糸式寛睦様へ

縁章次郎

糸式寛睦様へ

糸式寛睦いとしきひろむつ様へ』


 ぽん、と鳴った通知音。開いた就活アプリのメッセージに入っていたのは、見知らぬ名前へ宛てたメッセージだった。

 珍しいな。それが最初の感想だ。こう言ったアプリで送り先を間違えられるなんてことは起きたことがなかったからだ。

 就活アプリの情報は、一歩間違えれば個人情報のオンパレードだ。個人の情報を他者に渡した、ともなれば、企業側からもこちら側からも信用をなくしてしまうだろうし、名前だけであっても他者に知られたくはない人もいるだろう。

「いとしき、ひろむつ様、ね」

 だから私は最初、メールを見ずに消して、そうして問い合わせに他人宛のメールが送られてきたのだと報告をした。間違われた相手方の名前は必要だったから、そこだけ申し訳ないなと思いつつも覚えて記入する。

 問い合わせの返信には最大で一週間かかる事もあるらしいが、今回は報告ができたらそれで満足だったので、問い合わせができた私は返信を気にすることはなかった。


『糸式寛睦様へ』

 二度目にそのメッセージが入ってきたのは、問い合わせを送って、三日後のことだった。

 問い合わせにまだ気がついていないのだろうか、と私は首を傾げる。糸式さんの担当者が私のことをずっと糸式さんだと思っているのだろうな、と苦笑して、またメッセージは消去した。問い合わせは一度しているし、いいか、と思ってしなかった。


『糸式寛睦様へ』

 その二日後、また同じメッセージが届いた。また私は消去する。糸式さんも担当者も双方が困っていそうだな、と思いつつも、私にはそれ以上にできる事もない。


『糸式寛睦様へ』

 再び、メッセージが送られる。二日後の事だった。流石に問い合わせが届いた頃だろうと、私は自分の運営からのメッセージボックスを開いた。

 問い合わせについて、と件名が付いた運営からの返信メッセージを開く。届いた日付は今日になっている。中には、他の方へのメッセージを送ってしまい申し訳無かったことと、お手数だが中身を見ずに消去して欲しいことが書いてあった。

 それならば今日届いたメッセージは、担当者にぎりぎり連絡が届かなかったのかな、と勝手に納得して、いつものようにメッセージを削除する。これで、糸式さんへのメッセージも自分のところには届かなくなるだろうと、胸を撫で下ろして、私は自分宛のメッセージを見ることにした。


『糸式寛睦様へ』

 糸式さんへのメッセージが届いたのは翌日の事だった。昨日の今日で間違えてしまうものだろうか、と糸式さんの担当者に呆れてしまう。

 仕方ないからまたメッセージを削除をして、問い合わせを送る。大した手間ではないとは言っても、手間は手間だ。できれば今回限りにして欲しいと思う。

 

『糸式寛睦様へ』

 私は辟易していた。二度目の問い合わせを送ってから三度、同じメッセージが送られていた。一度だけであれば、昨日の今日でたまたま間違えてしまったのだろうとも思ったが、それから三度も送られているのだ。連絡体制が悪いのか、担当者がいい加減なのかは分からないが、流石にやめて欲しい。

 問い合わせの返信が送られてきた今日、返信の中身を見ても以前と同じ文言で、その二時間後には再び糸式さんへのメッセージが送られてきた。


 翌日も、そのまた翌日も、糸式さんへのメッセージは続いた。

 止まらない間違いメッセージに私はため息を吐く。メッセージの通知音が憂鬱になる程だ。二度目の問い合わせから先、合計六通のメッセージが届いていた。最後の三通は、もう気力がなくて消してもいない。

