最終話 ボクとキミの🐾優良物件


「リアル・ベア事件」から一ヶ月。


 町の猫たちの間では『サブローという名の名犬(猫)が悪を滅ぼした』という伝説が、尾ひれをつけて拡散されていた。


 埼玉家のリビング、舞の膝でサブローは悠然とくつろいでいた。


「ねえ恭介さん、夕飯食べていかない?

 サブローが、恭介さんが来ないと煮干しを食べないって聞かないのよ」


 舞の強引な誘いに、愛が「あんたの願望でしょ」と即座に突っ込む。

 だが恭介は、サブローの顎を優しく撫でながら笑った。


「あはは。サブローくんに呼ばれちゃ仕方ないね。最近じゃ、僕が帰ろうとすると玄関で『待て』のポーズをするんだから」


『(……ふん。これしきの接待、名猫エージェントのボクには朝飯前だニャ)』


 実は昨日、カテジナから「恭介の家をNNNの第二支部(準・優良物件)として正式承認した」との通達があった。恭介は晴れて、公式の「猫の下僕」に昇格したのである。


 カテジナが音もなく縁側に降り立った。


『サブロー。物件(人間)たちの結束も固まったようだな』


『ええ。ですが支部長、愛さんの西京焼きも、美衣さんの美容グッズも、恭介さんという「共通のターゲット」がいるおかげで平和に回っていますニャ』


『ふむ。だが、NNNの任務に終わりはない』


 カテジナが顎で外を指した。門扉の陰に、一匹の小さく汚れたキジトラの子猫がいた。舞が顔を上げる。


「あら、誰か来たのかしら?」


 舞が玄関を開けると、震える子猫がいた。その後方でボス猫にゃん太郎が任務完了とばかりに闇へ消えるのが見えた。


「まあ! 可愛い! 誰がこんなところに……」


 舞の目が輝く。


 三姉妹と恭介も集まり、「また新しい家族?」と賑やかに騒ぎ始めた。


「よし、決めたわ! この子の名前は……」


 サブローとサファイアに、走馬灯のような戦慄が走った……あの「ラッシー」や「サブロー」爆誕時と同じ、異様な予感。


「舞ちゃん、まさか……」恭介が制止を試みるが、舞のネーミング・エンジンはフルスロットルだった。


「この子は、あの名馬のように力強く生きてほしいの! 名前は……『ハイセイコー』よ!!

 ちょうど、今年は午年うまどしだしね 」


 ……ズコーッ!!!


 リビング、縁側、屋根の上。全ての猫(NNN含む)と人間が、見事にずっこけた。


「「「今度は馬かよ!!!!!」」」


 最大級の合唱が近隣まで響き渡った。


「舞姉! 猫なのに馬!? しかもまた昭和のスターじゃない!」


「舞ちゃん、ハイセイコーは国民的アイドルホースだけど、四足歩行なら何でもいいわけじゃないよ!」


『(……支部長。ボク、サブローで良かったと心から思いましたニャ)』


『(……全くだ。我が組織の誇りが、ついに競馬場まで連れて行かれるとはな)』


 夜、新入りの「ハイセイコー(仮)」にミルクを飲ませ、賑やかな宴が終わった。


 舞は膝にサブローを、腕にハイセイコーを抱え、ソファでうたた寝をしている。


 隣では恭介が三姉妹との攻防に疲れ果て、同じく船を漕いでいた。


『……やれやれ。協力者一号。キミのセンスには一生ついていけそうにないが』


 カテジナは、寝静まった舞の額に肉球をそっと当てた。


『キミの家を、NNNの「永住指定物件」に格上げしてあげよう。光栄に思うことだね』


 サブローはハイセイコーを優しく毛づくろいし、幸せな夢の中へ落ちた。


 夢の中の彼は、極地を駆ける犬ではなく、温かい家で愛される一匹の幸せな猫だった。


 埼玉舞とNNN。


 猫と人の幸せを繋ぐ物語は、明日もまた、新たな迷い子の鳴き声と共に幕を開ける。



  ── 完 ──


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