日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。

wakaba1890

第1話 国家召喚獣管理官。


第一話 召喚獣のいる日本


召喚獣ーーーそれは、向こう側とされる所から召喚されるモンスターのことである。


それは、初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)を従えていた事が原初とされている。


しかし、他方の学説によると、紀元前数万年前の縄文土器からも人が召喚獣と共に生活をしている様子が確認されいるが、公には初代天皇・神武天皇が召喚獣と契約を交わした最初の一人であるとされている。


そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。


召喚獣召喚において、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると体に刻まれた紋章が光り輝き、任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターが召喚される。


そして、召喚されたモンスターらは主人である当人や心を許した者に対して忠実であり、死が二人を分つまで共に生を全うする肉体と魂のパートナーといえた。


そのため、彼ら召喚獣は古来の日本から、農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの安寧と繁栄に寄与し続けてきた。


神武天皇陛下による日本国建国から今まで、国益の基盤たる数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーー




ーーーーー国家召喚獣管理官である。





ーーーー皇紀 2685年 (西暦2025年) 4月7日午前10:50 立川市。


「ーーー・・やぁぁぁぁぁっ!!」


「チュキっ!」


研修を終え、管理官としての一歩を踏み出した彼女・時雨 千智はチーズに塗れた鞄を背負い、幾重にも分身しているネズミ型の召喚獣に追いかけられていた。


「もぉぉぉぉお!!聞いてないよぉぉぉっ!!」


(ぁぁぁぁぁあもぉぉぉぉ...今頃、いろんな召喚獣ともふもふしながら、のんびり仕事して、お昼には近くのおしゃれなカフェでティーブレイク、先輩は優しくて、定時退勤後には美味しいお店でご飯奢ってもらたりとか...そう、)


「....そうだと....そうだと、思ってたのにぃぃぃぃっ!!」


叫んでいる中でもネズミ型の召喚獣は通った先の電柱や障害物を消し飛ばして、淡々と加速を重ねていた。


「....チュウ...」


「いやぁぁぁっ!もーーー時よ戻ってっ!専攻を決める時まで巻き戻ってーーっ!!」


目の端でその憧憬を掠めながら、彼女、時雨 千智(しぐれ ちさと)は甘い憧れと現実の狭間で昔の自分へ届かぬ嘆きを叫んでいた。




ーーーーー2025年4月7日午前8:20 立川駅。


『ーーーー駅構内での、召喚獣の現出はご遠慮ください。なお、属性タイプの現出を見かけた方は近くの通報ボタンを押して頂き鉄道警備隊へ連絡を願いします。』


「.....うわぁ....ここが、東京。」


JR立川駅の改札口から出ると、時雨の前には多種多様な召喚獣が闊歩していた。


青き空には飛行タイプの召喚獣に乗って遅刻を逃れようとする人が数名、配達員の人が六本の羽を持った鳥に乗って彼らの上を通って荷物を抱えていた。そして、噴水の側では朝飯を共に食い損ねて鮮やかな羽毛の召喚獣にずっと頭を突かれている人がいたり、半分寝ている男が2mくらいの額当てをつけた白クマの背中で二度寝をしようしたのを体を揺らして起こされていた。


「....わぁ....っ」


ーーーーシュパッ!!


足を進めつつも、召喚獣と都市が最適化された憧憬を前に時雨は圧倒されていた。すると、視覚外から俊敏で健脚なダチョウっぽい召喚獣が頭上を通って、壁を伝って人混みを避けて、下の召喚獣専用道路の方へと向かっていった。


「...コラーっ!壁を走るなー!」


首にイタチのようなもふもふの召喚獣をつけた警察官が後を追いかけていた。


「.....っと、一応早めに行かないと、よしっ頑張るぞ!」


田舎ではなかなか見れないシーンに見せられていた時雨であったが、もう一度機を引き締めて先を急いだ。


「....うーん、同期のみんなとは綺麗にバラバラになっちゃったしなぁ....配属ガチャ外したかなぁ...」


がしかし、駅の喧騒にかき消されていた不安は段々と職場へと近づく内に、しとしとと心に落ちていた。


「....んなぁー」


どこに吐くわけでもない不安を呟いていると、かれこれ12年の付き合いになる彼女の召喚獣・コクウネコという一見少し大きめの白い蝶ネクタイをつけた黒猫にしか見えない召喚獣がどこからか現れて肩に乗って擦り寄っていた。


