家族旅行
なかむら恵美
第1話
閑散期の温泉は、素晴らしい。
まるで貸し切り。夕飯バイキングも、忙(せ)わしさなんて全然なく、ゆったりとしている。
僕たちを含め、この時間の食事組は、15組程度だ。
「お疲れ」
軽くグラスを触れさせる。僕も彼女も、ノンアルだ。
ホテルの着物じゃはだけるから、私服姿。腰にしっかり巻きつけたウエストポーチは、盗難防止の為。
貴重品と共にあるスマホには、各々の家族写真。アルバムから何枚かをチョットポーチイスした、2次的写真(?)が入っている。
「お義父さん、飲んだの?」
「あっ、今、見る?」
彼女が、スマホを取り出そうと、腰に手をやる。
「後でいい。後でゆっくり見させて貰うから。色々話、聞かせてよ。今は食事をゆっくり楽しもう」
瞬間、何かを考えていたが、
「そうね。秀彦(ひでひこ)さんのもね」
頷き食事を進め出した。
こんな事って、あるだろうか?
顔合わせを予定していた前後に、各々の家族が急死。それも同じ日になんて。
「会ってからの、お楽しみ」
「写真ぐらいはあるだろ、彼女の。見せろよ」
幾ら親父が懇願しても、見せない主義で僕は通して来たし、
「平凡よ、平凡」
彼女は彼女で、両親にせがまれる度、延ばしていた。
彼女は両親と同居していたが、僕は一人暮らし。早くに母を亡くしずっと親父と二人暮らしだったけど、今は別居。
隣の市に住んでいる。
どうにか予定をつけ、「じゃっ、〇月〇日に」
お会いしましょう、と話ていたのに、前々日に、僕の親父がいきなり倒れて逝ってしまった。
たまたま僕が寄った日だ。電話=彼女へ。親父には悪いが、まずの連絡先である。
と、電話が鳴った。
「あっ、秀彦さん。わたしです」
「あっ、今、電話しようと」
「実はウチの両親が」
「えっ!」
なかなか起きてこない父親を母親が起こしにいったら、冷たくなっていた。「寿子(としこ)ッ!寿子ッ!」
「とぉ~っ、とっ、としぃ~こッ!」
素っ頓狂に呼ぶ。何事かと小走りにいったら、半分、ズレたような口調で「おっ、おおおおおお、お父さんが、おおおおお父さんが」
震えながらも110番。警察が到着したと同時に、母親が嘔吐。
前かがみになって、そのまま逝ってしまったのだ。
「えっ?ええ~っ!!!」
繰り返していたのを思い出す。
それから1年近く。
憔悴しながら、どうにかこうにかやって来た。
近しい日だったお互いの一周忌には、新しく身内になるとして紹介。
彼女のお兄さん家族に会えたのは、良かったと思う。
やっとどうにかなったので、慰労の旅にという訳だ。
「家族旅行をしてるんだわ、今。わたし達」
ゆっくりと珈琲を飲みながら、彼女が言う。
「うん?」
「お義父さんとあなた、ウチの両親とわたし、5人の家族旅行」
「そうだな」
僕もゆっくり、珈琲を口に運ぶ。
「顔合わせは、ちょっと遅れちゃったけどね」
ちらと彼女が、壁掛け時計を意識した。
「じゃっ、今から部屋でじっくりと」
「うん」
頷き立席、バイキング会場を後にした。
<了>
家族旅行 なかむら恵美 @003025
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