【閲覧注意】SSS級モンスターの死骸、美味しく調理してみた。~毒耐性MAXなので世界一のゲテモノ配信を始めます~

しゃくぼ

第1話:それは、あまりに美味しそうな絶望だった

第1話:それは、あまりに美味しそうな絶望だった


202X年、東京。

新宿の空に巨大な亀裂が入ったあの日、文明は一度死んだ。


「逃げろ! 早く! 第3防衛線が突破された!」

「嘘だろ……あいつら、Sランクの『剣聖』だぞ……」


悲鳴が響き渡る。

街を埋め尽くしたのは、SSS級指定個体、猛毒火竜サラマンダー。

その息吹はコンクリートをドロドロのマグマに変え、四散するネオンパープルの毒霧は、吸った者の細胞を数秒で沸騰させる。

最強の探索者たちが放った極大魔法も、その伝説の鱗に触れることすらできず霧散した。


サラマンダーが大きく顎を開く。

新宿……いや、関東一円を消滅させるであろう熱線が練り上げられる。

人々が死を覚悟し、目を閉じた。


「あ、すみませーん。そこ、火力が強すぎるんで少し落としてもらえます?」


その場にそぐわない、気の抜けた声がした。


炎の渦の中から歩いてきたのは、パーカー姿の青年、コウタだった。

片手に自撮り棒、もう片方の手にはビニール袋。

彼は猛毒の霧の中で咳一つせず、浮遊するカメラに向かって手を振っている。


「皆さんこんにちは。ゲテモノ美食家コウタです。いやー、いい火種を見つけました。今夜の献立はこれで行きましょう」


コウタは買い物袋から、一本の出刃包丁を取り出した。


:は?

:待て待て、誰だあの馬鹿!

:SSS級のブレス圏内だぞ!? なんで生きてるんだよ

:出刃包丁www 物理無効の鱗に包丁www

:おい、配信タイトル見ろ。「SSS級サラマンダー、調理してみた」だと?

:自殺配信かよ……


サラマンダーが黄金の瞳をコウタに向けた。

羽虫のような人間が、自分を「獲物」として見ている。

その屈辱が、さらなる熱量を呼ぶ。

放たれた。

すべてを無に帰す、数万度の熱線。


だが、コウタは動かない。

彼はただ、左手で空気を掴むように熱線をいなした。

「あ、熱っ。でもいい感じですね。この余熱、ステーキの予熱にちょうどいい」


「……が? ……ご、あ?」


サラマンダーが、生まれて初めて「困惑」の声を漏らした。

その隙を、コウタは見逃さなかった。

彼は一歩。ただ、散歩でもするかのような軽やかな踏み込みで、火竜の懐に潜り込む。


「さて、筋繊維を傷つけないように……っと」


包丁が閃いた。

それは剣技ではなかった。

魚を三枚に下ろすような、迷いのない「調理」の動き。

次の瞬間、世界最強の生物と謳われたサラマンダーの右前足が、ゴトリと地面に落ちた。


断面からは、宝石のように輝く紫色の血が噴き出す。

サラマンダーが絶叫するより早く、コウタは落ちた肉の塊を素早く解体し始めた。


「よし! この鮮度! 見てください皆さん、このサシ。毒素が脂身に溶け込んで、最高にジューシーなネオンカラーになってます。これですよ、これ」


:はあああああ!?

:切った……? SSS級を、百均みたいな包丁で!?

:今の動き、何なんだよ。探索者ギルドの最高師範より速かったぞ

:っていうか、あいつ……今、肉を……

:えっ、焼くの? そこで焼くの!?


「はい、アスファルトの余熱で焼いていきましょう。このサラマンダーの毒は、熱を加えると芳醇なバターのような香りに変わるんです。嗅いでください、このシズル感!」


コウタは崩壊したアスファルトの上に肉を置いた。

ジュウウウウウウッ!

暴力的なまでの重低音。

立ち上がる煙は、本来なら半径一キロを死滅させる猛毒ガスだ。

だが、その煙が鼻をかすめた瞬間、生き残った探索者たちは驚愕した。

それは、人生で一度も嗅いだことがないほど、理性を揺さぶる「美味そうな香り」だったからだ。


「よし、ミディアムレア。いただきます!」


コウタが巨大な肉の塊にかぶりついた。

その瞬間。

「ガハッ……! ゲボッ、ごほっ、ごほっ……!!」


彼の目、鼻、口から、一斉に血が噴き出した。

皮膚の下を紫色のエネルギーが蛇のようにのたうち回り、骨が軋む音がマイクに拾われる。

あまりの光景に、コメント欄が凍りついた。


:死んだ

:さすがに死んだだろ

:放送事故だ、これ

:あんな猛毒、内臓から溶けるに決まってるだろ……


だが、コウタは血まみれの顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。


「……っっっ!! うまーーーーーーい!!」


彼は血を吐きながら、狂ったように肉を詰め込んでいく。


「何これ!? 噛むたびに細胞が爆発してるみたいだ! 毒素のピリピリ感が、最高級の山椒みたいで舌が痺れる! ああ、魔力が、魔力が止まらない! レベルが、勝手に上がっていく……!」


コウタの体が淡い光に包まれる。

SSS級の肉に含まれる膨大な経験値が、彼の【超消化】スキルによって、強制的に栄養へと変換されていく。


:おい、レベル表示がおかしいぞ

:100……200……500……

:カンストしてるじゃねーか!!

:血を吐きながら食うなよ! 怖いよ!

:でも、あんなに幸せそうな顔で食われたら……俺も一口食ってみたくなる……


「ふぅ……。ごちそうさまでした。新宿の皆さん、お騒がせしました。もう火種も片付けたので、安全ですよ」


コウタが振り返ると、そこには頭部を失ったサラマンダーの死骸……いや、「巨大な食材の残り」が転がっていた。

彼はカメラに向かって、血だらけの手でピースサインを作る。


「さて、次回は『富士山の頂上に現れた大天使の羽、手羽先風にしてみた』でお会いしましょう。コウタでした!」


配信が終了した瞬間、世界中のSNSがパンクした。

それは、英雄の誕生ではない。

全人類が畏怖する怪物を、ただの「高級食材」として処理する、最も恐ろしい美食家の出現だった。


コウタは残った肉を丁寧にタッパーに詰めると、パトカーのサイレンが響く新宿を、鼻歌交じりに後にした。


「あー、喉乾いたな。帰りにダンジョンで見つけた魔王の涙(猛毒)でも飲んで寝よ」



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

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