追放された騎士の逆襲 ~世界最速で前作のトゥルーエンドに到達した俺は新作ベータ版でゲーム内転生し無双する~

琥珀 大和

第1話

「傾聴!これより、アルデリア・デコ王国騎士団は組織の再編を行う。」


『至高の魔術師』の続編である『追放された騎士の逆襲─ベータ版』にダイブした直後のことである。


舞台は騎士団が詰める王城の第一広場で、所属する騎士団ごとに千名ほどが整列していた。


“千名ほど”というのは視界の左上に表示された人数のため、誇張した数字ではない。前作でもゲーム内の視野角FOVは同じで、必要に応じて数字やバーが視界の端に表示されていたものだ。使用されているゲームエンジンは最新型と聞いているが、こういったシステムは前作の良さを踏襲している。


視界下部に三行ほどの字幕が流れ出した。映画であらすじが流れるテロップに近い。この演出は好みが別れそうだが、ベータ版ならではの仕様とも考えられる。


「⋯⋯よって、君たち騎士は人員削減の憂き目にあうこととなった。」


字幕で前作の流れを、そしてその後に今回の主役である騎士たちの行く末が説明された。


当然のごとく、ざわめきや怒声が放たれる。


まぁ、そうだろう。


前作では驕り高ぶっていた騎士たちが、魔術師の台頭で伸びた鼻をへし折られた。その流れから、多くの上級騎士が閑職に追いやられたのである。


力こそ正義、剣こそ最強などと謳っていた騎士はこのゲーム世界では花形の職業だった。中でもオーラという不思議な力を操り、ソードマスターという絶対的な称号を持つ騎士は一騎当千の猛者ばかりである。


魔物の討伐や近隣諸国との諍いで先頭に立って戦い、状況によってはそれぞれの国を代表するソードマスター同士を一騎打ちさせる。それによって、勝敗や主張の正当性を決めるような慣例が長きに渡り大陸内に敷かれていたのだ。


人外じみた力を誇るソードマスターが実力で昇爵され、政治などにも口を出すというような世界。


良くも悪くも偏向した政治は、現代日本の知識から見て違和感しかなかった。中世の封建社会がベースになっているとはいえ、軍事力がものをいう軍国主義ミリタリズムの側面が強いのだからあたりまえともいえる。


ファンタジー世界はそんなものだろうといわれればそうだ。時代背景や設定はそれほど目新しいものでもなかった。


ただ、前作『至高の魔術師』は、そんな陳腐な設定など意に介さないほど面白いゲームだといえる。


天狗のようになった脳筋騎士どもから蔑まれ、宮廷内で肩身の狭い思いをしていた魔術師たちが職を追われたのが始まりだ。


従来のゲーム以上に自由度が高く、やり込み要素も多数用意されていた。失職した魔術師は冒険者なりアカデミーの講師なりに再就職を行って、再び魔術師としての栄誉を手にするというシナリオがメインとなっている。


もちろん、ゲームクリアだけが目的ではない。MMORPGらしく、むしろクラフトによる魔道具の製作や冒険者としてのランクアップなど、個々のプレイヤーが目的をそれぞれに設けて自由に闊歩していたものだ。


俺はゲームはまずシナリオをクリアしてから、やり込むことを信条としている。

『至高の魔術師』についても短期集中で方向性をしぼってやりこんだため、世界最速でトゥルーエンドを迎えたそうだ。


もちろん、ゲームの設定上はマルチエンディングとなっている。シナリオ的に見方によってはバッドエンドもあれば、やり込み要素で終わりのないのが終わりというものも存在した。


要するに、どのようにゲームを楽しむかはプレイヤー次第ということである。と、いろいろ回想している間に視界が切り替わったぞ。


定番だが、序盤は強制イベントというわけだ。


「残念だが、君は解雇となる。向こう三カ月分の給金は支払われるから、それで当面はしのぎ再就職先をみつけることだ。」


場所は王城内、騎士団の上層部が執務を行う建物内に設けられた小会議室である。


目の前の文官が淡々とクビ宣告を投げつけてきた。三十日前に解雇予告、もしくは解雇予告手当を出さなければならない現代日本よりは、良心的な内容だとつい考えてしまう。


それに、先ほどの広場でも感じたが、目の前の人物のリアルさには興味深いものがあった。


確かに前作のビジュアルもリアルなものだったが、今回はベータ版で採用されるにはあまりにもクオリティが高い。いや、新しいゲームエンジンとやらがこれを可能にしているのだろうか。


