第3話 インターン①
「飲み屋でインターンって、どういうこと?」
夕方。四ツ谷駅から少し離れた場末の居酒屋。僕は首を傾げながら古ぼけた暖簾をくぐった。
お婆さんによると、この居酒屋の隅で飲んでいるオジさんと仲良くなってきて、ということだった。これがインターン?意味が分からない。
というか、僕一人でお店にやってきて、どうやってインターンの状況を確認するんだろう。
「らっしゃい!」
居酒屋に入ると、左手のカウンター席の向こう、厨房の中から威勢のよい声が聞こえた。短い白髪に鉢巻きをした強面の年配の男性。店主だろうか。
店内は、カウンター席のほかテーブル席が2つ。カウンターもテーブル席も、かなり年季が入っている。
店内の客は一人。カウンター席の奥で、中年の男性が座ってビールを飲んでいた。
僕は、その男性の左手側に、一つ席を空けて座った。
座るとすぐに、店主がカウンター越しに声を掛けてくれた。
「若い子がうちに来るなんて珍しいね。何にする?」
「あ、とりあえず生ビールと枝豆を」
店主に注文した後、僕は横目で右隣に座る中年の男性を見た。くたびれたスーツ姿に暗い顔。ビールを飲み干し、次は冷酒を飲んでいる。
このオジさんと仲良くなればいいのかな。でも、知らない人と話すの苦手なんだよな……
とはいえ、一応インターンということなので、勇気を振り絞って話しかけてみることにした。
「あ、あの……」
「へい、お待ち!」
僕の声をかき消すように、店主が生ビールと枝豆をカウンターに置いた。
出鼻をくじかれた僕は、話しかけるのを止めて、とりあえずビールジョッキを手にとって一口飲んだ。
「なんだ、学生か? こんな時間から飲めるなんていい御身分だな」
僕の右手に座る中年の男性が、僕の方を睨んでそう言った。話すことには成功したが、最悪のスタートだ。
オジさんも飲んでるじゃないか、などと内心思いながら、僕は笑顔で応じた。
「す、すみません……でも、明るいうちに飲むお酒は美味しいですよね」
「何が美味しいですよね、だ! こっちの気持ちも知らずに……」
「何かあったんですか?」
「お前に言っても分からねえよ!」
「す、すみません……」
オジさんに怒られてしまった。どうしていいか分からず、僕はオジさんを見つめる。
オジさんのスーツはくたびれていたが、汚れてはいなかった。履いている革靴も、使用感はあるがそこまで汚れていない。靴底もそんなにすり減っていなかった。
カウンターの下にはビジネス用の鞄が置かれていた。中身はそんなに入ってなさそうだ。
ふとオジさんの首元を見ると、青色のストラップが見えた。ストラップの先には身分証のようなものが付いていて、ワイシャツの胸元のポケットに入れられていた。
「はあ、学生は気楽でいいよなあ……」
オジさんが冷酒をあおると、ため息まじりに呟いた。
「何か大変なことがあったんですか?」
「だから、お前に言っても分からないって言っただろ?!」
「ごめんなさい……」
また怒られてしまった。流石にこのオジさんと仲良くなるのは無理かな。そう思ってオジさんから視線を外そうとしたとき、オジさんがポツリと呟いた。
「はぁ、どうしてこうなっちまったんだ……」
あれ、もしかして話してくれる?
僕はオジさんの方に身体を向け、真面目な顔でオジさんを見つめた。
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