『俺達のグレートなキャンプ214 大博打!キャンプ場でビンゴ大会』
海山純平
第214話 大博打!キャンプ場でビンゴ大会
俺達のグレートなキャンプ214 大博打!キャンプ場でビンゴ大会
「いやああああ!? 石川、その段ボール何個あんの!?」
千葉が目を丸くして叫んだ。駐車場で車のトランクを開けた石川の背後には、高さ2メートルはあろうかという段ボールの山。しかもそれが3つ。いや、4つ? 千葉は数えるのを諦めた。
「214回目だぞ、214回! 記念すべき214回目のキャンプは盛大にいかねえとな!」
石川は両手を広げて、満面の笑みで言い放つ。その目は既にギラギラと輝いていた。7月の昼下がり、長野県某所のキャンプ場。周囲には既にいくつものテントが立ち並び、BBQの煙が立ち上っている。平和な週末のキャンプ風景だ。
「214回記念って...そんなに盛大にする必要ある!? っていうかキリ悪くない!?」
富山が呆れた表情で腰に手を当てながら近づいてくる。彼女の額には既に汗が滲んでいた。テント設営を終えて一息ついたばかりだというのに、この展開である。
「キリが悪い? 何言ってんだ富山! 214は2×107だぞ! 素数の107が入ってる時点で十分記念すべき数字だろうが!」
「意味わかんない理屈やめて!」
富山が両手を振り回して抗議する。その動きは完全に「もう知らない」という雰囲気を醸し出していたが、石川は全く気にしていない。
「で、でもさ石川!」千葉が段ボールに近づきながら興奮気味に言った。「今回の『奇抜でグレートなキャンプ』は何なの!? 俺、超ワクワクしてるんだけど!」
「フッフッフ...」石川が不敵に笑う。「今回はな...『景品が豪華すぎるビンゴ大会』だ!!」
「ビンゴ大会!?」千葉の目がキラキラと輝いた。
「ビンゴ大会...」富山の目が死んだ。
「そうだ! ただのビンゴ大会じゃねえ! 景品の総額がな...」石川は一呼吸置いて、ビシッと指を立てた。「軽く100万超えだ!!」
「ひゃ、ひゃくまん!?」千葉が驚愕のあまり後ずさった。
「えっ...ちょっと待って」富山が蒼白な顔で石川に詰め寄る。「石川、あんた何やってんの? どこからそんな金が...」
「心配すんなって! 全部俺の貯金だ! キャンプ214回記念だぞ!? ここで弾けなくてどうする!」
「弾けすぎでしょ!! あんたバカなの!? 本当にバカなの!?」
富山が石川の肩を掴んで揺さぶる。石川の頭がガクガクと前後に揺れるが、その表情は変わらない。むしろ楽しそうだ。
「バカで結構! 『奇抜でグレートなキャンプ』は妥協しねえ! それが俺のモットーだ!」
「素敵すぎる...!」千葉が感動の涙を浮かべている。
「素敵じゃないから! 千葉も止めなさいよ!」
富山が千葉に向き直るが、千葉は既に段ボールの中身を確認し始めていた。ガムテープをビリビリと剥がし、中を覗き込む。
「うわあああ! これ、新潟産コシヒカリ30kg!?」
「そうだ! 1等賞品だ!」石川が胸を張る。
「米!? 1等が米!?」富山が頭を抱えた。
「何言ってんだ、新潟産コシヒカリだぞ!? 最高級の米だ! キャンプ飯の基本は米! 米を制する者がキャンプを制する!」
「制しなくていいから!!」
富山の絶叫が青空に響き渡る。しかし千葉は既に次の段ボールを開けていた。
「こっちは...えっ、『アジア圏一周旅行ペアチケット』!?」
「おおっ! それは2等だな!」
「2等がそれ!? じゃあ1等の米より2等の方が豪華じゃない!?」
富山のもっともな指摘に、石川はニヤリと笑った。
「そこがミソだ! 順位と豪華さが一致してねえんだよ! ビンゴなんて運ゲーだろ? だったら最後まで何が当たるかわかんねえ方が面白いじゃねえか!」
「面白がってる場合!?」
「あっ、こっちの段ボールには...」千葉が3つ目の段ボールを覗き込んで固まった。「『伝説のメジャーリーガー、ミッキー・ローレンスの直筆サイン入りボール』...って書いてある...」
「それは5等だ! 俺、あいつの大ファンでな! 先月オークションで手に入れたんだ!」
「それビンゴの景品にしちゃうの!?」富山が頭を抱えて蹲った。「大ファンなら取っておけばいいじゃない...」
「違うんだよ富山! 俺の宝物を誰かに譲る、それがキャンプの醍醐味だろ!? 『分かち合いの精神』ってやつだ!」
