ひかりさす

成城諄亮

第1話

 汐恩しおんはいった。子どもができた、と。金曜日の夜、ソファに座り、お気に入りの映画を観ていたときだった。




「そっか。よかったな」俺はいった。


「なんで他人事なの。りんちゃんとの子なのに」


 汐恩は俺の目を見て、確かにそういった。


「俺と、汐恩の……、こども……?」


「そうだよね、驚いちゃう……よね」


 俺も、汐恩も、少しばかり黙ってしまった。


「あのさ……汐恩って……男、だよな……?」


「……」


「なぁ、男なんだろ?」


「……男、だよ」


「じゃあ何で男の汐恩が妊娠なんか――」


「産まれたときは、女だった、から」


「……は、なにそれ。汐恩は男だろ。女なわけ……」


「これ見ても、そういえる?」


 汐恩は、俺に向かって一枚の写真を見せてきた。フリルが付いた服を着た子どもが、不機嫌な顔で写っている。「汐恩、1歳おめでとう」という文字とともに。


「は、なに。なんの冗談?」


「倫ちゃんと出会ったときは、治療初めて一年が経過してたから。信じられない気持ちも、分かるよ」


「じゃあ、なんで子宮残してんだよ」


「好きな人との子ども、欲しいと思ってたから」


 頬を紅潮させた汐恩は、やっぱり俺の知っている汐恩だ。なのに。


「騙してたのかよ、ずっと」


「騙したんじゃないって。いつか、本当のこと話さなきゃって、思ってた」


「それが今かよ。ふざけんな。意味わかんねえよ、まじで」


「倫ちゃん……」


「ごめん、先寝る」


「……そっか」


 寂しげな空気を遮るように、俺は寝室のドアをばたりと閉めた。

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