オババの魔界恋愛相談所へようこそ!
時枝 小鳩
Love case1 初恋バンパイア、アノンの場合 その①
「オババ! 私を人間にしてくれ!!」
「は? 何を言うとるんじゃ、お主は?」
◇ ◇ ◇
魔界の森の奥深くに、ポツンと佇む一軒の小屋があった。
通称『オババの恋愛相談所』。
そんな風に呼ばれてはいるが、何のことはない、普通にワシとワシの使い魔が住んでいる家だ。
そもそもワシは、相談所なんぞ開いた覚えはまったくない。
勝手に相談にくる魔界の連中の話を聞いて、面倒くさいから適当にアドバイスや手助けをしてやっていたら、いつの間にかそんな風に呼ばれるようになっていたのだ。
ま、それなりに対価は貰っておるし、暇つぶしにはなるからよしとしよう。こちとら、有り余る寿命を持て余している長命種なのである。
ちなみに、何故『恋愛』相談所なのかというと、どうせ聞くなら他人の恋バナの方が楽しいから重点的にそっちの話を聞いていたらそうなった。魔界は全てにおいて割と適当だ。
……さて。
今ワシの目の前で『人間にしてくれ』と素っ頓狂な事を言っている男は、今となっては数少なくなってしまった純血種のバンパイアだ。
名前はアノン。歳は確か100歳か200歳かそれ位だったと思うが、まだまだ尻の青いひよっこだ。
「人間の娘に一目惚れした! 付き合いたい!!」
「こんの阿呆がっ! ミイラ取りがミイラになってるんじゃないよ!?」
バンパイア族は、近年深刻な少子化に悩んでいる。目の前のアノンは貴重な生殖適齢期のバンパイアなのだが、数ヶ月前に
『私が人間の世界へ行って、沢山の同胞を作って来る!』
と、周りが止めるのも聞かず人間界へ突撃していったのだ。
かつてはワシらのような魔の者の狩場になっていた人間界は、今となっては超危険地帯だ。
人間は強くなり過ぎた。
世のことわりも無視して異世界から俺tueee!! なチートを召喚したり、死んだ人間がなんか知らんが死に戻ってやり直したり。
挙げ句の果てには散々とんでもない事をしでかしておきながら『え、俺なんかやっちゃいましたか?』と、きたもんだ。
はっきり言ってやりたい放題なのである。
「アノンよ、バンパイア族の誇りはどうしたのじゃ? お主は一族の命運を担い危険を承知で人間界へ行ったのであろう。同胞を増やすという目的はどうした? 人間は争いばかり。愚かで醜かったであろう?」
「誇りは知らん。同胞はいらん。人間めっちゃ可愛かった!!」
「こんのおバカ!!」
何だかオババ、頭が痛くなってきたよ?
「なあーぁあー、いいじゃんおババ。早く私を人間にしやがれ」
「言葉使いまで悪くなっとる!! だから人間界になんて行くなって言ったのに!?」
何ということじゃ、アノンは少しおバカだが素直で優しい良い子だったのに……。
「アノンよ、人間になんぞなっても良い事はないぞ? 人魚のナシールの事を忘れたか? あんな悲劇を繰り返してはいかん」
人魚のナシールは人間の世界に憧れ観光へ行き、偶然出会った王子とワンナイトしてそのまま人間になる事を望んだ。
しかし、出会ったばかりの人魚とワンナイトするような王子が碌な王子な訳がなく、浮気三昧で即破局。
怒りに燃えたナシールは姉人魚達と共謀して王子を海に沈めようとし、あわや人間の国と全面戦争になりかけた。
「忘れてないからここに来たのだ! 人魚を人間に出来るのだから、バンパイアも人間に出来るだろう!?」
「…………」
「早くぅー! 早くぅー!」
「…………」
「あ、この薬か!? それともこの杖を使うのか!?」
「やめんかい!!?」
「ん? 何だこのやけに薄い本は……」
「ぎぃーゃあぁあーーー!!!!」
思わず渾身のビンタをぶっ放してしまい、アノンが綺麗に弧を描いて飛んで行く。
飛んで行く最中でコウモリに変身したアノンは、随分と可愛らしい姿になってパタパタと飛んで戻ってきた。
「痛いよー、オババー」
「なんって事をするんじゃ!! オババにもプライバシーってもんがある!!」
「だって、オババが中々人間にしてくれないから……」
可愛らしいコウモリの姿でしょぼんとされると、何だか小動物を虐めているみたいで罪悪感が湧く。
実際は無敵のバンパイアの癖に、ババアのビンタ一つでゴチャゴチャ言うんじゃないよ、全く。
「はぁー。大体アノン、人間になるにはそれ相応の対価がいるのじゃぞ? ナシールはあの美しい声と引き換えに足を得た。お主は何を対価にするつもりだい?」
「ああ、人魚のナシールは声と引き換えに足を得たのであろう? 確かにそれは等価交換かもしれないが、私は私のこの永遠ともいえる言える命と、人間の短い寿命を引き換えるのだ。
……むしろ何かくれ!」
「図々し!! 正気か!?」
何ということじゃ。確かにアノンは空気が読めず無遠慮なところがあったが、ここまで厚かましい子ではなかったのに。
これは間違いなく人間の価値観に毒されたに違いない。
たった数ヶ月でこうもバンパイアを変えてしまうとは、げに恐ろしきは人間界!!
ヨロヨロとよろめきながらテーブルに手を着くと、それまで大人しくこちらを見ていた黒豹がワシを労わるように体を擦り寄せてきた。
この、ワシよりも随分図体のデカい黒豹の名は『シュバルツ』。ワシの使い魔だ。
まだ駆け出しの魔女だった頃。
街中でびしょ濡れで震えている小さな黒猫を見たワシは、『魔女の使い魔といえば、やっぱり黒猫よね!』という安直な考えでその黒猫を拾い、使い魔契約を交わした。
だがシュバルツは実際には黒猫どころか黒豹だった訳で、それどころか……
「なあーぁあー! オババ、私は急いでいるんだぞ! 早くしないとサラが他の男と結婚しちゃうかもしれないだろ!?」
……サラ? それがアノンが一目惚れしたとかいう娘の名前か?
「まったく……で? そのサラとかいう娘は一体何者なんじゃ?」
「よくぞ聞いてくれたオババ! サラはな、その清らかな姿に見合う、それは尊い存在なのだ。なんと聖女だ!」
………………せい、じょ……?
え、よりにもよって聖女にバンパイアが一目惚れしたの……?
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