SAYURI

@ohiroenpachi8096

SAYURI ー猫探偵事務所猫野ぶちおー

 SAYURI



プロローグ


「おう、ぶちお。久しぶりだな」


「警部、おひさしぶりです」


「依頼だ。二週間前17歳の少女が山の橋から落とされた」


「見ましたよ。ニュース」


「かわいそうね、その子。まだまだいろいろな経験をする年頃なのにね。はい。警部、サービスのコーヒーです」


「お、すまん」


「メーテル、いつからコーヒーをごちそうする間柄になったんだよ。オレからは取るもの取るくせに」


「あら、いいじゃないの。やきもち?」


「・・・・・」


「じゃあ、ありがたく頂く」


「それで、橋から落とされたってなぜ分かったんですか。事故かもしれない」


「解剖の結果。首をしめられてから落ちたということがわかったからだ。死亡推定時刻は二週間前後だ。後のことはわからん」


「なるほど。で、ほかには情報は?」


「家族、友人関係に話を聞いたが、なにも手がかりはでてこなかった。いまのところ、われわれはお手上げだ。以上」


「は?」


「それだけだ、あとは頼む。われわれは他の事件で忙しい」


「お手上げでなくて、忙しいんでしょ。オレたちは下請けですかね」


「コーヒー美味かったぜ」




第1話


「メタボ、行くぞ。その橋だ」


「うい」


もう12月だ。師走。この事件を早く終わらせて、喫茶白熊のクリスマスパーティーには、スッキリとして参加したい。そう言えば、まだメーテルへのクリスマスプレゼントを買っていない。何がいいだろうか。時計?ネックレス?オレとおそろいのマグカップ?それはもうあったか。彼女は物持ちなのでなにを贈っても、すでに持っているかもしれない。難しいものだ。


「メタボ、おまえはクリスマスプレゼントを贈る相手はいないのか」


「いないです・・・しいて言えば自分でしょうか」


「とりあえず、みいちゃんに贈っとけば?」


「・・微妙」




第2話


被害者は、山野さゆり(17)。2周間前、24時になっても帰宅しないので、父親が捜索願を提出した。夕方から連絡がつかなかったとのこと。これまでは遅くとも21時には必ず帰宅していた。父親が23時に彼女のスマホへかけたが電源が切られていたそうだ。


この土地は、標高の低い山で、ハイキングのコースとして有名なところだ。舗装道路を外れた山道を1時間ちょっとで頂上に登れると聞いた。


「この橋ですね。相当高いですね」


「さゆりは、ここで殺されたのか、別の場所で殺されたのか分からんが、首を絞められて殺された後にここから落とされた。死亡推定時刻は当日22時頃だ。ちなみに橋の欄干には彼女と見られる指紋はなかった」


「ということは、クルマでここまで運んできたと」


「聞き込みでは、事件当日20時〜24時までクルマが3台この辺りを走っていたことが確認されているそうだ。丸角警部からの情報だ」


「彼女の身長体重jは?」


「155の42」


「普通の男ならたやすく投げ落とせますね」


「首を絞めるのもたやすいな」


夜となった今、辺りは街灯もなくひっそりとしている。クルマが止まっていても目立たないだろう。


「ほかに何か気づいたことは?」


「ここは、クルマの走り屋のコースでないですかね。だいたい遠征してきたチームとバトルしていると思います。向こうのガードレールにたくさんに傷があるでしょう、あれはクルマで擦った跡なんではないかと・・・。いや、クルマ好きの意見ですけど」


この先は右に大きくカーブしている。ドリフトというテクニックか。

ガードレールに何箇所も擦ったあとが見える。ここは彼らにとって魅力的なポイントなのかもしれない。


「走り屋のグループに聞けば何か分かるかもな。3台通過して、2台は走り屋、1台が犯人のものなのかもな。後であたるぞ」


「先に、さゆりの親と友人関係に聞き込みするぞ」


明くる日、さゆりの家を訪ねた。

さゆりの家は、山を下りたところにある一軒家で、街からはクルマがあれば10分で行けるだろう。


両親に話が聞けた。

「これまで、一度も門限の9時には必ず帰ってきたのですが、あの日は朝から様子がおかしくて、何かあったのかなと思っていました。なあ」


「そうなんです。一体なにをしていたんでしょう」


母親からは疲労しっきている様子が伺える。 


「様子がおかしかったということですが、なにかトラブルを抱えていたとかありませんでしたか」


「なにも分からなかったです。なあ」


「はい。でも私たちはあの子のことは知らないことばっかりで。もうしわけありません」


「いや、近頃はそういうことはよくあることですよ」


「最後にさゆりさんに恋人は?」


「さあ・・・・・」


「すいません。さゆりさんの写真をいただけませんか」



第3話


ガストでおなじ高校らしき男子生徒に声をかけてみた。高校生にはファミレスが重宝するらしく高校生で一杯だ。


「さゆりに恋人ねぇ。いっぱい(笑)。な?」


「このあいだも、知らないクルマの助手席にいたのを見たけど」



「なにか、彼女にトラブルがあったとか?」


「トラブルというか。おもしろい友達を見つけたって、ニコニコしてたけど」


「メタボ、あとは頼む。聞いてくれ」


「この辺に、クルマの走り屋チームってある?」


背の高い20前後の男が答えた。


「あるある。「ライジングサン」っていうの」


「あの橋をコースにしている?」


「そうだよ。見物に行ったことあるよ。他県のチームとバトルしてる。結構楽しめるよ」


「ライジングサンのたまり場は?」


「静間市の

ズスト。駐車場にそれっぽいクルマがあったら、誰かいるっていうこと。中に入るとすぐにどいつかわかるよ」


「サンキュー」



あの橋から20分のところに、そのガストはあった。

彼に聞いたとおり、それらしいクルマが駐車場に止まっている。真っ青な、これは昔流行った日産コロビアだな。正面のカウルが傷だらけで、外れかかっている。タイヤは大きいやつに交換している。もう1台は、マツダの白いRZ-7だ。マフラーが太くてこちらもタイヤを大きいものに替えている。中を除くと車内には後部座席はなくポールみたいなものが巡らせてあった。車体の強度を補強するためだろうか。



