街の呼吸

Spica|言葉を編む

第1話 センター街―City Xmas―

 師走の土曜日。


 ここ数日で一気に冷え込み、街には冬物コートやダウンが増えた。それでも三宮センター街は相変わらず人であふれている。期末試験を終え、今を満喫する学生たちのはしゃぎ声。手を繋いで歩くカップル。子を連れたファミリー。


 年末前のこの時期は、一年の中でもひそかに幸福が濃くなる季節だ。


 センター街には小規模ながらXmasマーケットが並び、赤と緑の色彩が通りを明るくしている。マーケット横には大きなXmasツリー。


 掲げられた文字は “Merry Xmas” ではなく “City Xmas”。


 この、少しだけ都会の匂いを含んだ響きが妙に心地いい。


 旧い友との待ち合わせまでの時間つぶしに、ナガサワ文具へ寄り、その足で神戸BALへ向かう。例年よりずっと早いが、今年のXmasカードを選んでみようと思った。


 ──きっとこの街に漂う、ささやかな幸せの気配に背中を押されたのだろう。


 無事、Xmasカードを選び、センター街を抜け待ち合わせ場所に向かう。


 マーケットの屋台からは、木の香りとホットワインの甘い香り、そしてムスク系の甘い匂いがかすかに漂ってくる。小さなランプの明かりに照らされて並ぶ雑貨は、どれも手仕事の温かさを宿していた。


 ふと気づけば、巨大なツリーの前で足を止めている人が何人もいる。写真を撮るわけでもなく、ただ見上げている。その姿が、妙にいい。


 ──年の瀬が近づくと、人は少しだけ優しくなる。


 そんな気配を抱きながら、待ち合わせの場所に向かって歩き出す。

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