 流石に痺れを切らした私は、自身の担当者に連絡した。問い合わせをしても解決しないのだ。担当外だと言われようとも直接訴えるしかないだろう。

 片手に収まる数度のコール音の後、担当者の爽やかな声が聞こえた。

「もしもし、すみません、就職の話とはまた違うんですけれど、アプリの事で連絡しておきたくて」

「如何なさいました?」

「あの、他の人へのメッセージが届くんです。二度お問合せしたんですけれど、相変わらず届いていて」

 唾液を飲み込み損ねたのだろうか。担当者の喉が詰まる音がした。

「あの、そのメッセージ先のお名前を伺っても?」

「はい。『糸式寛睦様』です」

 担当者が小さく息を呑む。

「あの?」

「メールはお開きになりましたか?」

「いえ、開いていませんが」

「そうですか。あの、そうですね」

 担当者が声を小さくした。

「その事に関して、お伝えしておきたいことがございます。どこかでお会いできませんか?」

「え」

 私は驚いた。直接会って、なんてまるで考えていなかったのだ。そもそも、報告すればそこで終わりの話だと思っていた。それなのに会って伝えたいことがあるなんて、どういう事なのだろうか、と首を傾げる。

「できれば、お願いします」

 どう言う事かは分からなかったが、担当者の声が酷く真剣であったから、私はそれならば、と頷いた。できれば私の近場で会いたいと言うので、程よく近い喫茶店で会うことになった。



 翌日、先に着いた喫茶店で待っていると、男性が一人、私の机に訪れた。

「あの、柳さんですよね?」

「あ、向井さんですか?」

 向井さんは私より少し年上と言った感じの、穏やかそうな見た目の男性だった。声も確かに聞き慣れた担当者の声だ。

「よく私が分かりましたね」

「履歴書の写真をこちらは知っているもので」

 返ってきた答えにそれもそうかと納得する。私は担当者とはビデオ通話を一度も使わなかったので相手の顔を知らなかったが、向井さんはこちらの顔を知っていたのだ。

 互いにコーヒーを頼んで、向かい合わせに席に着く。向井さんはどこかそわそわしていて、落ち着かない様子だった。

「あの、伝えておきたいこと、と言うのは?」

「はい。あの、この事を私から聞いたとは誰にも言わないでください」

 向井さんは、コーヒーを一口飲み込んでから、自信を落ち着かせるように長く息を吐いた。

「まず初めに、柳さんに送られたメッセージの本来の送り先である『糸式寛睦様』は当サービスにいらっしゃいません」

「糸式さんがいない?」

「正確に言うのならば、同姓同名の方はいる可能性はあります。確かめたことがないので分かりませんが。けれど、柳様に送られたメールに書かれた『糸式寛睦様』は存在しません」

 最初から訳の分からない話に私は困惑した。だが、向井さんが何か嘘をついているとか、私を揶揄っているとか、そんな様子は一切ない。

「あの、どう言う事なんですか? その存在しないって言うのは?」

「言葉のままです。存在しないのです。『糸式寛睦様』宛の間違ったメッセージもまた、当社ではそもそも存在しないんです」

 向井さんは、褒められた事ではありませんが、とスマホを見せてきた。表示されているのは一枚の写真。よく見てみれば、それは私のメッセージ受け取り画面のようだった。

「あの、これが?」

「これは私どもから見た柳様のメッセージ受け取り画面になります。ここに、『糸式寛睦様』宛のメッセージは表示されていません。消去されたものにも、メッセージはありません」

 向井さんが画像をスクロールした。それは見慣れない画面であったけれど、確かに私が削除したメッセージの画面であるようだった。けれども。

「え」

 どこにも糸式さん宛のメッセージはない。

 そんな筈は、と画像を大きくしてもらって、細かく見ていくが、あの何通と送られたメッセージは影も形もなかった。

「あの、これは」

「存在しないんです。『糸式寛睦』様宛のメッセージは」

 意味がわからなかった。私は確かにメッセージを受け取っている。確かにこの目で確認し、何通かは削除せずに残してある。それなのに運営側には存在しないなど、あるわけがないのに。

「私の元にきたメッセージは、じゃあ、なんなんですか」

 向井さんの顔は曇っている。そうして青褪めていた。

「私も詳しく知っているわけではないんです。でも、会社には暗黙のルールがあって」

「暗黙の? それは私が聞いてしまっても?」

「本当は駄目なんです。でも私は、放っておくこともできなくて」

 放っておけないと言う向井さんの顔には、それでも僅かに迷いがあるようだった。言うべきか言わざるべきか迷ってなお、彼は私のために会社の暗黙を教えてくれようとしていた。

