不治の病に侵され身体中が包帯だらけのボロボロ姿になった貴族令嬢を治療してあげたら、絶世の美女に変貌して物凄く求愛をされた話。
榊原イオリ
第1話:異世界にやって来てしまった俺
ある日の昼下がり。
「おっちゃーん! 治療依頼を引き受けに来たぞー!」
「お、おぉ、セツナ! 来てくれて助かった! 早速だけど腰を見てくれねぇか……! 昨日の仕事中に急に腰が痛くなっちまったんだよ。そんで昨日から安静にしてるんだけど全然良くならねぇんだ。今日なんてもうずっと動けないくらい痛いんだよ……!」
「わかった。それじゃあすぐに診察していくよ。ふむふむ……これはアレだな。低度のギックリ腰だな。これなら俺の回復魔法ですぐに治せるよ。
―― ポワァッ……!
「お、おぉ、腰の痛みが一気に取れた! 動ける、動けるぞ! ありがとう、セツナ! これでまた今日からビシバシと大工仕事が出来るぜ!」
「それなら良かった。でもおっちゃんは年齢的にもう若くないんだから、あんまり長時間働き過ぎないようにな。また腰をやっちゃったら辛いだろうしさ。適度に休憩しながら働いてくれよ」
「はは、わかってるよ。これからはあんまり無茶をせずに、自分の身体をちゃんと労わりながら働く事にするから安心してくれよ。という事で今回の治療依頼の報酬だ! 銀貨10枚受け取ってくれ!」
「まいどありー。また困った時はいつでも呼んでな。おっちゃん」
「あぁ、いつもありがとな、セツナ! それじゃあまたな! お疲れさん!」
「うん。またな、おっちゃんー」
俺は依頼人の町大工のおっちゃんから治療依頼の報酬を受け取り、おっちゃんの自宅から出ていった。これで今日の飯代は稼げたぞ。
「よし。それじゃあ治療依頼も無事に終わったし、そろそろ昼飯を食べに行こう」
そう言って町の中心部にある馴染みの食堂へ向かった。一仕事終えてちょっと疲れちゃったし、今日はスタミナを付けるために昼ご飯はガッツリと食べていくぞ!
◇◇◇◇
という事で改めて。俺の名前はキサラギ・セツナ。16歳の男だ。
出身地は日本の東京という所なんだけど、今は“ルミナスファシア”という異世界で暮らしている。この異世界は“魔法”や“魔物”などが存在している所謂ファンタジー系の異世界だ。
どうして俺は日本を離れて、この異世界“ルミナスファシア”で暮らしているのかというと、それにはちょっとした深い理由があった。
約一年程前なんだけど、俺は中学の卒業式に向かう途中、横断歩道で子供がトラックにはねられそうになっている所を目撃してしまったんだ。
俺はその子供を助けるために横断歩道に向かって全力で駆け込んでいき、子供を横断歩道から出していくために思いっきり突き飛ばしていった。そして代わりに俺がトラックにはねられてしまった。
そこで俺はすぐに気を失ってしまい……それからしばらくして目が覚めると俺は真っ白な空間に立っていた。
そしてそこに神様と名乗る人物が現れて『手違いで君を死なせてしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいだから、君にはチート能力を授けて異世界でもう一度生活出来るようにしてあげるよ』と言ってきたんだ。
こうして俺は神様の手によって死後の世界ではなく、異世界“ルミナスファシア”にある小さな田舎町に飛ばされる事になったんだ。
ちなみに神様から貰ったチート能力は『回復魔法』のフルセットだ。怪我回復、病気回復、状態異常回復、呪術回復などなど、死んでさえいなければ何でも治せるというチート能力を俺に授けてくれた。
『トラックにはねられそうになった子供を勇猛果敢に助けてあげた心優しい君にピッタリな能力だろう?』
そう言って神様は俺に心優しいチート能力を授けてくれたんだ。まぁでも15歳の子供を見知らぬ異世界に飛ばすのは全然優しくない行動だけどな。
そんな訳で俺は神様からチート能力を貰ってからすぐに、見知らぬ異世界の小さな田舎町に飛ばされていったんだ。
もちろん異世界に飛ばされた当時の俺は当たり前のように物凄く困惑としていた。これからどうやって生きればいいんだろうって思って不安な気持ちにもなった。でも俺が飛ばされた田舎町の人たちは皆とても優しい人たちばかりだった。
唐突に異世界に来て不安になってる俺に対して、町に住んでる人たちは訝しんだりとか無下にしたりとかする事なく、不安がってる俺に手を差し伸べてきてくれたんだ。最初の頃は食べ物とか服とかを町の皆から沢山恵んで貰ったっけ。本当に優しい人たちばっかりだった。
