味が感じ取れなくてさ、正直オレも.........何で泣いてたのは、よくわかんないや」
「...そっか。まあ笑顔でいてくれるといいな、あの人には。」
いつの間にか、電車は最寄り駅に着いていたので、駅を出てお互い"じゃあね"と、手を振り別れた。
―――あの人、何で泣いてたんだろう。
家に帰って勉強をしてる時も、夕食を食べている時も、部屋で一人ギターを掻き鳴らしている時も、風呂に入ってる時も......自分の頭は、ずっとあの人の姿があった。本当に、彼女の行動の真相を知りたかった。
その翌日の昼休み。昨日家に帰ってからはあの人のことで、正直頭がずっとモヤモヤしていて、午前中の授業はいつもより集中できなかった。
「いつもよりも疲れたなー......」
誰にも聞こえないような声量でボソッと呟く。そして数秒後、ある考えが頭に浮かんだ。
―――もしかしたら、またあそこにいけば、いるかもしれない。
気付けば片手には水筒を持っていて、渡り廊下のウォーターサーバーへと脚は動いていた。
目的地に近づくにつれて、水の落ちる音が聞こえてきた。どうやら自分の考えは当たっていたみたいで、昨日会ったあの人が水を汲んでいた。
「また、会いましたね」
自分が言うと、昨日と同じくどこか物寂しそうだった彼女の表情は一変し、明るい笑顔で自分に微笑んだ。
「あ、昨日の人!どうぞ、ワタシもう汲み終わったんで使ってください」
どうも、と言って自分も水を汲む。今日は目元は腫れていなかったから、きっと何もなかったんだな、とホッとした。
「...あの」
もう行くのかなと思ってたけど、彼女は自分が汲み終わるのを待っているように見えた。
「どうしたんですか」
「...もし時間あれば、ちょっとお話しませんか。昨日のお礼、したくて」
正直急にどうした、と思ったけど、その後の一言で納得がいった。
「大丈夫ですよ。あそこにベンチがあるので、そこで話しましょ」
そう言って、二人で『メインストリート』と呼ばれている場所にあるベンチに移動し座った。
「改めて、昨日はありがとうございました。コレ、お礼ですっ」
すると彼女は、ポケットからペットボトルに入ったカフェラテを取り出した。ただ、勝手に身体が動いただけなのに、とても親切な人だ。
「受け取っていいんですか?とんでもないですよ」
正直、なんて返せばいいのか分からず、言葉に詰まりそうだ。
「いいんです、私がしたいと思ってしたんですから。受け取ってください」
ココまで優しさを向けられるのはあまり慣れてないから、この一本のペットボトルが自分にはとても重く感じられた。
「ありがとうございます」
お言葉に甘えて、自分はそのペットボトルを受け取った。
「よく、あそこには行くんですか」
今日はちょっと、流石にタイミングが完璧すぎたから、つい気になって聞いてしまった。
「行きますよ。私喉が渇きやすくて、午前中の授業で、水筒空にしちゃうんですよねー」
同じだ。自分とこの部分が共通する人は、一体何人いるのだろう。
「ボクもです。授業中、喉渇いちゃいますよね」
「あははっ」
それからは他愛のない会話で、時間を潰した。正直夢みたいな時間だった。けどその時間は、予鈴とともに終わりを告げてしまった。
「...そろそろ戻りましょうか」
ココで自分は、一番大事なことをまだ聞いていないと気付いた。それじゃあ、と背中を向けて去っていく彼女に、自分は「あの、」と呼びかける。すると振り返って、どうしたのと彼女は言った。
「名前、聞いてもいいですか」
昨日訊こうとしたことだけど、彼女はすぐに行ってしまったから、言うタイミングがかなり遅くなってしまった。
「2組の
2組......てことは、ミノルと同じクラスだ。
「......7組の
そう返して、背中を向けて去ろうとした。けど彼女のある一言で、身体の動きは止まった。
「あ、待って、私君と同級生だから、敬語外して大丈夫だよー!」
それに自分はうん、と返して、「じゃあね」と二人同時に別れた。
―――白石、美月さんか。
こうして、思いがけない形で始まった。『3ヶ月間の物語』が。
-To be continued in Episode:2-
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