飽くなき灰汁

岸亜里沙

飽くなき灰汁

結婚して数年、料理みたいにゆっくりとコトコトはぐくんできたワタシたちの関係性。

ほどよく味が染み込んで、いい塩梅あんばいなんじゃない?

でもなんだか最近、灰汁あく多くない?

掬っても、掬っても、また溢れそう。

「なんなのよ、この灰汁あくは!」

喧嘩になると、ワタシはいつも叫ぶ。

「逆に言えば、それだけ同じなべに入ってた証拠なのかもな。もう少し煮込めば、灰汁あくも消えていくよ」

彼は笑いながら話す。

「そんな考えはあくよ!灰汁あくだけに…」

また言ってしまった。彼の十八番おはこの親父ギャグまでしっかりコピーしてしまったワタシ。自分でも信じられない。

「上手い!座布団1枚!」

彼が手を叩く。

「何も面白くないわよ!灰汁あくはしっかり取らないと、せっかくの結婚りょうり離婚だいなしになっちゃうのよ。その内なんとかなるってもんじゃないの!手遅れになるわ!お分かり?」

ワタシは力説する。

昨日、駅前で見た某政治家の街頭演説みたいだと自分でも思った。

「君のネバネバした灰汁あく、食べてあげるよ。ペロペロって」

彼はイタズラ小僧みたいに舌を出す。

「…な、何よ、それ!悪食あくじきにも程があるわ!ワタシはあなたの灰汁あくなんか絶対舐めてあげないんだから!」

ワタシは顔をまっ赤にする。

「もうさ、この際、お互い灰汁あくは全部出しちゃおうよ。そうすればきっと、気持ちいいから」

彼は体をワタシに近づけ、髪に触れてくる。

「ちょっと、触らないでよ…」

不意なドキドキが、灰汁あくのようにドバドバと溢れ、齷齪あくせくとワタシを濡らす。

ああ、狂おしいほどの飽くなき葛藤。

「喧嘩して、仲直りした後の食事セックスは凄く美味みだらなんだ。灰汁あくを取って、最高の出汁が出来たんだからね」

「まだ仲直りしてな……んんっ」

強引に唇を重ねて口封じされ、ワタシは言葉を失う。


そういえば、どうしてワタシは喧嘩してたんだっけ?

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飽くなき灰汁 岸亜里沙 @kishiarisa

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