「全然醍醐味じゃないし分かち合いの使い方おかしいから!!」
その騒ぎに気づいたのか、近くのテントサイトから中年の男性キャンパーが顔を出した。麦わら帽子を被り、エプロン姿。THE・休日のお父さんという風貌だ。
「おう、そこの若い衆。何か楽しそうなことやってんの?」
「あ、どうもこんにちは!」石川が即座に営業スマイルで振り向いた。「実はですね、今からキャンプ場全体でビンゴ大会やろうと思ってるんですよ!」
「ビンゴ大会? へえ、面白そうじゃん!」
男性の目が興味深そうに輝く。すると、その隣のテントからも若いカップルが顔を出した。
「ビンゴ大会ですか? 私たち参加したいです!」
女性の方が手を挙げる。すると、別のサイトからも家族連れが、ソロキャンパーが、次々と集まってきた。石川の声が大きかったのと、段ボールの山が目立ちすぎたのが原因だ。
「おいおい、マジでやるのか? 面白そうだな!」
「景品とかあるんすか?」
「子供も参加していい?」
口々に質問が飛んでくる。石川はここぞとばかりにニヤリと笑った。
「もちろんです! 景品は...」と、そこで石川は両手を広げて叫んだ。「総額100万円超えの豪華景品です!!」
「「「ひゃくまん!?」」」
キャンプ場全体がどよめいた。
「ちょ、ちょっと石川!」富山が慌てて石川の腕を掴む。「そんな大々的に言っちゃって...」
「大丈夫だって! 『俺達のグレートなキャンプ』は常に全力投球! 半端なことはしねえ!」
「全力投球の方向性がおかしいって言ってるの!!」
しかし時既に遅し。集まってきたキャンパー達の目は既にギラギラと輝いていた。特に、最初に声をかけてきた中年男性の目の輝きが尋常ではない。
「100万!? マジか!? 俺、最近仕事でストレス溜まっててさあ! ここで一発当てたいんだよ!」
「お父さん落ち着いて!」隣にいた奥さんらしき女性が引いている。
すると石川は管理棟の方を指差した。
「あ、そうだ! 管理人さんに許可もらって、進行もお願いしてきます! ちょっと待っててください!」
そう言うや否や、石川は管理棟へダッシュしていった。その背中を見送りながら、富山は深いため息をついた。
「...もうダメだ、この人」
「富山さん! これって超面白くない!? 『どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる』でしょ!?」
千葉が興奮気味に富山の肩を叩く。富山は無言で千葉を睨んだ。その目は「あんたもか」と訴えていた。
10分後。
管理棟から戻ってきた石川の隣には、50代くらいの管理人が笑顔で歩いていた。管理人の手には何故かメガホンとビンゴマシーンが。
「皆さーん! 管理人の田中です! この度、こちらの石川さんのご厚意により、特別ビンゴ大会を開催することになりました!」
田中管理人がメガホンで呼びかけると、キャンプ場中からキャンパー達が集まってきた。老若男女、家族連れ、カップル、ソロキャンパー。総勢30人ほどが広場に集まった。
「ルールは簡単! このビンゴカードを使って、番号が呼ばれたら穴を開けていく! 見事ビンゴが揃った方から景品をゲットできます!」
田中管理人が説明する。石川が用意したビンゴカードが参加者全員に配られる。30枚×1枚100円として...富山の頭の中で計算機が回った。いや、そんな些細な金額気にしてる場合じゃない。
「それでは景品の発表です!」
田中管理人が段ボールを開けていく。石川がその横でドヤ顔で立っている。
「1等! 新潟産コシヒカリ30kg!!」
「「「おおおおお!!!」」」
会場が沸いた。特に家族連れの反応がすごい。
「マジか! コシヒカリ30kgって2万円くらいするぞ!」
「絶対欲しい!」
「米は裏切らない!」
謎の米推し達の熱気がすごい。富山はその光景を見て、こめかみを押さえた。
「2等! アジア圏一周旅行ペアチケット!!」
「「「えええええ!?」」」
今度は驚きのどよめき。
「2等の方が豪華じゃん!?」
「待って、これ本物?」
「本物です!」石川が力強く宣言する。「旅行代理店で正式に購入しました! タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、5泊6日の旅です!」
