MICE

@Aeir_01

第1話 "Black"

第1章 「BLACK」


マックスは目を開けた。


黒。


瞬きをした。それでも黒。


頭が重かった。濡れた砂で満たされているような感覚。持ち上げようとした——かろうじて成功した。その動きで鈍い痛みが頭蓋骨に広がり、首筋へと伝わった。


どこ——


思考は完結する前に霧散した。


彼は何か硬いものの上に横たわっていた。冷たい。金属の冷たさではなく、石の冷たさ。もしくはコンクリート。判別できなかった。指先を下の表面に押し当てた——滑らかで、継ぎ目がない。


空気は淀んでいた。循環されているのかもしれない。長い間開かれていない部屋のような。


起き上がろうとした。腕の反応は遅く、まるで他人のもののようだった。やがてなんとか成功し、背後にあると思われる壁にもたれかかった。


それでも黒。


目を閉じた時の黒ではない。*無*の黒。視界が慣れても浮かび上がる形はない。ドアの下から漏れる光の筋もない。窓の輝きもない。


ただ黒。


静寂の中で、自分の呼吸音が大きく聞こえた。それとも静寂だったのだろうか?何かがあった——ハム音、かもしれない。あまりにかすかで、実際に聞こえているのか想像しているのか分からない。壁の中の振動か、それとも頭蓋骨の中の振動か。


顔に手を上げた。指は太く、不器用に感じた。頬に触れた——無精髭、記憶しているよりも伸びている。どれくらい——


最後に髭を剃ったのはいつだったか?


思い出せなかった。


手がさらに上へ、額へと動いた。髪はもつれ、洗われていない感触だった。そして指がそれを見つけた。


頭皮を横切る線。盛り上がっている。ざらざらした糸。


縫合糸。


ゆっくりとその長さをなぞった。右耳の上から始まり、頭頂部を曲線を描いて横切っている。触れると鋭い痛みが頭蓋骨に走るほど新しい。もう出血はしていないが、最近のものだ。


どれくらい最近?


思い出そうとした。


何でもいいから思い出そうとした。


日本があった。彼は日本にいた。それだけは分かる。彼のアパート——小さく、暗く、カーテンは常に閉められていた。ドア。誰かがドアの下に何かを滑り込ませた。


オファー。


1億円。


そして——


何もない。


記憶の欠落は物理的に感じられた。まるで誰かがフィルムの一部を切り取ったかのように。その前:ドアの下の紙。その後:この部屋。


この黒い部屋。


頭から手を下ろした。縫合糸がズキズキと痛んだ。


喉が渇いていた。痛いほどに渇いていた。最後に水を飲んだのはいつだったか?唾を飲み込んだ——紙やすりのような感触だった。


立とうとした。脚は震えたが支えてくれた。バランスを取るため片手を壁につけたまま足を引きずるように前へ進んだ。三歩。四歩。足が別の壁に当たった。


左に曲がった。壁に沿って進んだ。滑らかな表面、途切れることなく続く。ドアノブはない。継ぎ目もない。ただ壁。


この部屋はどれくらいの広さなのか?


進み続けた。歩数を数えた。壁はわずかに曲がっていた——たぶん。それとも方向感覚が狂っているのかもしれない。十歩。十五歩。また角。


小さい。部屋は小さいのだ。


一周したと思われるところまで来て、おおよそ同じ場所に座り直した。あるいは違う場所。判別不可能だった。


ハム音は続いていた。あるいは続いていなかった。まだそれが本物かどうか分からなかった。


頭が痛かった。縫合糸のある場所だけでなく——どこもかしこも。目の奥の圧迫感。長く眠りすぎたか、まったく眠っていないかのような頭痛。


どちらだったのか?


縫合糸は——糸の整然とした均等な間隔を感じた。プロの仕事。誰かが彼の頭を切開し、縫い合わせた。


なぜ?


痛み、手術、何かを思い出そうとした。しかしあるのは欠落だけ。記憶があるべき場所にある、きれいで空っぽの空間。


胃が空虚に感じられた。正確には空腹ではない。むしろ空腹という感覚がオフにされ、それから不正確にオンに戻されたような。存在しているが遠い。


どれくらいここにいたのか?


黒が目に押し迫ってきた。それを感じることができた、何故か。重く。辛抱強く。


壁に頭をもたれさせた。冷たさが心地よく感じられた。縫合糸が引っ張られる場所でさえも。


もし待てば、誰かが来るかもしれない。


もし待てば、思い出すかもしれない。


もしかしたら——


指が再び縫合糸を見つけた。ゆっくりと、系統的にその線をなぞった。糸は肌に対して異物のように感じられた。そこにあるべきではない何か。他人の身体に属する何か、自分のものではない。


しかしそれは彼の頭だった。彼の縫合糸。彼の黒い部屋。


そうではないか?


静寂がその問いを飲み込んだ。


マックスは暗闇の中に座り、頭蓋骨を横切る盛り上がった線に指を置いたまま、待った。


何を待っているのか、彼には分からなかった。


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