 向井さんは、コーヒーを一口飲んでから、湿らせるように唇を舐めた。そうして、一度深呼吸をしてから私を見やる。

「『糸式寛睦様』宛のメッセージを受け取った人には、関わってはいけない。メッセージを受け取った人は居ないものと思え。それが暗黙のルールです」

「その、関わってはいけない理由を聞いても良いですか」

 向井さんは、息を吐いた。吐いた息は震えていた。

「よくないことが起こるから、です」

「よくないこと」

 曖昧な表現だった。それでも言葉の響きは重く、不穏だった。

「私もぼんやりとしか聞いたことが無いんです。失明したとか、事故にあったとか、そう言うよくないことが起こると。先輩は言葉にしませんでしたが、多分、いえすみません。とにかく、よくないことが起こるので、関わるべきではないと」

 濁した言葉の先は、最も良くないものだと私は思った。けれどもそれを深掘りする気にはなれず、違うことを口にした。

「では、もらった人にも、同じようなことが?」

「分かりません」

「関わらないから、その先がどうなるか知っている人が居ない、と言う事ですか?」

「そうです。けれど、先輩に聞いたことがあるんです。『糸式寛睦様』宛のメッセージが届くと言うことは、送られた人間は『糸式寛睦様』であると」

「それはどう言う?」

「それも分かりません。でも良い話ではないと思います」

 眉根を下げた向井さんの顔色は酷く悪かった。

「私は今日、柳様にメッセージを開かないようにと伝えにきました」

「開かなければ、回避が?」

「できるとは言いきれません。これも先輩に聞いた話になります。『糸式寛睦様』宛のメッセージに関して、退会まで何度も問い合わせをしてきた登録者様がいらっしゃったと聞いています。問い合わせてきたと言うことは無事だったと言うことです。メッセージを読まずにずっと削除していたそうで、結局登録者様は退会されていった時までメッセージを開くことはなかったそうです」

 ほとんど一息に言って、向井さんはコーヒーカップに口をつけた。落ち着きたいのだろうと思う。

「退会、ですか」

 呟いて、それが最善ではないか、と思った。

 あのメッセージが本当はどう言うものかは分からない。ただの間違いメッセージだと思っていたから、良いものだとか悪いものだとかも考えたこともなかった。けれども今日、向井さんに教えられて、薄寒いものがあったのは事実だ。

 もしも、開かずに無事に退会した人間がいるのならば、それに倣って私も退会してしまおうと思えた。

「私も退会してみようかと思います」

「そうですね、試してみるのが良いかも知れません」

「今日は、教えてくださりありがとうございました」

 私は深々と頭を下げた。関わらないこともできたのに、その上関われば危険があると知っていて、私を案じて教えにきてくれた向井さんには感謝しかない。

「いえ、私は何もできません。私の話したことは不確定な情報です。それに私はもう関わることは出来ません。どうかご無事で」

 向井さんは私に深々と頭を下げて、席を立った。コーヒーはすでに空になっていた。

「向井さんも、どうかお気をつけて」

 私は席を立って、向井さんを見送る。彼は軽く片手をあげて、そうして店を出ていった。

 閉まる扉を見つめながら、私は椅子に座り込む。

「はぁ」

 冷めたコーヒーを啜る。

 単なる間違いメッセージだと思っていたのに、思わぬ話になってしまった。

「退会しないとな」

 アプリを立ち上げる。通知音を切っていたから気が付かなかったが、再び『糸式寛睦様』宛のメッセージが入っていた。

 だが数がこれまでの比ではない。今までは多くても一日に一通だったはずのメッセージは、向井さんと会った時間から先、一時間ほどしか経っていないにも関わらず、すでに十五通入っていた。

 先程の話も相まって酷く気味悪さを感じる。引き留めているようだ、なんてそんな考えが浮かんで、慌てて頭を振った。

 早々にQ &Aから、退会についてを探す。すぐ見つかったそのページの退会するを選んで、必要事項を埋めれば、あとは再三の確認だけだ。全てを読み終え、退会を確定させれば、無事に退会することができた。

