第5話 『異世界でのお土産』



ユウ「……で、ここがお土産屋?」

ルーク「はい。異世界観光客に大人気です」

アリナ「“だいたい喜ばれます”」

ユウ「だいたい、って幅広いな」


ユウ「じゃあまず定番は?」

ルーク「こちら、“勇者の最初の石”」

ユウ「最初の石?」

アリナ「勇者が旅に出る前につまずいた石です」

ユウ「めっちゃ縁起悪くない?」

ルーク「でも人気です」

ユウ「誰に!?」


ユウ「じゃあこれは?」

アリナ「魔王城の前の空気」

ユウ「……空気?」

ルーク「瓶に詰めました」

ユウ「中、見えないけど」

アリナ「でも“あの時の緊張感”が入ってます」

ユウ「いらない緊張感だな」


ユウ「日本に持って帰ったらどう説明すればいいの?」

ルーク「“ピリッとしてる”って」

ユウ「感想じゃん」


ユウ「もう少し無難なのない?」

アリナ「ではこちら」

ユウ「お、これは?」

アリナ「“一度も使われなかった伝説の剣”」

ユウ「ただの新品じゃん」

ルーク「未使用です」

ユウ「それじゃただの装備屋だな!」


ユウ「値段は?」

アリナ「安いです」

ユウ「いくら?」

アリナ「1500ベリーです」

ユウ「相場がわからないな、、」


ユウ「じゃあ食べ物系は?」

ルーク「こちら、干しスライム」

ユウ「誰が喜ぶの?」

アリナ「勇者の母親とか」

ユウ「ピンポイントすぎる!」


ユウ「……これ、普通に石と空気と未使用品しかないけど」

ルーク「はい、異世界らしさ重視です」

ユウ「実用性ゼロだな」


アリナ「ちなみに一番売れてるのはこれです」

ユウ「なに?」

アリナ「“何も起きなかった日の記念品”」

ユウ「……え?」

ルーク「ただの袋です」

ユウ「、、、」


アリナ「でも買った人はみんな言います」

ユウ「なんて?」

アリナ「“一番安心した”って」

ユウ「……」

ユウ「それ、異世界じゃなくても欲しいやつだな」


(間)


ユウ「……それ、ください」

ルーク「ありがとうございます」

アリナ「良い旅でしたね」

ユウ「うん……何も起きなかったのが一番のお土産かも」

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