ダークダンジョン攻略戦線の乙女たち

富士なごや

0話

 目が合うだけで、話かけられるだけで、それまでに何か嫌なことが胸の内を汚していたとしても、それらすべてが黒から白へと塗り替わるように嬉しくなる。


 この想いは、恋愛感情なのだろうか。


 いつも、いつもいつも、あなたと一緒にいたときに考えていた。

 一緒にいないときだって、あなたのことを想えば考えてしまっていた。

 果たしてこの感情は、恋とか愛とか、そういう名の付くものなのかな……って。


 ねえ、ユカ。

 私はあなたに恋をしていたのかな。

 あなたを愛していたのかな。

 そうだといいな、って今は思うよ。


 思って、だから、後悔しているんだ。

 一度くらい、好きって、言葉にすればよかったなって。


 あなたと一緒にいられて本当に嬉しいのって。

 あなたと共に過ごせる日々が、私にとっての幸せなのって。

 あなたのことを……愛しているって。


 一度くらい、伝えられたらよかったよ。


 どうしてもっと早く、自分と向き合わなかったのかな。

 ちゃんと向き合って、あなたへの想いにちゃんと名前を付けていたら、ちゃんと伝えられたかもしれないのに。


 もう、遅いんだ。


 伝えられない想いに、価値なんてあるのか。

 そう、考えてしまうこともあった。


 けれど、今は明確に、価値があると思っている。

 道標になるのだ、強い想いは。


「……ユカ。どうか見ていてね」


 墓石の前、跪いている私は何度目かの誓いを立てる。

 想いは伝えるべきものだと、わかっているから。

 誓いは伝えてこそ、自分自身を縛り付ける効果があると思っているから。

 口にすればするほど、挫けそうなとき、強引に奮い立たせてくれると信じているから。


「……私が一匹でも多く、アイツらを葬るから」


 応えてくれたように、墓前に植えたばかりの白百合が揺れた。

 喜んでくれているのだろう、私の誓いに。


 あなたはいつも、いつもいつも、誰かを護るために戦っていたもんね。

 大丈夫、大丈夫だよ――


「……あなたが望んだ、誰もアイツらに喰われない世界を、私が作るから」


 ――私が、成し遂げてみせるから。

 人類の敵、この世の脅威、邪な者たちを滅ぼしてみせるから!


 だから、安心して、見ていてね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る