名探偵の影法師

Algo Lighter アルゴライター

序章:灰色の境界線

東京の片隅、雑居ビルの三階。そこには二つの探偵事務所が隣り合っている。

右側のドアは「御子柴(みこしば)探偵事務所」。

左側のドアは「相田(あいだ)調査室」。

僕、相田透(あいだ とおる)は28歳。幼い頃に読んだ乱歩やドイルに憧れ、脱サラをしてこの「調査室」を開いた。夢は、鮮やかな推理で難事件を解決し、警部にお辞儀をされ、依頼人の涙を拭う「名探偵」になることだ。

しかし、現実はあまりに無情で、そして合理的だった。

「よう、相田ちゃん。まだその浮気調査の報告書やってんの? 俺、もうヤマ踏んじゃったよ」

壁の薄い隣室から顔を出したのは、御子柴だ。彼はシャツのボタンを掛け違え、寝癖だらけの頭をしているが、この界隈で知らぬ者はいない「天才」だった。

彼には、一瞥しただけで事象の因果関係を見抜く悪魔的な才能があった。

僕が三日かけて足で稼いだ証言を、彼は三秒の直感と三十分の裏付けで覆す。僕が汗水垂らして積み上げたロジックは、彼の天才的な閃きの前では、子供の積み木のように脆かった。

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