第2話 面接

「いらっしゃい。面接を予約してくれてた子ね。さあこちらへどうぞ」


 ドアを開けて出てきたのは、人の良さそうなお婆さんだった。


 ドアの中は事務所というより普通の家という感じだ。あちらこちらに雑多な物が置かれていた。


 ドアから入ってすぐ左手、廊下からチラリと見えた部屋には、古い学習机が置かれていた。机に置かれた古いオモチャを見る限り、どうやら昔に男の子が使っていたようだ。


 その部屋の中はゴチャゴチャと雑貨が散乱していたが、ガラクタに混じって部屋の隅に宇宙物理学の専門書や論文らしきものが積まれていた。


 また、子どもの絵本、比較的若い男女が着るような服が乱雑に置かれているのが一瞬目に入った。


 子どもの頃、よく父親と「部屋の中の物がどこにあるかを当てるゲーム」をしていたこともあり、ついついこういった部屋の中の物を見てしまう。


 僕は慌ててその部屋から視線を逸らせると、お婆さんの後ろを付いて廊下の突き当たりのダイニングへ向かった。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 ダイニングのテーブルに座ると、お婆さんがお茶の入った湯呑みと茶菓子を出してくれた。そのまま僕の向かいに座る。


「ごめんなさいね。ここは事務所兼自宅なの。私、ここにひとりで長く暮らしていて、散らかっててごめんなさいね」


 お婆さんがニコニコしながら僕に聞いた。


「あ、はい。ごく普通のお宅のように見えてビックリしましたけど……」


 僕がそう言うと、お婆さんが興味深そうに僕に聞いてきた。


「けど? 何か他に気になることがあるの?」


 僕は少し悩んだが、お婆さんの優しそうな笑顔を見て、とりあえず自分の思ったことを伝えることにした。


「あ、はい。何となく違和感がありまして」


「違和感?」


「はい。てっきり研究者か何かをされている息子さんとそのご家族が一緒に住まれてるのかと」


 僕がそう言うと、お婆さんの眉が一瞬だけピクリと動いたのが分かった。


「どうしてそう思ったの?」


「廊下から見えた部屋に絵本や服がありましたので……」


「他には?」


「あ、あと男の子の学習机があって、部屋の中に宇宙物理学の本や論文みたいなのが積まれていたので、息子さんは研究者なのかなと思いまして」


 お婆さんは、僕の話を聞きながら相変わらずニコニコしていたが、先程の眉の動きが気になった。


 もしかすると気を悪くさせたのかもしれない。僕は慌ててお婆さんに謝った。


「あの、ごめんなさい。子どもの頃から色々なものに目がいく癖がありまして。勝手に家の中を見てしまってすみません」


「いいのよ、いいのよ。気にしないで」


 お婆さんが笑顔で言った。どうやら気分を害した訳ではなさそうだ。


 内心胸をなで下ろした僕に、お婆さんがニコニコ笑顔のまま口を開いた。


「それじゃあ、1日インターンを始めましょうか?」


「へ?」


「準備するからちょっと待っててね」


 驚く僕をよそに、お婆さんはテーブルを立ち、ダイニングの外へ出て行ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る