「ははっ...そうですよね。クゥさん、まだ始まってないもんね。」


励ましてくれたコクウネコことクゥさんを右の項で優しく撫で返すと、これで多少は解れたかと思ったまだ寝足りていないクゥさんはあっさりと姿を消した。


「....わぁーっ!猫ちゃん!...ぁ...」


『...クゥゥン』


お母さんに手を繋がれている幼稚園に向かう途中の女の子に指差されたが、すぐに消えてしまったため、しょんぼりしてしまい。付き添っていた黒い狼型召喚獣が頬擦りして励ましていた。


「こらー、指ささないの。すみません...」


『....クゥフゥゥン』


「あぁ...いえ、ふふっ....クゥさん」


お母さんは謝っていたが、付き添っている黒い狼型召喚獣がウルウルとした目で、なんとかぁ....もっかい見せてくれませんかねぇ....と見てきたので、女の子にしゃがみ寄って自身の召喚獣を呼んだ。


『ンァ....』


大体意図を理解した彼女の召喚獣クゥさんは女の子の指にお鼻を近づけた。


「ぁー...触っていいの?」


「....っ!」


「あーと!うわぁー....ふわふわー」


彼女がこくりと首肯してから、クゥさんの喉を触ると女の子はその触り心地に感動していた。


「ふふっ...でしょう?」


「おねぇーちゃんもふわふわー」


「わぁー...へへへ...」


そうこう幼稚園児と人懐っこい黒狼型召喚獣と戯れ平和な時を堪能していると、時間が迫ってしまい全力ダッシュで配属先の関東庁本部へと向かった。


「...はぁ...はぁ....うわぁー...おっきいなぁ....」


いきなり本部の課に配属された時も、ここに来るまでもはっきり言って実感がなかったが、ペーパーテストと実技の結果か、研修での成績の良さか、持ち前の愛嬌のお陰かわからないが、関東地域を統合管轄する召喚獣管理省関東庁本部の荘厳で歴史を感じさせる城のような建物を前に、出世コースとされる本部への配属を強く実感した。


「.....?」


圧倒されていると、入り口の警備の方といかにも接近戦闘向けな二足歩行のウルフ召喚獣が挙動不審な時雨をロックオンしていたが、想定される来場者は記憶しているのか、入って良いですよと軽くジェスチャーしてくれた。


「...あ、すみません。」


少し気が落ち着いた彼女は心臓がバクバクなる音を諌めながら、本棟の受付へと向かった。


「..あ、あのっ....」


「はい、何かご用ですか?」


「ほ、本日からっ!お世話になります、時雨 千智と申しますっ!よろしくお願い致しますっ!!」


「「「........」」」


朝から元気の良い彼女の挨拶は、本棟のロビーで忙しなく行き交っていた人たちの喧騒を一瞬静けさへと変えた。


「ふふっ...はい、今日配属された方ですね......あなたの課はG棟になります。」


新人さんだとわかった受付の黒髪セミロングの綺麗な女性は、和やかな微笑みから彼女の名前を検索した結果をみてか、少し眉をひそめて配属先の棟を教えた。


「...は...はいっ!失礼します!」


初っ端からかました彼女は顔を真っ赤にさせながら、受付の後ろに埋め込まれている関東庁内の地図を一瞥して急いで言われた場所へと向かった。


「.....ん、ここであってる、よね」


ついた先は敷地内の端っこで本棟よりかは年季を感じたというか、所々ぼろっちい雰囲気を醸しており、若干というか正直汚ならしい建物だったが、それでもGというエンブレムはわかりやすく入り口の横に刻まれていた。


「あのぉ......えぇ...はぁ...」


意を決して建物に入ると、受付には先のような愛想の良い綺麗な人というか人ですらない、申し訳程度にグッドサインを得意げな感じでポーズしている一頭身のスライムの人形が目に入った。


「たはは....1階は運動室?誰もいないけどなぁ.....2階は資料室で、3階が執務室だから、3階かな」


そして、その状況も相まって、人形のポーズがグッドラックという意味かと思い渇いた笑いを吐いて、とりあえずスーツケースは受付の前に置いておき、受付の壁にかけられた案内から配属先とされる課があるっぽい3階にへと向かった。


