御幣島沙稀の「お蔵入り」オカルト取材録

今福シノ

「外むっちゃ暑いので、いまから、コンビニのアイスケースで涼もうと思いまあす」

　画面に映る老婆は意気揚々と言うと、アイスがたくさん入ったガラスケースに白髪頭を振り乱しながら、頭から突っ込んだ。

　途端にガラガラと音を立ててあふれ出るのは、夥（おびただ）しい数のアイスクリーム。その量はどう考えてもケースに収納できるボリュームを超えている。

「おいこらババアー、何やってんだー」

「ああー、怒られちゃったー」

　すぐさまやってきた店員が怒りの表情を見せると、老婆は誤魔化し笑いのようなものを浮かべる。

　動画はそこで終わらなかった。場面が切り替わる。回転寿司店の席が映った。もちろん、老婆もいる。

「ここの醤油むっちゃ美味しいので、直接舐めて味わいまあす。ぺろぺろぺろー」

　またしてもやけにハイテンションで、そして独特のイントネーションで言葉を発し、置いてある醤油さしに舌を這わせる。だばだばと出てくる赤黒い液体。これもまた、醤油さしに入っていた量よりはるかに多い。現実ではあり得ない。

　ひと昔前に話題になった「バイトテロ」を彷彿とさせる動画。だが動画のコメント欄には非難や通報してやるといった類の言葉は一切なく、画面の片隅でいいねを示すハートマークが舞っているだけ。

　それが意味するところは、この動画を見ている人の多くがおもしろいという評価をしているということ。

「いいねとフォローよろしくねえー」

　動画の最後では、店員に怒られながら老婆がにんまりと笑ってそう締めくくる。

　やけに滑らかすぎる表情と背景。それから現実では物理的に起こり得ない現象。つまり。これは実際に撮影されたものではなく、生成されたもの。

　これが最近の動画投稿ＳＮＳでバズっているジャンル――『ＡＩおばあちゃん』だった。

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