レンズフライ

桃里 陽向

第1話 光の残像

その日、空はやけに澄んでいた。

夕暮れ前の光が街のガラスの窓に反射して、ひなたは少しだけ目を細めた。


--まぶしい


そう思った瞬間空の色が変わった。


青だったはずの空に、一本の光の傷が走る。最初はそれを飛行機雲だと思った。けれど、その光はあまりにも早く、あまりにも熱を帯びていた


「......え?」


次の瞬間、太陽とは別の“まぶしさ”が世界を覆った。


空が裂け、白と金の光が渦を巻く。


ひなたの視界が異常に広がった。


建物の影、遠くの山、空を横切る鳥の羽ばたき。全てが同時に、細かく、無数に見える。


--見えすぎる。


理解するより先に、衝撃が来た。

地面が揺れ、空気が震え、遅れて轟音が街を包み込む。


光の尾を引いた隕石は、地平線の向こうへ消えた。

けれど、”その残像”だけが、ひなたの目の奥に焼きついて離れなかった。


目を閉じても、光が消えない。

むしろ、閉じた瞼の中で、光はさらに強くなっていく。


「......なに、これ」


ひなたの視界にありえないほどの光の輪が浮かんだ。

まるでレンズ越しに世界を見てるみたいに。

この瞬間、ひなたはまだ知らない。

この隕石が、世界の見え方そのものを変えてしまったことを。

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