あっとほーむ

ゆるっとさん

あっとほーむ

 信じられないと思うが、俺の話を聞いてくれ。


 今朝、通学中にトラックに轢かれそうになっていた女の子を助けた。

 なんとそれは、クラスで男子たちから圧倒的な人気を誇る川上さんの妹だった。


「大丈夫?」


 彼女の名前は、川上かわかみ 心愛ここあ。俺と同じ清風せいふう高校に通う一年生だった。

 川上さんの妹なだけあって、すごく可愛い。

 明るめの茶髪のポニーテール、あどけなさの残る瞳。胸は少しだけ控えめだけど、スタイルは良い。


「はい、ありがとうございます。あっ、私は川上心愛です!」


 ブレザーの裾をぎゅっと握った可愛らしいポーズで心愛が元気に挨拶する。

 その時、遠くから心愛の姉であるクラスメイトの萌香もかが小走りでやってきた。


「心愛、大丈夫!?」

「あっ、お姉ちゃん。うん、大丈夫だよ。このお兄さんが私を助けてくれたの!」

「そうなんだ。妹を助けてくださって、ありがとうございます! あれ、もしかして君って……」


 萌香が俺の手を優しく握りながら柔らかな笑みを浮かべる。萌香からは女の子の甘い匂いがした。


 腰まである茶髪、優しさを感じさせる瞳。 制服の上からでも分かる抜群のプロポーション。

 妹の心愛とは別の、清楚系ヒロインとしての圧倒的な可愛さ。


「あぁ、川上さんと同じクラスだよ」

「だよねだよね! まさか妹の命の恩人が同じクラスの男の子だったなんて! なんか運命を感じちゃうね!」


 萌香は少しだけ照れたように笑った。

 その日は成り行きで一緒に登校する事になった。

 そして放課後、お礼もかねて彼女たちの両親が営む喫茶店『あっとほーむ』へ。


「ねぇ、何にする? 私なんかお勧めだよ?」


 カウンターに三人で腰を降ろすと自身を指差し、茶目っ気の含んだ表情で萌香が口にした。


「えっ、それだったら私の方がいいと思うなぁ」


 それに負けじと、今度は心愛が自身を指差す。


「じゃあ、決まったら教えてね。お父さん、私は『モカ』をちょうだい!」


 萌香が向かいのカウンターでカップを拭いていた父親に向かって言う。

 それに続いて心愛が「私は『ココア』で!」と元気よく口にする。


「ハハッ、ずいぶんと娘たちは君にご執心のようだ。もしかして君はどっちかと付き合ってたりするのかな?」

「ち、違います! 付き合ってなんか無いです!」


 突然の爆弾発言に思わず全否定してしまった。その瞬間、二人の刺すような視線が俺を襲う。


「そんなにあからさまに否定しなくても良くない? ねぇ、心愛もそう思うよね?」

「うん、ありえないよね。私たちってそんなに女の子としての魅力がないのかなぁ」

「こらこら、彼を困らせたらダメだろう」


 そんな二人を嗜めるように言う父親の言葉が俺を窮地から救った。


「そう言えば娘たちから聞いたけど、バイトを探してるって本当かい?」

「えぇ、まぁ。どっかいいバイト先があればなとは思ってますけど……」

「心愛を助けてくれた恩もある。君さえよければ、ここで働いてみないか?」

「……いいんですか?」

「娘たちも君にご執心のようだし、むしろこコチラからお願いしたい位だ。その返事は働いてくれるって事でいいのかな?」

「はい、是非ッ!」


 その日はどこか夢見心地で、どうやって帰ったかは覚えていない。

 覚えているのは萌香と心愛の笑顔と拗ねた顔、そして彼女たちの実家の喫茶店でバイトをすることだけだった。

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