「あれで間違いないですね」


「頼むぞ」


「うい」



すぐに誰なのかもわかった。喫煙席にいる「ライジングサン」のジャケットを着ている4人組がいた。


「ちょっと、キミたちに聞きたいことがあるんだけど」


「あんた、誰?」


「探偵事務所だが。山野さゆりの事件のことを調べている」


「・・・さゆりの事件。オレたちは何も知らないぜ」


「山野さゆりを知っている?」


「あぁ、こんな狭い街だから、皆知っているに決まっている」


「どんな子だった?」


「普通。でも男関係は派手だったかな。オレたちのバトルにも見に来てたけど、前の回と違う男と来ることが多かったし」


メタボが流れよく聞いてゆく。


「こずえさんがあの橋から落とされた日、キミたちはあのコースを走ったか?」


「走ったよ。ちょうど定例会の日だっだよ。でも事件のことは全然知らない。本当だよ。関わっていない」


「その日は何台がコースを走った」


「寒いし、集まりが悪くてオレと速人の2台だけ」


「ほかに参加者はいなかったんだな?そしたら、キミら以外のクルマを見かけなかったか?」


「いや。なあ?」


「オレは見たぞ。あれは黒い軽のワゴンだった。ダイクツのブーブだ。対向車線をゆっくり流していた」


「どの辺りですれ違った?」


「あれは・・・・・・・橋より手前だよ。いちゃつく場所でも探しているのかと思った。とにかく遅かった」



第4話


やはり、当日あの辺りを走ったクルマの3台のうち、2台は地元の走り屋チーム、残る1台が事件関係者か。



「その黒いブーブをのことは、丸角警部に任せよう。オレたちふたりではムリだ」


「うい」



さゆりの交友関係は、さほど広くはなかった。

親友と言われた女子校生のところにやって来たが、普通の身なりをしている。けして派手な子ではない。男関係の派手なさゆりの親友とは思えない。野原しおりというそうだ。


「さゆりさんの親友の野原しおりさん?」


「はい。そうですけど」


寒いので、両親が気を使って家に上がらせていただいた。


「どうぞ温かいお茶です。寒い中ご苦労さまです。なんでも聞いてやってください」


と言って、母親は席を外した。



第5話


「しおりさん、さゆりさんとおなじ高校ですね。ということは、毎日顔を合わせている?」


「そうですけど。わたし何も知らないですよ」


「最近、彼女に変わったことはなかった?」


「さぁ、わたしたち毎日会ってるけど、変わった様子はなかったです。むしろ、うれしそうな顔してた」


「そのことに、こころあたりは?」


「また新しい彼氏でもできたのかなって」


「彼女は、その・・・男性関係が派手だったと?」


「さゆりは、普通の子なんです。だけどそういうとこだけはだらしがなくて。そのことがなければ、ホントに普通の子なんです。それがあんな目にあうなんて、犯人がゆるせません」


と言いながら彼女は悲しみの涙を流した。


「新しい彼氏の名前とか知らない?」


「海野・・ます?アパートは知ってる。一緒に近くまで行ったことあるし。大学の側のとこ。すぐ近くに本屋がある」


「ありがとう」


「普通って、普通でないですよね。男を取っ替え引っ替えして」


「そうだな」




第6話


海野マスオのアパートはすぐにわかった。駅近くで、律儀に表札に海野とあった。


「なんか、おもしろい友達ができたとか、言ってったよ。あ、オレ、事件には関係ないからね。疑わないで」



第7話


「白熊に帰るか」


「うい」


メタボのオープンカーは、なし崩しに社のクルマになってしまっていた。二人乗りのオープンカーなので不便なのだが、しかたない・・・・・。この雪でメタボのハンドルさばきが激しい。


「みいちゃん、コーヒーアメリカン2つね」


「行き詰まったの?」

 

「いや、休憩」



「おもしろい友達とは誰のことだ?メタボ」


「さぁ・・・芸人の友達ができたとか?興味深いひとと友達になった・・・」


「いろいろ考えられるか・・・いずれにしてもさゆりのスマホが行方不明だからな。本体がないことにはどうにもならないらしい。犯人が持ち去ったか」


「はい、アメリカン2つです。なんだ、行き詰まっているんじゃない。「友人」でなくて「友達」なんだから、その呼び方は、「ラインの友達」のことだと思うけど。ほら、若い人は皆ラインをしているでしょ」