そして自分で金を稼ぐためにどうしたら良いか悩んでいると、町に住んでる人から『冒険者になったら良いんじゃないかな』というアドバイスを貰えたので、俺はすぐに冒険者になってみる事にしたんだ。
そんでそのアドバイスをくれた町の人から冒険者の基礎である薬草採取の仕方を教わったり、スライムとか弱いモンスターの倒し方を教わったりした。異世界ならではの知識も沢山教わった。
こうして俺は沢山の知識や技能を身に着ける事が出来たので、今では冒険者として一人でちゃんと生活が出来るようになったという訳だ。本当にもう沢山の人たちに対して感謝の気持ちでいっぱいだ。
だから異世界に飛ばされてからだいぶ日が経ってきた今でも、俺が今生きているのはこの異世界にいる優しい人たちのおかげだという気持ちは忘れてないので、俺は冒険者として困ってる人たちの依頼を積極的に受けながら毎日楽しく過ごしていた。
◇◇◇◇
それからしばらくして。馴染みの食堂で大盛定食を食べ終えた後。
新しい治療依頼が入ってないか確認するために、俺は冒険者ギルドに向かった。
―― カランコロン♪
「こんにちはー」
「んー? おう、セツナか。お疲れさん」
「あ、ギルドマスターだ。うん、お疲れさま」
冒険者ギルドの扉を開けて中に入っていくと、ギルドマスターのダグラスが声をかけてきてくれた。
ギルドマスターのダグラスは俺がこの異世界に飛ばされてから一番最初に出会った人物だ。当時モンスターと戦って怪我をしていたダグラスを見て急いで回復魔法を施していった。
そしたらダグラスは感謝の言葉を伝えてきてくれて、さらに『俺は異世界から来た』という俺の嘘っぽい言葉もまっすぐに信じてくれて、俺がこの世界で生きるためのアドバイスや知恵などを沢山授けてくれたんだ。
さらに生活費を稼ぐなら冒険者になった方が良いというアドバイスをくれたのもダグラスだ。冒険者になるための薬草採取やらモンスターとの戦い方も懇切丁寧に教えてくれたっけな。
まぁそんな感じでダグラスは面倒見の良い頼りになるアニキって感じの人物だ。ダグラスにはこの一年間に何度も助けて貰ったしとても尊敬している。本当にもう感謝してもしきれないよ。
「今朝受けていった治療依頼はもう終わったのか?」
「うん。バッチリと治療依頼は完遂してきたよ。また新しい治療依頼があったら引き受けようと思って来たんだけど、何か新しい依頼とかある?」
「いや。今のところ他の治療依頼はないな。またお前に頼みたい治療依頼が入ったらすぐに連絡するよ」
「そっか。わかった。また怪我とかで困ってる人がいたらいつでも連絡してね。冒険に出かけてなくて暇な時はいつでも治療しに行くからさ」
「はは、それは頼もしい言葉だな。そういえばセツナがこの世界に来てから丁度一年くらい経つよな。初めて出会った時は物凄く不安がってたガキんちょだったけど、今はかなり良い顔付きになったよな。今のお前はもう立派な一人前の冒険者だよ」
「そうかな? 俺は一年前と比べて全然変わってないと思ってるけど……もしもこの一年でしっかりと成長出来ているのだとしたら、それはきっとギルドマスターや町に住んでる皆のおかげだよ。唐突に異世界から来て不安に思ってた俺の事を、町の皆が何度も優しく助けてくれたからこそ、俺もここまで成長出来たんだ。だから俺の方こそありがとうだよ」
「はは、セツナはまだまだ若いってのに、そんな感謝の言葉を言えるだけ大したもんだ。俺がまだ16歳だった頃は生意気なクソガキだったてのによ。でも人に感謝する気持ちってのは凄く大事なモンだからな。だからセツナはその感謝する気持ちは絶対に無くしちゃ駄目だぞ? これからも人に感謝する気持ちは決して忘れずに、そしてセツナも困ってるヤツを見かけたら優しくする心を常に持って生きていくんだぞ」
「うん。もちろんだよ」
ギルドマスターの言葉を聞いて俺はしっかりと頷いていった。
この異世界にやって来たばかりの頃は右往左往としながら毎日のように不安に思う日々を送っていたけど、今では冒険者として毎日楽しく生活をする事が出来ている。
そして俺がここまで楽しく毎日生活出来ているのは周りの優しい人たちのおかげだ。だからこれからもその感謝の心を忘れずに真面目にしっかりと生きていこう。
次の更新予定
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