2人はオカ研 〜見える先輩と見えない後輩〜
@hiyoko_147852
屋上にある先輩
俺は屋上にいる。
その方が、世界と距離を保てるからだ。
昼休みの喧騒は、ここまでは届かない。
フェンス越しに見える空だけが、
今日もやけに近かった。
足元に影が伸びている。
俺のものは、ひとつだけ。
それでいい。
それが普通だ。
「わー、本当にいた!」
やたら明るい声がして、振り返った。
屋上の扉の前で、
一年生の女子がぴょこんと跳ねるように立っている。
「すごーい!
都市伝説って、本当だったんですね!」
「……何の話だ」
「屋上の先輩です!」
即答だった。
「いつも一人で屋上にいて、
幽霊が見えるらしい三年生の先輩!」
声がでかい。
「……誰から聞いた」
「噂です!」
にこっと笑う。
「でも噂って、
半分くらい本当じゃないと広まらないんですよ」
意味が分からない。
「で、正解ですか?」
「……何が」
「幽霊」
間髪入れずに聞いてくる。
「見えるんですか?」
「……さあな」
「わ、否定しない!」
「私、雨宮 澪(あまみや みお)って言います!高校1年です!」
「おぉ…」
澪と名乗ったその一年生は、
楽しそうにノートを開いた。
「私、オカルト研究部を作ろうと思ってるんですけど」
「やめとけ」
「即答!」
澪は笑った。
「でも先輩、
部員一号にぴったりですよ」
「理由を言え」
「はい!」
びしっと指を立てる。
「先輩は、見える人」
「私は、見えない人」
「完璧な分業です!」
「意味が分からん」
「つまりですね」
澪は、
ノートに何かを書きながら続けた。
「見えないものって、だいたい“なかったこと”にされるじゃないですか」
その言葉に、
俺は少しだけ黙った。
「でも、先輩が見たなら」
澪は顔を上げて、
やたら明るく言う。
「それ、あったってことですよね!」
「……」
「だから記録します!」
ノートを掲げる。
「見えなくても、
ちゃんと残せば消えません!」
風が吹いて、
フェンスが鳴った。
屋上の隅で、
かすかな気配が揺れる。
澪は気づかない。
「ね、先輩!」
くるっと振り返って、
無邪気に言った。
「先輩、ここに“います”よね?」
その言い方が、
妙に胸に引っかかった。
「なら」
澪は、満面の笑みで言う。
「二人で調べましょう!」
オカルト研究部。
冗談みたいな名前だ。
でも。
屋上に影はひとつしかないのに、
その瞬間、
俺は確かに“二人”で立っている気がした。
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