「....ぁ...また.....か」

「....は...ぁ....」

「わた....ぁりき....」

「....ふぅ.....今日配属の時雨です。」


すると、執務室へと通じる扉越しに話し声が聞こえひとまず安堵し、襟を正し扉をノックした。


「....入れ」


「し、失礼します!」


よく通る低すぎない男性の声に一応は場所は合っているのだと思い、相槌と共に扉を開いた。


「よし、カウント開始しろ」


「あぁ、5」


その声の主は金髪のスーツのホストのような男で、分厚い資料を机に置いて腕を鳴らし、開口一番に予想できるわけない事を、側にいた大木のような男にそう言って合図した。


「え、あの....カウント?」


耳は良い彼女はその言葉の意味を聞き返したが、それは彼らには届いていないようだった。


「...4」


「....またやるんですか?前ほどでしたら、万一でも治せますけど....」


「え、は...何いって...」


「....3」


「あぁ、それありきでもあるな。おい、新人。」


「.....2....1」


カウントが淡々と減る中で、ふかふかなソファーでくつろいでいた短くセンター分けにした黒髪ロングの長身女性にそう言うと、これまで目線が合わなかった金髪ホストはどこからか槍を取り出し、こちらを真っ直ぐに見つめて声を張った。


「....10秒生き残れ....シッ!!!」


「...なぁっ?!...っ...」


金髪ホストから放たれた槍の一閃は、足元にあった紙に足を滑らせた時雨の脳天を掠め、今日のために背伸びして美容室でキメてきた髪を僅かに持っていった。


「...ぁ....は、はぁ!?!」

(なんで、え、殺そうとしてきてる?!この人?!いや、この人達っ?!)


破片すら落ちてこない程の威力で壁を貫通した槍を引き抜こうとしている金髪ホストを見上げながら、その隙に時雨は思考を巡らせる。


「....悪いな」


間髪入れずに控えていた大男が緑色の鱗のようなモをを幾重にも重ねた盾を、尻餅ついた時雨に振り下ろした。


「うわっ?!....っぅ....」


ーーーーードゴォンっ!


確かな質量と速度を持ったそれは床にクレーターを作っていたが、ギリギリで壁を蹴って大男の踏み込んだ股を通り抜けていた。


「残り7秒。」


(意味はわからんけど、ともかく残り7秒何としても生き残る。今はそれだけ遂行する)


「...スゥ....クゥさん。」


『んぁー』


かなり分厚い建物の床をクレーターにした大男から距離を取り、窓際に寄りながら短く整理して小さく息を吐いて自身の召喚獣を呼び肩に乗せた。


「....ほう」


「「.....」」


いつ出すかと身構えていた彼らであったが、なんの予備動作も無しに、時雨のどこかしらにある紋章が光った素振りも無しに、無音で現れた黒猫の召喚獣を前に金髪ホストは少しはやれそうな雰囲気に感心し、大男と長身女は静かに警戒度を上げていた。


「....ぬんっ!!」


今一度、距離ができた時雨を見据えて、大男が緑鱗の盾を全面にして突っ込んだ。


(自分の視界を潰してまで、盾に収まるように丸まってる....相当自信があり、こっちからじゃ攻撃は通らない。)


「.......つぅっ!」


「ぬっ...」


方向転換を度外視した一直進突撃してきた大男をギリギリまで引き寄せて、時雨は背面の壁と窓の間を蹴り体を捻って彼を避け、体勢を固定している大男の背中に乗り、踏み込んで金髪ホストの方へと加速した。


「へぇ...」


「....フンヌっ!!」


距離をとってカウンター狙いだと踏んでいた金髪ホストであったが、勢いそのままに自力で加速して真正面から向かってきたのを感心しながら、初めの一発を受けた。


「...っ?」


が、左手で受けたはずの時雨の右ストレートは感触が一切無く、目の前にいるはずの時雨の姿は大男によって破壊された壁の土埃にかき消されていった。


「...ぬんっ!!」


その生物として避けられない一瞬の理解が遅れる現象によってできた、隙間に時雨は金髪ホストの左脇腹にボディーブローをかました。


「ぐはっ...ツゥ...」


「わいさ"ぁ"っ!あたいんいっばん極まっちょった、髪台無しにしやがっせぇ、わいん金髪、丸刈りにしたろう”か”っ!」


意識外からの容赦なしのボディーブローが効きながら、カウンターを打ち込もうとしたが、彼女はすでに土埃に紛れて距離を取り、初撃の槍に若干削られたサイドヘアーをかくし上げながらバチギレていた。


「...スゥ....まぁ、持った方か」


方言丸出しでバチギレている目の前の彼女を前にしても、さっきのボディブローのダメージなんてなかったかのように涼しい顔に戻った金髪ホストは仕込んでいた武器をしまい、勝利宣言をした。