「はぁ」

 アプリを削除してから、私は大きく息を吐いた。

 退会ができてしまえば呆気ない。

 これでもうメッセージが送られてくることはなく、『糸式寛睦様』に関わることもないだろう。アプリを削除してしまえば、なんだか今までアプリで積み重ねてきたものがもったいないような気もしてきて、我ながら呑気だな、なんて思った。



「え」

 持っていたスマホが手から滑り落ちても、そちらを気にしてられなかった。夜、風呂も食事も終えて、テレビを見ていた時だ。ニュースが流れた。

 自分の街の死亡事故のニュースだった。テロップには向井さんの文字。

 苗字も名前も、何度となく担当者メッセージに記されていた文字と同じ文字だった。

 詳しいことはまだ分からない。ただ、横断歩道に車が突っ込んで、死亡者は向井さんだけで、そうしてそれは私と別れてからそう時を挟まずに起こったことらしかった。

 私は滑り落ちたスマホを拾い上げる。同姓同名の別人という可能性だってあった。だから、電話で確認しようとして、ふと気がついた。

 消したはずの就活アプリがそこにはあった。

「え?」

 混乱が混乱を呼ぶ。確かに消したはずだ。アンインストールをタップした記憶が確かにあるのに、アプリはスマホの中に表示されている。

 震える指でアプリに触れた。ほとんど無意識で、本当は触れるつもりなんてなくて電話をかけようとしていたのに、私は就活アプリに触れていた。


『糸式寛睦様へ』

 メッセージが届いていた。すでに退会を済ませて削除したはずの就活アプリの中で、それまでと同様にメッセージが届いていた。

 本来、自分の名前が記されているはずの場所には、『糸式寛睦』の文字がある。見慣れた画面に異物が紛れ込んだような違和感があった。

 ぽん。メッセージが入る。

 ぽん。メッセージが入る。

 ぽん。メッセージが入る。

 ぞわぞわとした嫌なものが背中を撫でた。

 消してしまおう。メッセージも、アプリも消して、明日新しい携帯に変えてしまおう。

 頭の中は混乱していた。ただ早く消さなければ、それだけを思って、メッセージの削除を押す。

「あ」

 削除を押したはずだった。今まで何度となくやっていた行為だ。間違えるはずもなく、メッセージに触れてすらいなかった。それなのに。

『糸式寛睦様へ』 

 メッセージが開いた。


『糸式寛睦様へ』

『糸式寛睦様、あなたは糸式寛睦様となります。あなたは存在していません。あなたは我々と共にあらねばなりません。あなたはあなたではいけません。あなたは糸式寛睦様でなければいけません。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました』


 言葉の羅列が脳に直接流し込まれるようだった。

 どうしてか目が離せない。幾つも続く『あなたは選ばれました』の文字に脳が茹だり、吐き気がする。

 何かが胃の腑を掻き回すような不快感と、血の気が下がった寒さで視界がぶれた。

 ぽん。ぽん。ぽん。ぽん。ぽん。

 うるさいくらいに通知音が鳴る。警告のようでもあったし、呼び声のようでもあった。

 『糸式寛睦様』宛のメッセージは、触れてもいないのに次から次へと開いていく。


『糸式寛睦様へ あなたは糸式寛睦様となります。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました』


『糸式寛睦様へ あなたは存在してはいけません。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました』


『糸式寛睦様へ あなたは我々と共にあらねばありません。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました』


『糸式寛睦様へ あなたを遠ざけようとした人間は死にました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました』


『糸式寛睦様へ 削除しても意味がありません。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました。あなたは選ばれました』


『糸式寛睦様へ 迎えにまいります』 


 迎えに行く、それを最後に通知音がぴたりと鳴り止んだ。

 画面の中に、ゆらりと揺れるものが見えた。白い、ゆらゆらとしたもの。

 それが徐々に近づいてくる。

 私は動けなかった。動こうとも思わなかった。

 白い何かは、腕のようだった。枯れ枝のような細い六本の指が見えて、それがゆっくりとこちらに近づいてきて、液晶を通り越してこちらに伸びて、そうして私の顔に触れた。

「あ」

 呼気のように声が漏れた。

 視界が回った。

 最後に、ごきり。

 何かが折り畳まれる音を聞いた私の意識は暗転した。

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