第3話 公式サポーター 後編

 翌日の月曜も相変わらずの酷暑が俺たち野球部を一方的に苦しめている。

 早朝でもまだまだ暑い中、朝練を終えた俺はボール遊びをしながらクラスメイトの登場を待っていた。二学期初日と同じく俺一人の教室。変わらず朝っぱらから忙しそうに蝉が鳴いている。

 席替えをしたせいで、窓から見下ろすことができず残念だが、代わりに教室に入り込んでくる陽光に目をやっていた。

 ボールを投げては掴むを繰り返していると、しばらくしてガラッと前ドアが開いた。待っていたわけではないのだが、休み明けに話を聞きたいと思っていた人物。

 黒色フレームのメガネ。フレームの内側は耳部分にかけて黄金色の派手な太線が入っている。その派手さが嫌味にならずおしゃれでかっこよく見えるのは、美人な彼女だけの特権なのかもしれない。

「矢上君、おはよ~~」

「おはよ」

「今日も朝練?」

 上機嫌な笑顔を向けられて照れくさい。

「そうそう」

 相変わらずの微妙な返事になってしまった。

 珍しく俺から切り出した。他に誰か来たら恥ずかしくて、聞けなくなりそうだと思ったから。

「そういえば、ラジオ聴いたよ」

「えっ、ほんと!嬉しい~。どうだった、どうだった?」

 濃藍の瞳を大きく見開き、高揚した彼女に言葉を遮られる。昨日感じたことを聞きたかったんだが、逆に質問されてしまった。

「ああ。面白かったけど、藍川さん、めちゃくちゃ大変じゃない? 六球団の一軍だけでなく、ファームも知らないといけなくて。それとゲスト毎回違うんでしょ。ゲストに合わせて、誰々のファンなんですよね、とか気を遣ったりしてて・・」

 うんうんと頷いているが、さっきのテンションがなくなっていた。喋っている途中で、はっと気付いたが遅かった。期待しているのは野球ネタの感想か。知らなかったとか、マニアックすぎとか、そんな野球好きが喜ぶ分かりやすい感想。

 藍川さんはやや俯き、薄い微笑みを浮かべ独り言のように何かを呟いた。それも一瞬のことで、ぱぁっと表情を明るくさせた。

「うん、レオネスは大丈夫なんだけどね、他チームのファームまでってなると覚えるの大変だよ。交流戦や日本シリーズもあるからほんとは12球団全部知ってないといけないんだ。でも、おかげで発見もあって、色んな選手を好きになれたよ。あと、ゲストさんは活動やSNSの投稿を毎回チェックしてるの」

 ゲストの活動やSNSをチェック?毎回?

「ラジオだけじゃないし、そもそも学校もあるし、それじゃあ、寝る時間もないんじゃ」

 彼女と目が合い、同時に目に飛び込む黒のメガネに声が出そうになった。

「うん、前日は一夜漬けしたり、毎日遅くまでネットで予習したりで・・・おかげで寝不足」

 えへへ、と照れた様子で笑う。

「そか」

「だから学校では少しでも寝ていたくてメガネ。結構ギリギリなんだよね。色々残念でしょ?」

 メガネを通して、こちらを覗き込んでくる。

「いや、そんなこと・・・・。メガネ、似合ってる。今日のはバイソンズカラーでしょ」

 照れた俺は左手で頭を掻き、そっぽを向きながら答えた。

「うん・・・ありがと」

 この静かな教室でギリギリ聞こえた声だった。


 ♪


「ねぇねぇ、矢上君。ファルコンズカラーって何色だろうね」

「ファルコンズ? ・・・黄色じゃない?」

「やっぱり黄色だよね。う~ん、黄色のメガネかぁ・・・」

「・・ああ、さすがに学校だと目立ちすぎか」

「だよね。よし! 大好きな色なんだけど先生に怒られそうだし、諦めよう!」

 大袈裟に残念そうなそぶりをアピールしている。

「ファルコンズ・・・・」

 嫌いでしょ・・・大事な時にファルコンズに良く負けてるからなぁ。わかりみが深い。


~~球団公式マネージャーについて~~


 JPB(Japan Professional Baseball organization=ジャパンプロ野球機構)は、日本におけるプロ野球を統括する組織である。その役割はセ・リーグ、パ・リーグの試合運営のほか、ファンイベントや宣伝活動などを通じてプロ野球の普及・振興を担っている。

 しかし、実情はJPBよりも球団オーナーの権限が強く、実質、各球団は独自に運営していた。球団運営は入場料や放映権、グッズ販売、球場グルメといった収益管理に加え、ファン獲得、満足度向上を狙ったイベントなど多岐にわたる。各球団が特色を出しつつ、球団同士で競争する仕組みが形成され、日本独自の発展を遂げてきた。

 こうした中、メジャーリーグで活躍する大谷選手を筆頭に盛り上がりを見せるプロ野球の人気を受け、JPBはタレントユニットを発足させた。

 それがJPB公認の『球団公式サポーター』である。

 球団公式サポーターの役割は以下の通りである。

 ■担当する球団におけるアンバサダーとして、球団の人気向上に尽力すること

 ■担当する球団の地元地域や関連する地方地域におけるプロ野球の普及・発展のために尽力すること


 また、球団公式サポーターの採用と調整はJPBと各球団が行い、その応募要件は以下の通りである。

 ■満15歳から25歳までの女性

 ■本名で活動できる方

 ■応募球団の本拠地近郊に本籍がある、または予定がある方

 ■プロ野球および応募球団のファンである方

 ■プロ野球関連の企業・団体に所属していない方


 そして、公式サポーターは各球団に2名ずつ割り当てられる。すなわち、1軍担当に1名、ファーム担当に1名の計2名。全12球団であるため、計24名のタレント集団となっている。JPBに採用された24名は担当球団のために献身的な活動をするだけでなく、役割の2つ目にあるように地元地域を中心に地域密着でのプロ野球の普及やファン獲得の活動を期待されている。そして、これらの活動をするために必要に応じて他の公式サポーターと強固に連携する。従来の構図になかった横の連携。その特別な役割を担うがため、球団公式サポーターはユニットとなっている。

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藍の輝き、もう一度 シャボン玉 @shabon_dama

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