第10話 ドアをノックしたあなた
住人を不快にさせてはいけないと思い、あなたはドアをノックしました。
しかし、返事はありません。もう一度、ドアをたたきます。応答はないものの、なかで人の気配がしました。誰かいるようです。
「すみません。道に迷って、明かりが見えたので。一晩泊めてもらえませんか? それか、電話を貸してほしいんですが」
ノックしながら声をかけましたが、それでもなんの反応もありません。意を決してドアノブに手をかけます。そっとまわすと、ひらきました。
なんとなく生あったかい空気。それに奥のほうでパタンと別のドアの閉まるような音が聞こえました。
ついさっきまで、ここに誰かがいたのです。ではなぜ、逃げていったのでしょう? やはり、あなたを警戒しているのでしょうか?
追っていこうとしましたが、部屋の奥のドアには鍵がかかっていました。あいだにあるガラスドアのなかはトイレと浴室です。そのほかに扉はありません。
あきらめて室内をよく見ると、レースのカーテンがかかった窓の外には森がひろがっていました。思ったとおり、明かりが見えていたのはこの部屋のようです。
ここで待っていたら、部屋のぬしが帰ってくるかもしれません。
入口近くの壁にスイッチがあります。押してみると照明がつきました。
電気の明るい光のもとでながめる室内は、とても可愛い装飾がほどこされていました。壁紙は淡い水色で、白い家具が置かれています。ぬいぐるみや人形、オモチャが飾ってありました。絨毯の模様はキリンやゾウ、ライオンなどの動物柄です。
どこから見ても子ども部屋ですが、窓には鉄格子がハマっていました。室外に通じる二つのドアには鍵が。外から鍵をかけたら、完全に密室になってしまいます。
ここはもしかして、子どもを閉じこめるための部屋なんでしょうか?
不気味に思いましたが、ここにはエアコンがついていて、それが稼働していました。空気があたたかいのはそのせいだったのです。
あなたは窓ぎわに置かれた小さな丸テーブルのセットに腰をおろしました。さっき、使用人の部屋で見つけた日記を読みます。
最初の日付は二十年前でした。そのころに生まれた赤ん坊の世話のために彼女は雇われたのでした。
最初はただのベビーシッターの日記。彼女の目を通して、子どもの成長が語られます。ただやはりおかしいのは、この子は密室の子ども部屋から外へ出ることをゆるされていませんでした。
館には子どものほかに父親とおぼしき男と、老婆がいました。あとは通いのハウスキーパーが二人。でも、ハウスキーパーには子どもの存在を知らされていません。ベビーシッターも彼女たちに子どもの話をすることを禁じられていました。
『もしかして、あの子は誘拐されてきたんじゃないか? だから存在を誰にも知られないようにしてるとか? だって、旦那さまは何度も見たのに、一度も奥さまを見てないし。あの子が赤ちゃんのときも、ずっと人工ミルクだった。この館はなんかおかしい。』
『昨夜、二階から子どもの悲鳴が聞こえてきた。前から変だと思ってたけど、あの子は旦那さまに虐待されてるんじゃ?』
『思いきって、夜中、子ども部屋の前でようすをうかがってみた。なかから悲鳴が聞こえたので、鍵を使い、そっと扉をあけた。すきまからのぞくと、旦那さまがあの子をロープでたたいてた。まるで悪魔の子を退治しようとでもしてるみたいな形相だった。』
『気になって、次の日もその次の日も子ども部屋を見張ってた。なぐったり、けったりするだけじゃなく、首をしめてることもあった。このままだと、あの子がいつか、ほんとに殺されてしまう。わたしは見ないふりしてていいんだろうか?』
『毎日、わたしが自室に帰ろうとすると、あの子は泣いてひきとめる。行かないでと泣きじゃくる。このままにはできない。あの子を助けてあげないと。二人でこの屋敷から逃げだそう。』
日記はこれが最後です。
その後、子どもとベビーシッターはどうなったのか、あなたはとても気になりました。二人は生きてこの屋敷を逃げだせたのでしょうか? だとしたら、一階で見た浴槽の鉄サビみたいなものはなんだったのでしょう?
とにかく、この屋敷は危険な場所です。子どもを虐待していた旦那さまというのが、まだここに住んでるのかも?
あなたの選択肢は二つあります。
1、このまま、部屋の住人が帰ってくるのを待つ
※11ページへ→
2、一階に戻り、左廊下の奥を調べる。
※12ページへ→
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