「ラインか」


「うい」



「はい、アメリカン2つで800円になります」


「え?丸角警部にはサービスして、まだオレたちからは金取るのかよ!」


「身内には厳しく!です」


「なんじゃ」




第8話


「ラインでおもしろい友達ができたって、そういうようなことをさゆりさんから聞いたことない?」


「ないなぁ。あいつ時間があれば、ラインばっかりやってたから、いちいち気にしなかったよ。もう来ないでくれる」


恋人の海野は迷惑そうに言った。


結局、どの友人や知人からもおなじような言葉しか返ってこなかった。


「出てこないな」



さゆりが通っていた高校の校門近くの電柱のかげに隠れるようにして、適当に声をかけて情報を集めている。



「顔しか知らない」


「あぁ、あのスマホの子ね。影でみんなからは「スマ子」って呼ばれてました」


「早く犯人が捕まってほしい。物騒で夜は歩けないです」


・・・なかなか役に立つ情報が得られない。


「そろそろ引き上げないと警官がくるぞ」


「おい、キミたちそこで何をしている?」


歩いてこちらへやって来る、あれは警官だ。


気がつくのが遅かった。厄介な。



「探偵?探偵が高校の校門前でなにをしていた。だいたい探偵?あやしい、あやしすぎるぞ、いまお前らの身元特定調査をしているから、すこし待ってろ。いかがわしい者でないだろうな」


「こういうことがないように、気をつけてまわりを見ろと言ったろ」


「すみません・・・」



「あぁ、まことにすみませんでした。黒川署の丸角警部殿が電話にでられまして、おたくさま達のご身分が確認されました」


「今後なにかお困りの際は、なんでもいいつけてくださいませ」


「わかればよろしい」


「おい、言いすぎだ(笑)」



第9話


学生たちが放課後に集まるズストで情報を集めていると。


「さゆりね。こないだここで集まっているときに、いやににやにやしてたわよ」


「どうしたん?」って聞いたら、「一緒、同じなの(笑)」って言って、にやにやしてて、気持ち悪かったわよ。


別の子が答えた。


「新しい友達って言ってましたよ。ラインじゃないの」


「そうそう、でもそんなことであんなににやにやするかなって」


「そうよね。変だった。最近のあの子見てたら気持ち悪かったよ。何かのコミュニティでも見てたっぽいけど」


「ありがとう。参考になりました。これ、少ないけど皆でなにか食べて」


「はーい。また何でも聞いて♪」



第10話


「とうやったら、さゆりが参加していたコミュニティを探せるんだ?」


「さゆりのスマホがあるならわかりますが、いまはどうしょうもないです。データの解析ができないから。犯人が持ち去ったんでしょうね」


・・・・・


「彼女が最近興味があったコミュニティ・・・か」


「どうします。この線はここまでかと」



「もう一度、両親のところだ」


このあたりは山が近いので、うっすらと雪が積もっている。平野では今年はまだ降っていない。ライジングサンはもう春までは活動中止だろう。


「何度も申し訳ありません」


「いやぁ、こんな寒い所まで来てくださって真面目に調べていただいていることがわかりますので、ありがたく存じます」


「さゆりさんは、なくなる前になにか変わったことを言っていませんでしたか。ささいなことでも構いません。例えばサークルとか友達とか・・・」


「そうねぇ。なんか名前って口ずさんでたみたいです。「友達。友達。なまえっ!なまっえ!なまえー!」と歌うように。たしかそんなことを。うれしそうでした」



「名前がキーワードですね。来た甲斐がありましたね」




第11話


「はい、ブレンド2つね」


「メーテル、名前で喜ぶことってなんだろ?」


「んー、字画占いでよいことを言われた時?なにかで取材されて、そのことが新聞とかで名前が載っていたとき?あと、だれでも一度はやることは、同姓同名をネットとかで探す?」


「ぶちおさん。それですね」


「それだな。そして友達になった」



第12話


「ん・・・たとえば、「全国の山田さん集まれ」というコミュニティーがありますね。あ、「山野」でもありましたよ。でも参加者は2名の過疎です。ということは、一方は石野の亡くなった山野さゆりさま、一方はどこかの山野さゆり☆ですか。このコミュニティでふたりで盛り上がっています。山野さゆりさまと山野さゆり☆です。この会話から考えるとそうなりますか。

野さゆり、「利用にあったては、責任は各自でお願いします」となっています。



☆「あんた、いくつ?」


さま「17だよ」


☆「おなじだよ笑」


さま「趣味は?」


☆「スマホ!」


さま「だね笑」


☆「ねぇ、彼氏は?」


さま「いるいる」


☆「アタシも!」


さま「会いたいね」


☆「ぜひ」


さま「あんた、どこ?アタシは石野」


☆「わたしは、福木」


さま「なんだ笑」


という具合です。一部意味不明なところがありまして・・・・・若い女の子の言葉使いにはついていけませんよ。この会話から考えると、殺されたのが石野の山野しおりさま、もう一方が山野しおり☆のようです。あと、さゆり☆にも彼氏がいますね。




第13話


「いちおう報告までに。あと、隣の県まで行くので出張旅費をくださいね」


「わかった。わかった」


「黒いブーブの件は?」


「すまん。まだ調査中だ」



第14話


ぶちおとメタボは真っ白な福木に到着した。足元はぶちおがブーツ、ブチオは長靴である。


「おまえはそれでいざという時に走れるのか?」


「え、しまった!」



ぶちおたちが訪れたのは、寒い平野部でも積雪のある一面白いところだ。石野と比べると一段と冷える。

この冬は大雪になるそうだ。JAFは大忙しになるだろう。要請してから到着するまでにかなりの時間がかかるので、待っている時間がおそろしくじれったい。


「寒いですね。でもどうやって山野さゆり☆を探し出します?」


「役所だな、役所に行く。丸角警部にいつもの捜査協力依頼書をもらっている」


「とは、言っても市町村の数は20は超えますよ」


「コミュニティには、その辺りの情報はないのか?」


「コミュニティでの会話でしか・・・情報はありません」


・・・・・・



「20だ。すべてまわって調べる!」


「ついていきますよ」


「あたりまえだ」



福木駅のある市、その隣の市町村、そのまた隣、1日で半分を回ったか、「ビンゴ!」とはいかなかった。だんだんと山間部になっていくので、移動時間は長くなり1日でまわる件数は減ってゆくだろう。


