僕らのなれはて

JACKPOT031

僕らのなれはて

僕らは、「人間」だった。


それが身体や心を伴ったものなのか、

もう、覚えていない。


空を見上げる癖。

名前を呼び合う必要があったという記憶。

そうした様々な断片が


「人間」だった。


その最初から決まっていたような感覚を

今も繋ぎ止めている気がする。


ここはもう街ではない。

建物は骨組みだけになり

時間は進むのをやめたみたいに澱んでいる。


それでも僕らは並んで立っている。

理由はない。

ただ、そうするように作られていたようだ。


君は言葉を忘れた。

僕は感情を忘れた。

だから会話は成立しないのに

沈黙だけは共有できる。


記録の中では

僕らは「未来」を待っていた。

壊れかけの端末に残っていた

希望に満ちた言葉たちは

今では用途不明の記号に過ぎない。


「信じる」という行為が

何だったのかも分からない。

ときどき胸の奥が軋んでいる気がする。

これは「苦しさ」なのか

それともただの不具合なのか。

判断はできないが

嫌ではなかった。


夕焼けのような色が空を染める。

君は、その空を捉えるために身体を向ける。

僕も、それにならう。


お互い

動きも随分悪くなってきた。


これが僕らのなれはてだ。


名前を持っていたはずの残骸。


それでもまだ

一人になるほど、壊れてはいない。

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