森の民

@Saitou_sou

森の民

 森の民は恐怖に震えていた。迫りくる巨大な金属の刃が、次々と森を飲み込んでいく。住み慣れた大地が、丸裸になっていく。

 この地は諦めるしかない。

 森の民は移住先を探し始めた。しかし、隣の森ははるか遠くにあり、しかも巨大な谷で隔たれている。

 背に腹は代えられない。森の民が移住の準備をしていると、となりの森まで同じ機械によって刈り取られ始めた。

 逃げ場を失った森の民に、さらなる悲劇が襲う。地震と洪水だ。森という支えを失った森の民が、次々と流されていく。

 洪水が収まったと思ったら、今度は灼熱の台風が吹き荒れる。

 森の民は嘆いた。

 なぜ、こうまで天変地異が続くのか。我々が何をしたというのか。

 容赦ない最後の一撃に、いままで辛うじて生き残っていた森の民たちも、次々と命を落としていく。

 森は失われた。あの豊かな生活は、もう二度と戻ってこない。

 試練に耐えた数少ない若者たちは、夫婦で手を取り合い、次々と谷底に飛び降りた。

 新しい森にたどり着く一縷の望みを、お互いの小さな手に託しながら。

 

「どうもありがとうございました」

 床屋の店主は、坊主頭になった家族を見送った。いつものように、床に散らばる髪の毛を集めていたら、黒髪の中に小さな白い虫が動いていることに気がついた。

 床屋の店主は叫んだ。

「あの家族はケジラミだったのか!」

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