翌日、郊外の市で山野こずえ☆いることがわかった。


「案外早く見つかりましたね!」


「年齢は、今年17歳だ。年齢もおなじだから、間違いなくやまのこずえ☆だろう」


「でも、この先どうやって彼女を探しますか。聞いてまわるにしても・・・」


「・・・・・さすがにどうすればいいか、わからんな。顔も分からん女の子だしな」



第15話


仕方なく、その日はホテルに入った。


「もうちょっと、手がかりになることがあのやりとりにはないか?」


「ちょっと待ってください。読んでいます・・・・長いですから、しばし」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・


「ありましたよ。山野さゆり☆のバイト先は、たぶんすきすた家ですね。どこの店舗かは、もちろんわかりませんよ」


「たぶんとは?」


「さすがに、ばれると困るのでおもいっきりぼかして書いてあります。それと彼氏についての話で盛り上がってます。でも途中から、彼氏についての愚痴になっています。さゆり☆の彼氏が借金があってどうしようもなくダメなやつってぼやいています。でも好きなんだぁと」



「ちなみに「さま」の方は、なにかわかったか?」


「バイトの話はないですね。彼氏と遊んでいると」



第16話


すた家か。捜査依頼書頼みか。


明日だな。蟹と地酒が・・・豪遊するわけにはいかんし。金がない。


とりあえず、明日すた家の事務所でもいくか。




第17話


「おはようごいます。わたくし、石野県の猫探偵事務所の猫野といいます。アルバイトの在籍確認をお願いしたいのですが。お願いできませんでしょうか?」


福木駅前のテナントビルの3階にその事務所はあった。


人事担当の若い男が事務所の奥から出てきた。


「えー、そういうことにはお答えしないことになっております。どうぞお引き取りください」


「これが石野県黒川署の捜査協力依頼書になりますが、これでも無理でしょうか」


男は捜査協力依頼書を、見つめてしばらく考えて「こういうものは、はじめて見るものですから、黒川署の方へ問い合わせしてきますので、しばらくお待ちください」と奥へ帰っていった。


しばらくして、あの男が戻ってきた。


「えー、はい。確認が取れました。失礼しました」


「山野さゆり☆という17歳の女性です。彼女がどの店舗に在籍しているのか、教えてください」


「えー、はい。少々お待ちください」


また奥へと消えていった。


「えー、現在、その氏名、年齢のものは在籍しておりません。以前在籍していたようです。3ヶ月前に半年間働いて辞めています」


「住所はわかりますか?」


「えー、福木市本町2丁目55蟹江マンション102です」


「あと、恐縮ですが顔写真のコピーをいただきたいのですが」




第18話 


山野こずえ☆のマンションは福木駅から駅4つ、バス15分そして徒歩10分のところにあった。


「知りませんよ!ここにはいません。ずっと帰っていません。親にばかり迷惑かけて、どこでなにをしているのかも知りません!お引き取りください」


「付き合っている彼氏については?いるとか」


「あんなの最低な男ですよ。あんなにお金を借りておいて、返すそぶりもないんだから!」



第19話


母親から高校名を聞き、尋ねてみたが以下のとおり相当荒れた人生を歩んでいるらしい。


「山野さゆり☆は確かに本校に在籍しております。しかし、ほとんど登校しておりません。素行にも問題があります。構内でも喧嘩ばかり。親しい友人もいなく、孤立していたようです。このままですと退学処分になりかねません」


生活指導の教員が相手をしてくれた。


「それで彼女がなにか?」


「それが・・・」


メタボがうっかり口を滑らすとこだった。


「申し訳ありません。そのことについては、言えません」



「ぶちおさん、参りましたね、これは。一体どこにいるのやら・・・」


「昼飯は、すた家だな」


「僕は、きちの家の方が好きです」


「オレはたけ屋だ」



第20話

 

さぁ、どうしたものか。皆目見当がつかない。


「・・・・・・・・・・・ぶちおさん」


「なんだ?」


「ラインに似た海外のSNSがありまして、ためしに検索してみると「さゆり☆さまのコミュニティがありました。非常に日本ではマイナーなやつで、海外では人気があります。「ワッツアップ」と言います。これを使っている日本人は滅多にいないでしょうね。彼女たちはラインからワッツアップに移ったんでしょう」


「それで、どんな会話があるんだ」



☆ たすけて


さま どうしたの?


☆ おわれている


さま だれに


☆ わるいやつ


さま いまどこ


☆ ふくきえきのまえのファミレス


☆ こわい


さま これからいしのこれる?


☆ 2じはんにくろさわえきにつく


さま わかった


さま かくまってあげる


☆ いいの?


