セーブファイル2:メルティポットを行く
アナタの好奇心は止まらない。都市を行き交うキャラクター達に積極的に話しかけに行った。ネモはコマンドに引っ張られるように、キャラクターに吸い寄せられていく。誰1人として同じ姿はないキャラクター。プログラムに刻まれたように親しげに話しかけてくるキャラクターに、ネモは戸惑った。ヘルメットのパネルが忙しなく動く。その度にネモはあなたから教わった"エガオ"を思い出した。誰に対しても、同じ"エガオ"を浮かべるネモ。あなたはネモに、新しい"エガオ"を教えようと決意した。
キャラクター達は皆、ネモとアナタの来訪を歓迎していた。誰1人としてネモを煙たがる者はおらず、口々に"ようこそ"と反復する。だが、何度話しかけても決まり切った言葉しか言わない。ネモは何も疑問に思っていなかったが、あなたは次第に退屈が勝った。時折意地悪くネモでキャラクターを押しこくっても、キャラクターの反応は変わらない。意味のない行動に、ネモも戸惑いはじめる。その様子を見ると、あなたもキャラクターを押すのを止めた。
ドット調の空が昼空から夕方へと組み替えられていく。テクスチャが変わると、都市も夜用のピクセルに置き換わった。都市の様相が変わっていく。ネモのヘルメットの電子板も、テールライトのように尾を引く。日中は宇宙服のような姿がひどく浮いていたが、今のネモは夜の光を受けて、数多の星を跨いだような風格さえ纏っていた。
「すっげぇ! 夜仕様もあるんだ!」
高道の目にゲーム画面の夕空が映る。夕方になると、キャラクター達の往来も増えてきた。ふと、あなたはあるキャラクターに目を向ける。背中に長い刀を携えたそのキャラクターは、ただの都市の住人ではないようだ。片目には眼帯を付け、身につけているサイバー調の衣服は所々破けている。短く刈り込んだ黒髪を揺らしながら、男はどこかへと向かっていた。
「あれ、絶対ただのキャラクターじゃないよね?」
「かっけぇ! きっと重要キャラクターだよ!」
あなたはすぐさまネモを動かし、男の後を付いて行く。男はネモには気づかず、ゆっくりと歩き続けていた。ビル群の細い路地裏を、男は難なく歩いて行く。あなたもキーに慎重に指を滑らせながら、男の後を追った。
男の行き着いた先には、ウォールマートのような空間が広がっていた。棚にはそれぞれ、銃やジャケットやら、ボトルに入った小瓶までが陳列されている。棚の前にはカウンターがあり、店員と客がやりとりをしていた。客と思しきものは誰もが大荷物を抱え、旅人のような装いだ。棚に入った商品達を、ネモは呆然と眺めていた。あなたは棚を調べようと、ネモを近づかせる。
「君! 売り買いはこっちだよ!」
先程の男がネモに話しかけてきた。突然の出来事に、ネモの頭に"!"のアイコンが出てくる。侍風のその男は、見かけに似合わず気さくな口調でネモを呼び止めた。淡白なカーソル音だったが、その口調には温かみがある。
「あれ? 意外と親切な奴なんだな」
高道が画面を覗き込む。侍風の男は目つきこそ悪いが、口元は微笑んでいた。ネモは蛇に睨まれた蛙のように動かない。ヘルメットの電子板が激しく明滅するだけだ。あなたには分からなかったが、ネモにはこの男から何かが伝わっているのだろう。数字やステータスなどで計り知れない何かが。
「君もメガロマリスの挑戦者だろう? だったら装備品を整えないとね」
侍風の男は長い刀を構えた。カチリとスイッチの音とともに、刀身が赤く光り輝く。発光する刀身はまるでレーザーのようであった。刀を構える男に、道ゆく人々も思わず目を奪われる。初めて眼にする武器に、ネモの電子板は刀身の光を真似ようとした。自分の真似しようとするネモを見て、侍風の男は静かに笑う。
「ただのNPCには見えないね。もしかして、プレイヤーキャラなのかもしれないな」
あなたは対話を試みようと、手早くキーボードを打つ。今までの決まり切った文言にしては、侍風の男は流暢だ。次々と組み上がっていく言葉を、ネモは待っていた。
「ネモ デス。サイキン キタバカリ ナノデ ヨカッタラ アナタ ノコトヲ オシエテ クダサイ」
あなたが組み立てた言葉を、ネモはぎこちなく紡いでいく。同じカーソル音ではあるが、ネモは初めて日本語を出力しているみたいだ。侍風の男は静かにネモの言葉を聞いていた。不規則に相槌を打つ姿は、もう1人誰かと話しているみたいだ。
「ネモか。俺はタイソン。俺もメガロマリスを攻略し始めたばかりだが、この辺は詳しいぜ」
タイソンという名前。和風な見た目には似つかわしくない名前の男は、何もかもチグハグだ。眼帯を付けた強面に似合わず、笑顔を絶やさないでいる。ネモもつられて"エガオ"になった。
「着いてきな。エニーの賢い使い方を教えてやるぜ」
歯に衣着せぬ物言いのタイソン。タイソンに導かれ、あなたもネモを夢中になって動かした。ネモも心強い味方を得たように、コマンドに従って足を動かす。
セーブファイル2:ネモ Lv.1 メルティポット
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