魔法サッカー〜高校から魔法サッカーで本気を出す

クスノキ

プロローグ

――魔法が、当たり前になった世界。


この世界では、魔法は特別な物じゃあない。

ある人は火を灯し、水を操り、風を起こす。

人は皆、生まれながらにして魔法を使う事が出来た。勿論、魔力量の差等の個人差もある。


そして――サッカーもまた、魔法と共に進化した競技だ。


魔法サッカー。

属性を纏ってドリブル、魔法を乗せた凄まじい

威力のシュート。


その見る者を魅了するド派手な魔法サッカーは、人々を熱狂させた。

今や世界で最も人気のあるスポーツだ。


属性は、炎・氷・雷・風・地・光・闇。

基本一人一属性。これがこの世界の常識だ。


例外はある。

二つの属性を持つ者は、滅多に現れない天才。

その存在だけで学校からのスカウト止まらなくなるだろう。

何故なら属性複数持てること以外に複数属性持ちは全員が魔力量が多かった。

一つの属性でも魔力量は多い者もいる。


三属性ともなれば、歴史上ただ一人しかいない。

それは歴史上最高の選手とされているストライカーだった。


そんな世界で俺は、産まれながらにして規格外の魔力量を保有していた。

今まで計測されたことのない魔力量で三属性持ちの世界最高の選手の魔力量を上回っていた。


世間に公表でもすれば即座にニュースになり、

注目の的になるだろう。

両親はそれを心配し子供の為に隠す事にした。


隠す事が上手く行き、俺はすくすく育ち

5歳の時やらなければいけない属性診断の結果、新たな問題が発生した。

なんと俺は全部の属性に適正があったのだ。


現在確認された事あるのは3属性。

いきなり7属性という規格外な事に両親は失神してしまった。(申し訳なく思っている)

属性は政府に報告義務があり、隠し通す事が出来なかった。


当然、国は即座に動いた。

俺の属性診断結果は、その日のうちに政府の魔法管理機関へと送られた。

専門家、研究者、高官が、次々と人が集まり、家の中は異様な空気に包まれた。


「危険性は?」

「成長した場合の影響は?」

「公表した場合の社会的混乱は?」


大人達は俺を中心に、難しい言葉を並べ立てる。

その光景を、俺はただ黙って見ていた。


――凄く怖かった。


自分が普通じゃあない事は、その時幼いながら初めて理解した。


話し合いの結論は――全面的な秘匿。


属性は一つとして登録。

魔力量も普通の人と変わらないものに登録された。政府は俺の情報を、厳重に封鎖した。

理由は明白だった。


もし七属性の存在が世に出れば、社会そのものが揺れる。崇拝か、恐怖か、あるいは利用か。

どちらにせよ、子供が背負うには重すぎる。


こうして俺は「雷属性・魔力量やや多め」

という、ありふれた存在になった。


■■


それからの日々は、静かだった。


学校では普通に過ごし、魔法の授業では、決して本気を出さず雷属性のみ。


だが、俺は魔法サッカーに夢中になってしまった。

皆の前でやる訳には行かず、誰もいない場所で、誰にも見られないように一人で魔法サッカーの練習をした。


魔法サッカーやっていると、熱中し過ぎて雷属性使うと他の属性を使ってしまい、皆と出来なかった。


――それが、怖かった。


だから俺は、皆が楽しそうにしているのを、

ただ眺めているだけだった。

もしバレれば騒ぎになり、両親にも迷惑かけてしまうと、そう思っていたから。


唯一、俺の事情を知っている存在が居るとすれば、


「また一人でやってたの?」


幼馴染だけだった。


「隠すの、疲れない?」


その言葉に、俺は答えられなかった。


でも――


「大丈夫だよ。いつか、ちゃんと使える日がきっと来るよ」


彼女は、昔と変わらない可愛らしい笑顔で言った。


そしてそのいつかが、本当に来るとはこの時は思っていなかった。


■■


それから数年が経った。


俺、神崎恒一は中学生になり、身体も魔力も、順調過ぎるほどに成長して行った。

政府の定期検査は続いたが、表向きのデータは

問題無し。


だが、内部では違う。


俺の魔力量は、年々増え続けて行った。

それも、想定されていた安全基準を遥に超える速度で。


その度に、会議が開かれた。


「このままでは、いずれ隠しきれなくなる」

「しかし、今公表すれば――」


だが、会議で行われる議論はいつも平行線。


俺が魔法サッカーを一人でやっていることも、

政府は把握している。禁止する事は簡単だった。

けれど――それは、少年が余りにも酷だった。


だから、政府は一つの結論を出した。

これ以上、俺を縛り続けない事を。


中学三年の終わり。

卒業を目前に控えたある日、俺は再び政府の施設に呼ばれた。


「会議で決まった事がある。高校からは、普通に魔法サッカーをやっていい」


一瞬、その言葉を理解出来なかった。

言葉は理解しているのに、頭が追いついていない。


「え、えっと……それは、どういう?」


声が掠れる。

俺の口から放たれる言葉は震えていると思う。


「そのままの意味だ。もう隠す必要もない。

ようやく君が公表されても大丈夫な用意が整ったんだ。今まで我慢させてすまなかった」


そう言って偉い人が俺に向かって頭を下げてきた。

一瞬、時間が止まったように感じられた。


遅れて大人が、国の中枢にいる人間が俺に、頭を下げている事を理解する。


「や、やめてください」


慌てて声を出したが、上手く出ていなかったと思う。


「俺は……俺は、ただ……っ」


言葉が、それ以上続かなかった。

今まで押さえつけてきた感情が、堰を切ったように溢れ出そうとしていた。


「今までこちらの都合で、よく耐えてくれた。

君の人生を縛ってしまった事は、事実だ。これからは君を全力でサポートさせてもらう」


その言葉で、完全に俺は限界だった。

目が熱くなり、視界が歪む。

喉が詰まり、息が上手くできない。


「……っ」


気づいた時には、涙が頬を伝っていた。

止めようとしても、止まらない。

情けないほど、ボロボロと零れていく。


「……サッカー、ずっとやりたかったん、です」


俺はどうにか声を絞り出すように言った。


「皆みたいに、ピッチに立って、全力で、魔法使って……それだけなのに……っ」


声の震え、言葉が途切れてしまう。

今までずっと我慢してきた。

授業で魔法サッカーする事があっても見学をした。

皆が、羨ましくて、悔しくて、怖くて。


それでも――耐えてきた。


「高校からでいい。君は好きなようにやりなさい」


「は、い」


短い返事しか出来なかったが、それだけだ精一杯だった。俺は何度も、何度も頭を下げた。


ありがとう、と。本当にありがとう、と。





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イナイレみたいって言わないでね(ボソッ)

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