さま だいじょうぶだよ


☆ ありがと、これからいく


さま くろさわえきでまってる



「「彼氏、借金、追われている、でも好き」出揃ったな」


「そんな感じですね。こずえ☆の彼氏には相当な借金があり、取り立てから逃げている。こずえ☆は一緒にいる。ということは、こずえ☆の彼氏も黒佐和へ来た」



第21話


「山野さゆりちゃん?」


「山野さゆりちゃん!」


「はじめまして」


「はじめまして」


「とりあえずファミレス行く?」


「うん」


さっきから気になっているんだけど、横にいるの男の人は誰だろう。


「あ、彼氏なの。着いてきちゃった・・・」


「え」


こずえ☆ちゃんだけなら、わたしの友達の家でもいいけど、ムリだよ。まして、実家も。別れた彼氏のところは、今さらだし・・「会えるっていう勢いでかくまるとは言ったけど。どうすればいい?マスオに頼んでみようか」


「ごめん、ちょっと電話してくるね」


「そんなのムリ、ムリだ!」


「お願い。マスオ、あなたしか頼れるひとはいない。夜泊めてくれるだけでいいから、あの人たち、お金ないの」


「そのかわり、妙なことは絶対だぞ!そいつらに言っておけよ。日中はオレが部屋にいる。夜になったら、友達のところにでも行くから。わかったな」


「うん、ホントにありがとう」



さゆり☆が心底申し訳そうに言う

「ホントにごめんね。外堀が冷めたら、でてゆくから」



第22話


このごろ、さゆり☆がわたしにお金をせびるようになった。わたしがダメなら、マスオにせがむ。マスオに迷惑を掛けたくないから、結局はわたしが払うことになる。なにに使っているのだろう。


さゆり☆たちがカラオケから笑顔で出てくるのを見てしまった。

いったい自分たちの立場がわかっているのだろうか。


「ごめん、お金は必ず返すから」


「どうやって」


「パチンコとか競馬で」


足元にパチンコと競馬の雑誌が置いてある。


「信じらんない」



第23話


「おい、宏。いるんだろ?出てこい。社長はもう怒っていない。一言謝ってくれれば、水に流すとおっしゃっている。

いい話だろ?出てこなければ、あの日の傷のつづきをやろうじゃないか」


「なに?傷って」わたしは宏の方へ顔を向けた。


宏が右手の甲にある傷を見せた。甲の親指と人差し指の間に手首あたりまで切られたような傷がある。

「前に逃げた時につけられた、日本刀でやられた」



「嘘よ騙されたらダメ。あいつらの言うことを信じていけない」

こずえ☆が言う。


「でも、待たれたらわたしたちが外にでるまで、居続けるでしょう。どうせ捕まれるなら。いっそ」

わたしは悲嘆に暮れる。


「信じよう」

宏が決めた。



「こずえさまはここにいたほうがいいと思う。あいつらはまだアンタのことを知らない。ここで隠れてて。それにこれ以上迷惑をかける訳にいかないし」


「わかった」



第24話


「おう、宏。久しぶりだな。元気そうだな。今日はなあの件を水に流そうと思ってな、一言詫びを入れてくれ」




宏は土下座して

「申し訳ありませんでした」「申し訳ありませんでした」


「よし。ただなぁ、宏。わしが許しても、世間様はそう簡単にはいかねぇわけよ」


「迷惑料300万だ」


「そんな金はありません」


「払えません・・・」


「払えないんです」


社長の横にいた。黒いスーツで細めの男が奥に飾ってあった日本刀を持ち出して、日本刀のサヤを抜き宏の喉に突きつけた。


その男が言う。

「しょうがないな。金が無いならば、働いて返してもらうしかないな。前とおなじ仕事だ。わかったな」


「・・・はい」


「それから、今度逃げ出さないように、保証人を立ててもらう。ねぇちゃん。よろしくな」


アタシはその紙に名前とスマホの番号かいておいた。ただ、電話番号はこずえさまにした。アタシはなんてバカなんだろう。


自分だけ助かろうとする、こころがあったのだ。


「今日はこれで帰っていい。明日から仕事だ、宏」



第25話


わたしはふたりが戻って来るまでの間、電灯はつけないでエアコンも使わず過ごしていた。心細かった。

8時頃になってふたりは戻ってきた。

どこか怯えた様子だ。


「ねぇ、宏くん、今度はあの会社で働くんでしょ。それならべつにいいんじゃない」


「嫌だ、あんなところには二度と戻りたくはない」


「どうして」


「あそこは詐欺グループだ。それも全国規模の。オレは架空料金請求詐欺をしていた。オレのために何百万、何千万、まきあげられる者がいると考えると頭がおかしくなってきた。もう戻りたくない。わかってくれ・・・・・」


「じゃあ、どうするのよ!」さゆり☆が問うた。


「わからない・・・・・」




第26話


「ねぇ、宏がいない」


「コンビニとかじゃないの」


「逃げたのよ」


「そんなことしないよ」


「彼にはそういうところがあるの、信用できないの」



こずえ☆のスマホが鳴った


 