こんな精度ならデータ量も計り知れない。いくら通信速度にペタバイトが推奨されているとはいえ、グラフィックドライバーや冷却機能に不備は生じないのだろうか。まあ、プレイヤーが心配することではないかもしれないが、視界がカクつくのやフリーズするなんてことは勘弁してもらいたかった。


「何か言いたいことは?」


別の思案に耽っていたためか、文官が苛立たしげにそう聞いてきた。


「拒否することはできないのか?」


何となくそう答えてみた。


目の前の文官はゲームのNPCで、AIが受け答えしているに過ぎない。実社会のようなケースバイケースな返答はされず、きまり決まった内容を繰り返すのが関の山だろう。だが、新しいゲームエンジンやAIがどれくらいのものか試してみたくなったのだ。


「君のソードマスターとしての序列は二十四位だったね。今現在、その序列の価値というものは無に等しい。賢明な判断をしたまえよ。」


これがテンプレなセリフか。


騎士やソードマスターという立場に誇りを持っているなら、イラッとする内容だろう。


「序列二十四位のソードマスターが無価値だって?」


「そうだ。ソードマスターなんてものは旧時代的なものでしかない。以前なら、魔術師は詠唱に時間がかかり近接戦闘はもとより、戦略級魔法も君たち騎士の活躍がなければ発動できなかった。だがな、新たな魔道具の普及によって、魔術師たちの存在も今や大きく変わった。現に、近接戦においても騎士など魔術師の敵ではなくなったのだから。」


せせら笑う文官に「おまえは魔術師ですらないだろう」と思いながらも、無意味な問答はやめることにした。


これは強制イベントだ。


何を言っても平行線なのは目に見えている。前作では似たようなイベントでごねまくると、投獄されて強制労働送りという笑えない結末もあったのだ。


「ソードマスターが無価値と言ったこと、いずれ後悔させてやろう。」


立場的にはゲーム内の主人公である。

その設定に似合ったムーブをかましても投獄などされないだろう。


「ふん。これが温情あふれる措置であったと、感謝すらして欲しいくらいだ。何せ、事あるごとに上層部に反抗的だったおまえなど、解雇という名の追放でしかないのだから。わかったらさっさと出ていけ。」


痛烈な嫌味を言われて強制イベントは終了した。


その後、剣や鎧は支給品だからとすべて没収され、ボストンバッグくらいのカバンに荷物を詰め込んで宿舎を後にする。何とも、世知辛いオープニングだったと感じさせられたものだ。


そこからは自由に動き回れるパートに入った。メニューや設定を確認しようとしたところで、ログアウトというキーワードが存在しないことに気がつくこととなる。


その時は一定のポイントまで進行しなければ、ログアウトできないのかと軽く感じただけだった。


メニュー関連の仕様は前作と変わらないのに、ログアウトの項目があるべき所に存在しない。これが恒常的となるとベータ版のバグでは片付けられないだろうが、まだまだ序盤なのだからそれが当たり前だとも思える。


だが、しかし⋯⋯それはそれでおもしろいかもしれない。仮にログアウトが本当にできないとしたらどうだろうか。


別に実社会に未練はないし、ゲーム内の世界というものは現代日本ほど生きにくくはないのではないかと思えるのだ。もちろん、まだログアウトできないと確定したわけではない。それに、こんなゲーム内転生みたいなことが現実に起こり得るのかといわれれば、単なる幻想に過ぎないと笑われるだろう。


ただ、俺の脳内の大半はゲーム廃人であり厨二病なのだ。


ファンタジー世界が命の軽い場所だろうと、生き抜く方法はあるに違いない。そもそもそこで命を落としたらデスペナルティはどうなっているのか。もちろん、そのままログアウトできたり、生き返ったりすると思うほど楽観的ではない。


しかし、死を賭したヒリヒリするような世界に期待を抱くのは、間違った思考だとは思わなかった。


こんな飛躍した考えを持つ俺は、もしかすると自身が思っている以上に歪な精神をしているのかもしれない。

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追放された騎士の逆襲 ~世界最速で前作のトゥルーエンドに到達した俺は新作ベータ版でゲーム内転生し無双する~ 琥珀 大和 @kohaku-yamato

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