「ぁ....な...っ!」


言い返そうとした彼女であったが、いつの間にか足元に来ていた薄黄緑のスライムに全身を覆われてしまった。


「はぁ、これやめませんか?流石に.....っ?!」


頑強な筋肉と柔軟性の極致であるスライムで飲み込み、ここから抜け出せたものは一切いなかったため、すでに決着はついた筈であったが、包み込んで無力化したはずの彼女と彼女の黒猫召喚獣クゥさんは一切の痕跡を残さず消えてしまった。


ーーー残り3秒


また同時に、淡々と数えられていたカウントはゼロに達していなかった。


「....まさか、消化したんじゃ」


「いや、絶対してないですよ。シゲモチは何も言わずに消化しませんから」


「...じゃあ、どこに.....」


「......うぉぉぉりゃぁっ!!!」


ーーーーードゴンッ!!!


「...グゥっ?!」」


居室内にも外にも時雨の気配は全くない中、何もないところからドップラー声と共に金髪ホストの頭上へと時雨のライダーキックがクリティカルヒットした。


「あたいん髪....よくも..スゥ...アルティメットっ....」


「っ......ん」


完全に金髪ホストの上をとった彼女はライダーキックだけでは髪への恨み晴らしには飽き足らず、必殺技っぽいただの正拳突きをお見舞いしようとしたが、寸前で止められた。


「.....スゥ....満たしましたよね?時間」


彼女は寸止めした正拳を正体に戻し、小さく息を吐いて勝手に設定された10秒が経ったのを丁度3階に戻ってきていた大男に確認した。


「....あぁ。」


「....ふぅ、新人。見えてたのか?」


この時金髪ホストは絶対的な隙を与えた上で、カウンターを狙っておりそれを聞いた。


「スゥ......えぇ、まぁ...ムカつきますが、ゴングがなった後の追い討ちは論外ですから、まぁムカつきますが」


長く息を吐いて一旦心を静止させたが、それでも時雨は髪への怒りを溢しながら武人としての最低限のラインは守った。


金髪ホストが袖から何かを取り出そうとする気配を察知した彼女は、仮に正拳突きで彼をノックアウトさせなければ、カウンターで初撃の槍以上の攻撃が来るのはわかっていたため、不完全燃焼具合に眉を曲げながらも時間きっかりで寸前で止めるに至った。


「悪いな、ここの科は過酷ゆえ、ああいった事前通知なしのテストが通過儀礼でな」


「テストっていうか、殺し合いですよね....」


初撃の槍の一閃は確実に脳天をぶち抜くつもりで放たれたものであり、テストとはかけ離れていたものだった。


「まぁ、現場では剥き出しの生存本能と相対するからな、それに一応安全装置はついてる。」


金髪の男はおもむろに袖に忍ばせていた短い槍を頭に突き刺したが、寸前でスライムのようなものが隙間から現れてクッション材となっていた。


「いや、私の髪いくばくか持ってかれたんですが....」


『...ナァオ』


金髪ホストにかました左拳をマッサージしている彼女の怒りを癒そうとしているのか、彼女の黒猫召喚獣ことクゥさんは彼女の肩にって持ってかれた部分の髪を頬擦りしていた。


「っ....ん....あれ、私の配属された科って、召喚獣操法科じゃ...」


そう、配属が決定した際の電話一報やメールでも確かに操法科配属とされており、確かに危険は一切ないとは言えないが、召喚獣の基本的な操法を教える課であり、信頼関係をどのように結ぶかなどを一般市民や、契約したての未成年を指導するなどで、いろんな召喚獣と関われる保護課ほどの競争率は高くない割と穴場なところであった。


が、ここは決してそのような場所ではなかった。


「いや、ここは関東庁・召喚獣事案即応科だ。」


「.......ん?」


想像していた召喚獣管理官ライフが一気に瓦解する音が聞こえ、雨漏りが滴る音だけがゆっくりと彼女の時を刻んでいた。



ーーーー( ^∀^)! 説明しようっ!


召喚獣管理省 関東庁・召喚獣事案即応科とは、九州、中国四国、関西、関東、東海、上越、東北、北海道と全国の庁に介在する、召喚獣関連事案が生じた際に初動で警察と共に召喚獣事案に情報が最も少ない中で最前線で対処する課であり、事、関東庁の即応科はーーー




ーーーー全国の召喚獣管理官の中で最も死亡率の高い科である。

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