「宏どこにいるの?」「なにをしているの?」


「すまん…これから自殺する。綿ヶ滝」




「行って確かめる」


「確かめるって・・」


アタシたちは国道に出て、タクシーを拾い綿ヶ滝まで行った。普段なら15分で到着するが、30分かかった。


「ちょっと」

雪に隠されているモノがあった。


「宏のモノね。財布、眼鏡、靴、デイバック、煙草」

この風雪なので雪で、それらはほとんど隠されていた。


「滝の方に行こう・・」


滝の辺りは、もうなにがなんだかわからない様子を見せていた。

風雪おかげで視界はわずかで、どこまでが足場でどこからが崖なのか、まったく見分けがつかない有様で、自殺したいと考えるならばもってこいだろう。


「絶対に嘘よ。決まってる」




第27話


数日後、もう誰もあやしい奴らはいないみたいなので、久しぶりに買い物に出た。ドラッグストア、スーパーで保存の効く食べ物を買わないといけない。


わたしの名前を呼んでいいる。


「山野こずえさん」


「山野こずえさん」


反射的に走ったが、捕まった。


「お嬢さん、今日は専務があなたにお話があるそうんで、やってきました。手荒なまねは絶対にしないので、お乗りください」


山道を走っているのはわかるが、どこに到着したのかは全く分からなかった。



「お嬢さん、こんにちは。大丈夫です。乱暴なことはしませんから」

このひとが専務らしい。紫のスーツ姿の長髪だ。


「宏のことは知っています。残念です」


「おい」若い丸坊主頭がわたしにA4の紙を差し出した。


「これに、見覚えはあるよな?」


「知りません」



「よく読んでみろ」


保証人 山野さゆりさま

わたくし、山野さゆりさまは、喜沢宏が返済不能となった場合は、喜沢宏に代わって、金三百萬円を支払うことを宣誓します


なにこれ・・・


「見覚えがあるだろう」


「知りません」


こずえが書いたのだろう・・・


「おかしなことを言う。これはお前が書いたんだろう」


「それを書いたのは、わたしではないです。それはこずえちゃんが、やまのこずえちゃんが書いたんです」


「またおかしな事を言うお嬢さんだ。そしたら、この番号に掛けてみるか」


わたしのスマホから「いつまでも」が鳴った。


「ま、金が無いなら働いて返してもらうしかないな。ちょうどその年頃の女のメンバーがほしかったところだ」


「いいな。ここで働いてもらうからな。明日からは研修だ。今日は休んでいい。部屋はある」




第28話


若者であふれている夜のコイフルで休憩しているが、こうるさくては、ストレスが溜まる。


「おい、出るぞ。うるさくて話ができんし、頭もまわらん」


「そうですね。年代があいませんね。ぶちおさんには」


「おまえは気にならないのか」


「ぎりぎり(笑)」



「ここは、落ち着きますね」


「こういうときは、ロコスだな」



「いちおう、整理しておく。オレたちへの依頼はなんだ?」


「山野さゆりさまを殺した犯人を捕まえること」


「いま、なにをしている?」


「同姓同名の山野さゆり☆の行方を追っています」


「山野さゆり☆を捕まえるために、いま一番近道で、オレたちがするべきことは?」


「山野さゆり☆が隠れていそうな場所を探しています。以前アルバイトしていたすき家が目ぼしいと思われます。さゆり☆に会えれば、こずえさまのことがわかると思います」


「よし。まわるぞ」



第29話


わたしは、ロマンス詐欺の担当になった。とくに大学生、若い社会人が相手だ。わたしのお陰で何十万、何100万、ときには何千万もの貴重なお金がむしり取られていると考えると、もう帰りたくなる。逃げ出したくなる。彼と同じだ。もう嫌だ。


わたしは次第になにも考えられなくなった。今日は何日で、いまが何時かさえわからない。

こんなわたしのことを、廃人と呼ぶのだろうか。

なにも考えることができない、なにもできない。



第30話


すま家巡りの前に福木県本部で在籍確認をしてもらったが、空振りだった。


「事務所ではわかんなかったですね。どうしますか・・・すま家行脚ですか」


「別行動だ」


「この写真を見せて、各店舗をまわるぞ。あそこのコンビニでコピーしてきてくれ」


「うい」



すま家は、県内にはたくさんあるがほとんどと言うか、すべてが国道沿いにあるので迷うことがない。それに、少人数でシフトをまわしているのでも顔をそれぞれ少しは覚えているだろう。話が早い。



一日、二日・・・三日目。さゆり☆が見つかった。


「見つけられるのが、奴らでなくてオレたちでよかったな」


「だれよ、あんたら」


「山野さゆりさまを殺した犯人を探している」


「さゆりさまちゃん、死んだの?」


「あぁ」


「うそ・・・」泣き始めた。


「一緒にいた男ははどうした」


「たぶん自殺した」


「たぶん?」


「たぶん、綿ヶ滝から落ちて死んだ。でも、わざとらしかったから、生きているかも。そんな奴なの」


「どうして、さゆりさまと別々になった。マスオの部屋に一緒にいたはずだ」


「さゆりさまは買い物に行って、それっきり帰って来なかった。それで、アタシは怖くなって部屋から逃げて、いまのすき家に雇ってもらった」





第31話


「どうした、ねぇちゃん。もう辞めたいか。なぁに、ここにいれば300万なんてすぐ返せるぞ。そうしたら、ねぇちゃんが見たことがない報酬がもらえる。すぐ家が建つぞ。ここはいいところだぜ」


わたしは、うなづいた・・・





第32話


「連れて行かれたところは、どこだ」


「わかんないよ」



「でも宏ならわかるかも。あいつはやつらのとこから逃げてきたし」


「でも自殺したんだろ?」


「なにもかも嘘っぽかったし、騙していると思った。自分だけ助かろうって思っているに違いない」


「どういうところが嘘っぽかった?」


「全部。自分が自殺することを、わざわざ教える?ねぇ。場所まで教えてさ。靴とか財布とか、煙草をわざわざ、並べてさ。嘘っぽいでしょ?とことんあいつのやりそうなことよ。あいつのことを知ってる奴ならさ、そう言うよ絶対に。おまけに死体は見つかってないじゃん。どっかに居るに決まってる。宏のせいで、さゆりさまは死んだんだ!」


