神がかる私の創造日記!

水秋

第1話:それは箱庭と呼ばれた。

(……”#$%&’()0=〜?)

(…………&(&$#”%&っ!!)


 よく分からないボタンを押した。

 参考書に従って、思考を音に出す。


(……エット……コレデ イイ ノカナ?)


 私は理立神成学校に通う見習いの神。

 立派な神になるために学んでいる。

 学校からの課題で変な物を配られた。


『箱庭』


 そう呼ばれた半透明の四角い立方体の中には何もない。

  一緒に配られた参考書をよく読んでから、課題に励めとのことだった。

 その課題とは、これを使って……


・自活する生命を創ること

・その生命を安定させること

・記録する事


 重要:ただし、一度蓋をした後に直接的な干渉はしない事。


(……セイメイ ッテ ナンダロウ?)


 最後の干渉に関しては良く分からないが、この三つだけ。

 ちょー簡単じゃないの。


(エット……コレデ、キロク デキテル ノカナ?)


 とりあえず横についている記録装置なる物のボタンを押し、思考を音に出してみる。

 いい得ない違和感に苦笑い。


(……ワタシッテ、コンナ ヘンナ オト ナンダ……笑)


 初めて聞く自分の音に、気持ち悪さを感じるのは何故だろうか。

 私を含めてみんな、普段は「音」を使わなくても意思疎通ができる。

 だが今回の課題では創造過程での私の思考も記録しないといけないのである。


   ◇


 こう言う時の私は冷静だ。

 記録しているということは、この課題に対する姿勢も評価しているに違いない。

 滅多に思考を漏らさないあの陰湿な先生神の考えることだ。

 絶対そうに違いない。


 だから私は、とりあえず思考を音に出して参考書を読むことにした。


「マズハ、コノ コナ ヲ イレテ カキマゼル……ツギニ、フタ ヲ シテ サンカミプン マツ……ト……」

 

 幾つかの工程を手順通り進める。

 なんの問題もなくスムーズに進み、初期設定を終わらせた。

 やっぱり簡単。

 やっていて思った事がある。


(ワタシハ モシカシテ テンサイ カモ シレナイ……!!)

 

 幼神園、小神学校。

 これまで私は何の問題もなく、寧ろ良い成績で成長してきた。

 そして今、中神学校の三定期。

 高神校への成長か、留神年かが懸かった大一番。


 これまで数多くの神たちが、この課題で躓き、成長を諦めつっぱり堕天使や、見た目ばかり厳ついが実は優しい邪神などに成り下がっていった。

 

 それなのに、多くの脱落神を生んできたこの課題を私は難なく進めている。

 それを才能と言わずしてなんというのか私は知らない。


 記述を音に出して読んでいるだけなのに、分かった気になっていたのである。

 だがこの時の私には、知る由もなかったのだ。

 まさか……あんな事になるだなんて……


    ◇


 三神分が経った。

 正確には二十神分以上経過していた。

 その間私は何をしていたかというと、余裕をこいて神間超年ジャンポに夢中になっていた。


 だが、抜かりはない。

 次のステップはしっかりと音に出して理解していた。

 三神分経過すると混ぜた粉が箱の中心に集まり、やがて大きな泡になる。

 そしてそれは次第に小さく一点に集まって、弾ける。

 これを創生の原初と呼ぶという。

 創生の原初が終わると箱の中は無から真っ暗な空間になる。

 よく見てみると小さな埃のような輝きが見られるとのこと。


 どうせ泡が弾けるのだから暫く放っておいてもいいのだと思っていた。

 だから私は時間を有効活用したまでなのだ。

 ところが問題が発生した。

 参考書の下の方に小さく注意書きがされているのを見つけてしまう。


・泡が弾けるのは数回、多くとも三回以内で次のステップに移りましょう


 なん……だと……。

 認めよう、迂闊だった。

 急いで箱を確認してみる。

 しかし何の異常も見られない。

 真っ暗になっているし、輝く埃も見える。

 埃の量が若干多い気もしないでもないが、まあ問題ないだろう。

 やはり私は天才だ!

 そう思って、次のステップに移る。


   ◇


 段々思考を「音」にするのも慣れてきた。

 そして私の中で一つの閃きが浮かんだ。


(……これ、もっと早く進められないかな……?)


 早さは大切。

 仮にもし学校の誰よりも早くこの課題を終わらせたとしよう。

 そうすれば何が起こるか想像してみる。

 具体的には、


・すごい!と褒められる

・強い!と尊敬される

・やばい!と崇められる


 これだ。これしかない。

 この閃きを無駄にはできない。

 そうと決まれば実行に移すのみ。

 私は次のステップである


・丸一神日はそっとしておく


 という工程をすっ飛ばすことに決めた。

 通常は丸一神日放っておく間に、箱の中身の温度が上がったり下がったりを繰り返してやがて安定するのだという。

 そっと箱を触ると、これがまた中々に熱い。

 参考書の手順で温度が重要なのだと理解した私は、ほんの少し蓋を開けて熱を逃すことにした。

 すると狙い通り温度が安定した。

 私まじで天才だな。可愛いし。


 しかし同時に様子がおかしいことにも気づく。

 輝く埃が渦を巻き、幾つかの集合体になっていた。

 参考書の記述では通常この渦は多くとも三つだという。

 だが私の箱の中の渦は大きなものが二十数個ほど確認できた。

 やばいことになったかも知れない。

 参考書のどこにも多ければ良いというものではない旨の記述はない。

 つまり私は──


「……誰も成し得ていない偉業をやっているのかも知れない!!」


 待て待て落ち着け。

 こういう時こそ冷静でなければ、これまでの苦労が無駄になる事が多い。

 そういった類の記述を、休み時間に先生神の机においてあった神間文神で読んだことがある。


 どれだけ有名な神になっても、初心を忘れて調子に乗っていてはすぐに撮られて地に落ちる。

 有名な神々の私生活を撮る邪神家たち。

 そんな嫌がらせをして何になると思っていたけど、これが不思議と人気なのだ。

 危ないところだった。

 彼らのようになってはいけない。

 私はいずれ有名な何かの神になって、何かしらすごい事をするのだから。


 そんなこんなで、冷静さを取り戻した私は、箱の中に現れた光る渦ををいくつか取っ払ってゴミ箱に捨てて、次のステップに移ることにした。

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