偽りの予言者と逆転の聖勇者 〜原作主人公が女だったせいで、俺の生存戦略が崩壊する!?
南賀 赤井
予定調和のプロローグ
空は重苦しい鉛色に汚れ、絶え間なく降り注ぐ「絶望の灰」が街を白く殺していた。
路地裏の湿った空気の中で、カイトは一人、震える手でボロ布のような地図を広げていた。
「……間違いない。今日、この場所だ」
カイトはこの世界の人間ではない。
前世で遊び倒したダークファンタジーRPG『ラスト・レクイエム』の世界に、名もなき村人Aとして転生してしまった男だ。
この世界は数年後、目覚めた邪神によって人類の九割が滅びる。一般人に生き残る術はない。唯一の「生存ルート」は、これからここで出会うはずの最強の主人公――カズトの懐に入り込み、未来知識を切り売りして「予言者」というポジションを確立すること。
「……来た」
足音が響く。
原作通りなら、ここでチンピラに絡まれているヒロインのヒナを、主人公のカズトが鮮やかに助け出すはずだ。カイトはその戦闘が終わった瞬間に姿を現し、カズトに「君の運命を知っている」と語りかける手はずだった。
だった筈………だったのだが……
「や、やめてください……! お金なら、これしか……っ」
路地裏から聞こえてきたのは、野太い少年の声ではなく、鈴を転がすような少女の悲鳴だった。
(え……?)
カイトは思わず角から身を乗り出した。
そこには、チンピラに囲まれ、涙目で震えている一人の少女がいた。
輝くような銀髪、そして原作の主人公カズトが着ていたはずの「鴉の羽織」を身に纏った、可憐な美少女。
「おいおい、そんな綺麗な顔を傷つけたくねえなあ。大人しくしなよ」
「嫌……誰か、助けて……!」
カイトの脳内が急速にオーバーヒートを起こす。
カズト(男)はどこだ? なぜ代わりに美少女がそこにいる?
だが、迷っている時間はなかった。原作ではここでカズトが覚醒し、隠された力を発揮して敵を殲滅するはずだが、目の前の少女――にはその気配が全くない。
このままだと、主人公(?)が死ぬ。
主人公が死ねば、数年後に世界が滅び、カイトも死ぬ。
「クソッ、予定と違うだろ……!!」
カイトは懐から、なけなしの金で買った煙幕弾を取り出した。
一般人の彼には、魔物と戦う力なんてない。だが、ここで彼女を死なせるわけにはいかないのだ。
「そこまでだ、下種野郎ども!」
カイトは叫びながら路地裏へ飛び込んだ。
これが、後に「救世主の導き手」と謳われる男と、「最強の勇者」となるはずだった少女の、あまりにも歪な運命の始まりだった。
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