「たしかに普通と違うな。自殺をしようとする者は、わざわざ教えないし、場所もそうだ。靴とか財布類を並べて置くなんてことはしない。わたしはここで自殺しましたって宣言しないものだ。キミの言う通りわざとらしい、言い換える、とあざとい・・・・・・・」


「ぶちおさん?」


「・・・・・・」


「彼の恋人である。この子にかけよう。宏を探し出すぞ」


「どうやって?」



「さゆり☆ちゃん、キミたちが綿ヶ滝に着いたときに彼の足跡は?彼が引き返すときの足跡は?」


「アタシ達のものだけだったと思う。でも、宏の靴とか財布なんかは、雪に覆われていたし、足跡なんて、あんな雪じゃあ、すぐに消えるよ。そうよ」


「彼はこの辺りに詳しい?または知り合いは?」


「知らない」



第33話


「おそらく宏は、ここまでクルマだろう。とても歩けるような雪でない。宏にクルマは?免許証は?」


「免許証はあるけど」


・・・・・・・・


「ということは、タクシーでここまで来て、待たせておいた。または、レンタカーで来て帰った」


「靴は最初から帰りの分も用意していた。財布も。ただ、スマホがないのが気になるが」


「また足を使うんですね?」


「足を使うと行っても駅周辺だ。おそらく黒佐和駅近くのタクシーやレンタカーを使ったと思う。マスオのアパートから近いからだ。いいな、オレとこの子が組、メタボはひとりで頼む」


まだ雪は止みそうもない。駅前の大通りには除雪車が出動している。何年に一度の大雪だそうで、関東にも雪が積もったらしい。しかし宏はこの雪の中でも必死に逃げようとしている。よほど怖い思いをしたのだろう。いずれは、捕まるだろうに。奴らは決して諦めない、そしてそれなりの落とし前をつけさすだろう。音島はそういう奴だ。睨まれたらおしまい。音島の組織は年間何億もの利益をあげている。オレは以前、組織を追ったことがある。だが、まったく歯が立たなかった。この間にも、誰かが大金を奪われている、奪われた金は大切なお金である被害者も多いと聞く。今回はなんとかして奴を追い詰めたい。



第34話


「ほら、いくぞ。オレたちはタクシー会社をあたる。おまえはついてくるだけでいい」


「はい・・・さゆりさまが死んだのってアタシのせいに決まってる。アタシが保証書なんかにあの子の番号を書いたから。それでさゆりさまは連れて行かれたんだ」


「いまはそんなことを考えるな。考えるのは、すべてが終わってからだぞ。オレたちに任せとけ。きっとあの組織に辿り着ける。そしてそれなりの罰を食らわせてやる」


「はい・・・」



第35話


おたくの会社の配車記録を調べていただきたいのですが。捜査上必要です。これが県警からの捜査協力依頼書です。



「うーん、その日にあの辺りに向かったクルマはそのお嬢さんたちのしかないな。いかんせん、この雪だろ。誰か行ったら私も覚えてるって」



「誰もいないなぁ、そんな記録。申し訳ありませんが」


すべてがそういうことだった。やはり綿ヶ滝付近までの乗車はさゆり☆たち以外はなかった。あったとしても大雪のあの日、あそこまで向かうとなると、かなり目立つことだろう。

タクシーはなしか。


ではレンタカーかということか。


さゆり☆と駅前のやたら若者でごったがえしているコイフルで休憩していると、メタボからかかってきた。


「ありました!黒丸レンタカーです。その日に右手の甲に長い傷がある男がクルマを借りています。名前はは偽名を使っています。番号もデタラメです」



やはり、生きていたか。



第36話


「なぁ、さゆり☆。宏の職歴は?」


「工事現場に長いこといたって」


「ほかには?」


「コンビニとか、ガソリンスタンド。でも長いこと続かなかったって」


「ぶちおさん、工事現場を洗いましょう。あの長い手の傷は大きな特徴です」


「ムリだ。この大雪で、どこも危なくて仕事をしていないだろう」


「壁ですか・・」



さゆり☆のスマホが鳴った。


「宏!!どこにいるの。ねぇ、返事してよ」



第37話


さゆり☆は、スマホをスピーカーモードにした。


「すまなかった。いまから奴らのところに行って、さゆりさまを助け出す。さゆりさまが、連れ去られるのをマスオのアパートの近くで見ていた」


「いいか!聞こえるな。絶対にムリだ。殺されるだけだ」


「それでもいい。さゆりさまを取り戻す」


「・・・いいか。落ち着いて聞け。さゆりさま

は死んだ・・・」


「・・・・・嘘だろう?」


「本当だ、首を絞められて殺されて、橋から落とされたよ」


「ホントか」


「本当だ」


「・・・・・・・・・・・・・・・なら、敵討ちに行く、そして責任を取る」


「ダメだ!やめろ」



第38話


「ここはオレに任せろ!オレは青島に用事がある。借りがある。おまえ、組織の場所を知っているな」


「あぁ、だいたい知っている」


「それじゃぁ、おまえは組織の場所まで、オレを案内しろ。それだけでいい」



第39話


「おい」


「おい、ねぇちゃん」


「・・・・・・・・・」


「ねぇちゃん、返事もしなくなったぞ」


「おい!目を覚ませ」


「なんか、虚ろな目をしてるぞ」


「どうする?こりゃ、ダメだぜ」



「どうした」


「このねぇちゃん、もうダメですよ」


「・・・・・・そうらしいな」


「適当にやっとけ」


「適当って・・・」


「適当だよ!うまいことやれよ」




第40話


宏が言うには、本部は宝山にある。そこの1階にはサービスセンターと呼ばれている、各種詐欺のグループがあり、3階に音島達幹部のいる事務室がある。想像していたとおりでこの雪に狭い狭い山道を上っていくのは、さすがのメタボとジムニーのコンビでさえかなり緊張するようだ。


