サバイバーズ監・監獄都市ゾンビパンデミック

白熊堂

第1話

「メリークリスマス……君達、運が無かったな」


 全身黒ずくめの覆面の男が、周りの死体を見て呟く。

 男の周りには頭を鈍器鉄パイプで潰された者、首が明後日の方向に向いた者、凶器ナイフを刺された者、首を凶器ナイフで掻き切られた者など、いずれも下半身が露出して、半裸の男達が数人転がっていた。

 そして、半裸の男達に暴行されていたであろう、若い女も心臓を凶器ナイフで刺され既に息をしていなかった。

 この惨状を引き起こしたのは、全て目の前の黒ずくめの覆面男である。

 そして、覆面の男は死体から数本の凶器ナイフを抜き取ると、男達の死体の服で血を拭き取り、周りに転がる幾つかの袋から食料や水、使える物を探すと、残りは転がっていた死体を集めて、ジッポライターで適当に火を付けて燃やし、その場を去っていく。

 ここは警察、アメリカ軍基地、自衛隊基地、警察署、総合病院、ショッピングモール、スーパーマーケット、その他様々な、施設や設備が配置された通路……それらが意味不明に組み合わさり、結合されて超巨大な檻のような施設を形作る場所。

 その施設の中には、たまたま施設内に居て無作為に選ばれた数万人の人々がいた。

 そう、数ヶ月前までは……

 数ヶ月前、このふざけたサバイバル殺人ゲームは、突然幕を開けた。

ゴゴゴゴゴゴ……最初、人々は建物が揺れる感覚で、大きな地震が起こったと思って、机の下などに隠れる。

 しかし、その揺れが収まった後、周りの景色は一変していた。

 複雑に入り組んだ周囲数十キロ四方、高さ100メートルを軽く超える程の巨大で、歪な結合施設内に自分達が隔離されたとは誰も思わず、救助が来るのを待つ。

 しかし、救助を待つ彼等が耳にしたのは、各施設の放送を通じて流れた、不気味で非情な通達だった。

 曰く、この巨大施設には、数万人の人々が閉じ込められているが、出口は無い。

 曰く、施設内の各物資は有限であり、各種物資は数ヶ月分しかなく、特定の手順を踏めば新たに補給される場合がある。

 曰く、数万人の内、半年後まで生き残った内の千人のみが生き延び、外に出る事が出来る。

 曰く、このゲームにはゾンビやモンスターが現れる。

 これを聞いた人々は最初は冗談だと思うが、半月が経過すると、所々にゾンビや怪物などが本当に現れ、これが冗談では無いと知り、必死に動き始めた。

 そして、絶望的な異界化ゾンビサバイバルデスゲームが幕を開けた。

 全身黒ずくめの覆面男は周囲を警戒しつつ複雑に入り組んで異界化した総合病院の廊下を進む。

 彼は足音も立てずに何処かを目指していた。

 そして、着いたのは、異界化した白衣のゾンビが徘徊する総合病院の最上階、階段を境界にして、凄まじく頑丈で危険なバリケードで、中と外から完全に塞がれた階層の、奥の奥に有るVIPルームの前だった。

 彼は部屋の前の凄まじく頑丈なバリケードの一部を弄ると、人が一人やっと通れる隙間が開く。

 周囲に警戒しつつ、頑丈なバリケードの隙間に体をねじ込み部屋へと入る。

 すると、突然頭上から鉄の棒が振り下ろされるが、そのヘロヘロと力の入ってない棒は男に簡単に受け止められた。

「おい、鉄の棒を振り下ろすなら相手を確実に殺す気でやれ……何度言わせるんだ。君達はこんな場所で死にたいのか?」

 室内に入った男はバリケードに再び細工すると隙間が完全に埋まる。

 すると、物騒な事を言う男の前に、今しがた鉄の棒を振り下ろした女、デスゲームが開始されてから半月ほど、代わる代わる使い古した薄汚れた下着にナース服を羽織り、暖かい毛布を被ったスレンダーで少し地味ながら可愛らしい三人の女達が寄ってきた。

「ほら、これだけあれば暫くは大丈夫だろ?」

 男はここに来るまでに手に入れた荷物を、女達にポイと渡すと、部屋の隅のそこそこ大きなソファーの一つに腰掛けた。

「いつも……ありがとうございます……」

 荷物の中身は水やジュースと食料、女達に必要な雑貨類である。

 この部屋は、元々は総合病院のVIP療養用の豪華な個室であったが、今は男と、何故か下着姿にナース服を羽織った女三名を含めた四人が潜伏している。

「ああ、そんなの気にすんな。ストック分の物資以外はちゃんと食べなよ。君達痩せすぎ。食べ物なんて幾らでも補給出来るからね。ほら」

 女達は、男が何もない空中から出した荷物を、さらに受け取る。

 脳内量子空間インベントリは、狂った覆面男の固有スキルで有り、使われていない脳の領域に、単純な構造の物資を、大量に記憶して取り入れる事ができ、構造が難しい物は取り入れる事が難しいが、破格の能力の一つである。

 女達は、男が寄越した荷物から、少量の水と食料を出して食べ始めるが、あとは大きなクローゼットの棚に大事にしまう、クローゼット内は大量の食料や水、雑貨が綺麗に整頓されていた。

「それで、外は……どうでしたか……」

 地味な女の一人が男に声を掛ける。

「ああ、今日も数人死んでたよ。気持ち悪いゾンビや化物も、下の階に、うようよ居たね」

 男は時計のようなモノを女達に見せた。

 時計の下には黒色で682、青色25、黄色で10、赤色で352の文字が映り、上には白い文字で46350の文字が映る。

 男の全ての文字は前回、外に出た時よりも増え、白文字のみ減少している。

 女達も同じ時計を持っていたが、色のついた文字はいずれも0であった。

「また、沢山殺してきたんですね……」

 女の一人が呟くと、男は鉄格子が嵌められた窓を少し開けて、電子タバコを深く吸って、ストロベリーのフレーバーを肺に入れつつ、女を少しだけ睨む。

 窓の外には景色はなく、灰色の霧のようなモノが視界を塞ぐ、新鮮な空気は入って来るし、たまに雨が降ったりもする。

「ごめんなさい…」

 睨まれた女は、直ぐにガタガタと震えだして土下座しつつ、器用に男にしがみついた。

 この女達は、覆面の男の気まぐれで生かされている、若いナース達であった。

 そして、男は精神科で隔離されていた、超が付く危険人物で超能力者でもある。

 男と彼女達の出会いは、この忌々しいサバイバルデスゲームが開始されて一月が経過した頃だった。

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サバイバーズ監・監獄都市ゾンビパンデミック 白熊堂 @sirokumado

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