「まるで迷路じゃないですか・・・地図にもカーナビにも載ってないのでは・・」


「静かにしていてください。集中します」


メタボの頭脳がフル回転している。


「ここは右。そこは真っ直ぐ」


「あこは、さっきも通った」


「そう、左」


さすが、一流国立大の院生だ。



「これか。まるで戦時中の軍事工場のようだな」


雪の中の狭い山道を上り1時間近く、まるで廃墟のような姿を晒している。ここで多くのひとを騙しているのか。見た目からはとても信じられない・・・


宏とさゆり☆は安全な場所に隠れさせてある。


「おまえらは、ここにいろ。オレだけで行く」


「そんな無茶な。僕だけでも連れて行ってください」


「メタボ、気持ちはありがたいが、返って足手まといになるだけだ。オレの柔道の腕は相当なもんだぜ(笑)オレを信じろ」



「音島、待っていろよ。今度こそひっ捕まえてやる!」



覚悟を決めたそのとき、自衛隊の一個師団を思い起こさせるような者たちが現れた。


「待て!ぶちを」


「丸角警部、遅かったじゃあないですか。あやうく討ち死にするところでしたよ」


「ここか。奴らの本部は。石野県機動隊借りてきた」


「よくここまでたどり着きましたね」


「黒いブーブの奴に案内させた」



「お前ら、俺たち石野県警を馬鹿にするなよ!」



「いつでもいいぞ。ぶちお」


「では、音島の首でも取ってきますか」



「機動隊突撃!」



第41話


機動隊は盾を構えながら前進し、棍棒で攻撃してゆく、ものすごく統制が取れている。


丸角警部は、そのエネルギッシュさが果てしなく続きそうな迫力で、相手を飛ばしてゆく。

オレも負けじと、ひらひらと投げ飛ばす。


勝負は、すぐに着いた。

あちらにこういう戦いの経験があるものは、ほとんどいなかった。

大勢の人間が建物から出てきた。ほとんどが電話を掛けているだけの者たちだろう。すぐに諦めたのだ。



3階のいかにもそれらしきドアの前に着いた。


「おい、音島。いるな。おとなしくこのドアを開けろ」


そのドアは音もなく開けられた。



ぶちおは、音島。丸角が日本刀の男と相対した。


「この雑魚はオレに任せろ。おまえは音島に集中しろ」



日本刀の男は達人と見れる。構えが素人とは明らかにちがう。それは一目でわかる。



じりじりと間合いを詰める柔道の丸角と日本刀の男。おたがいの力を測っているようだ。



その隣でぶちおと音島は、互いを見つめ合っている。二人とも柔道の構えだ



「やーーーーー!」


丸角が声で威嚇した。


「いゃーーーー!」


日本刀の男がそれに応じる。そして、刀を上段の構えにした。


さらに、じりじりと間合いをつめてゆく2人


隣で音島と相対しているぶちおにも、その緊張感が伝わってくる。


日本刀の男が剣先をわずかに下げた。


いかし丸角は動じない。


丸角の構えは、いつでも動ける自然体を取っている。その空間のすべてを凌駕しているように見える。

対して、日本刀の男は剣先にすべてを込めているように見える。


どちらが我慢できるか、根比べだった。



その場の空気を引き裂いたのは、日本刀の方だった。


「やーーーーーーーーーーーーー!」


日本刀の男は空に飛んだ。そして丸角がすかさず寝技に入り、首をしめ奴を落とした。



その光景に圧倒された青島の隙を、ぶちおは見逃さなかった。


「やーーーーーーーーーーーーー!」


今度は、青島が空に飛んだ。




第42話


「おまえらは、なんの罪にも問われないだろう。でもよく覚えておくんだ。山野さゆりさまは亡くなった。一生、そのことを胸に刻んでおくんだ。おまえたちはその十字架を背負っていけ。忘れるなよ」




「いいこと、言うじゃないか」


「たまにはね」





エピローグ


事務所2階のメーテルと2人で住んでいる部屋で、くつろいでいる。


「全国的詐欺組織を捕まえたなんて、すごいじゃない。なにか、国とか県からもらえないの?」


「ん・・・・・・・・・県から表彰状」


「けちねぇ。ま、それでもいいんじゃないの」


「どこが?」


「名探偵猫野ぶちおの名が更に有名になるっ。そしたら夢のお家も建てられるじゃあない」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)」




「ぶちおさん。下りてきてくださいよ。丸角警部が来ましたよ」


丸角警部がしたり顔をして

「じつは。今回働きで「猫探偵事務所」に石野県警から金一封が出たぞ!」


「本当ですか?」


「この封筒の厚さを見ろ」


「おーーーーーーーーー!」


「よし、今日はここにいる全員で焼肉を食いにいこう!」


「おーーーーーーーーー!」



「でも警部、あなた猫探偵事務所のひとじゃないですが(笑)」



「固いこと言うなよっ(笑)」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

SAYURI @ohiroenpachi8096

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画