「5泊6日!?」カップルの女性が目を輝かせた。「絶対欲しい...!」
「3等! 高級テント『グランピングマスター3000』!!」
これはアウトドア用品店で8万円くらいする高級テントだ。ソロキャンパー達の目の色が変わった。
「あれ欲しかったんだよ...!」
「4等! 温泉旅館ペア宿泊券!!」
「おおっ! これもいい!」中年夫婦が身を乗り出した。
「あ、温泉旅館...」富山が小さく呟いた。「私、温泉がいいなあ...」
その声は誰にも聞こえなかったが、富山の目が少しだけキラリと光った。しかし次の瞬間、我に返って首を振る。
「いやいや、何考えてるの私! こんなバカな企画に乗せられちゃダメでしょ!」
「5等! 伝説のメジャーリーガー、ミッキー・ローレンスの直筆サイン入りボール!!」
「うおおおお!」野球帽を被った若い男性が絶叫した。「ミッキー・ローレンスって、あの2000年代最強のホームランバッターじゃないですか!?」
「そうだ!」石川が嬉しそうに答える。「俺の宝物だったんだが、今日誰かに譲ろうと決めたんだ!」
「なんていい人...!」野球帽の男が感動している。
富山はその様子を見て、また頭を抱えた。
「6等から10等はその他豪華景品!」
田中管理人が続けて発表する。高級BBQセット、キャンプチェア5脚セット、LEDランタン10個セット、寝袋3つセット、そして何故か「特大スイカ5玉」。
「スイカ!?」
「夏だからな!」石川がドヤ顔で言った。
会場はもう完全に熱気に包まれていた。30人のキャンパー達全員が、手にビンゴカードを握りしめ、目をギラギラと輝かせている。その光景はまるで競馬場かパチンコ店のようだった。
「じゃあ始めますよー!」田中管理人がビンゴマシーンを回し始めた。「最初の番号は...B-7!」
「あった!」
「こっちも!」
参加者達が一斉にカードに穴を開けていく。富山もなぜか手元にビンゴカードがあった。石川が勝手に配ったのだろう。
「次、I-22!」
「おし!」
「N-35!」
「きた!」
ビンゴマシーンが回るたびに、会場の熱気が高まっていく。特に異常なのが、最初に声をかけてきた中年男性だ。彼はもう完全に目が血走っていた。
「米...米は俺のものだ...! 絶対に俺が...!」
「お父さん怖い!」隣の奥さんと子供が引いている。
「B-12!」
「あああ惜しい! B-11だったら縦一列だったのに!」野球帽の男が悔しがる。
千葉は完全に楽しんでいた。カードを見ながら「来い来い!」と念じている。
「G-50!」
「っしゃあ!」最初の男性が拳を突き上げた。「あと2つ! あと2つで米が...!」
その様子を見て、他の参加者達も焦り始めた。
「やばい、あの人リーチじゃん!」
「阻止しなきゃ!」
「何言ってるの、運ゲーなんだから阻止もクソもないでしょ!」富山が冷静にツッコむ。
しかし会場の熱気は止まらない。むしろ加速していた。
「O-63!」
「「「うおおおお!!!」」」
なぜか一斉に歓声が上がる。かなりの人数にヒットしたらしい。
「N-40!」
「きたあああ!」カップルの男性が叫んだ。「リーチ! 俺もリーチ!」
「私も!」女性も叫ぶ。
「俺も!」野球帽の男。
「私も!」別の女性。
気づけば、30人中15人くらいがリーチになっていた。会場の空気が一気に緊迫する。
富山は自分のカードを見た。まだ穴が5つしか開いていない。「まあ、当たらないでしょ...」と安心したような、少し残念なような、複雑な表情。でもその視線はチラチラと「温泉旅館ペア宿泊券」の方を向いていた。
「次の番号が勝負を分けますよ!」田中管理人が楽しそうにマシーンを回す。「I-28!」
「ビンゴおおおおお!!!」
最初に絶叫したのは、あの中年男性だった。彼は地面にカードを叩きつけ、両手を天に掲げた。
「やったああああ! 米だ! 米は俺のものだあああ!」
「お父さんすごい!」子供が喜んでいるが、奥さんは苦笑いだ。
「おめでとうございます! 1等、新潟産コシヒカリ30kgです!」
田中管理人が米の入った袋を男性に渡す。30kgの米袋を両手で抱えた男性の顔は、まるで宝くじに当たったかのような笑顔だった。
「最高だ...これで半年は米に困らない...!」
「半年で30kg食べるの!?」富山が驚愕の声を上げた。
しかしビンゴ大会は続く。
「続けますよ! B-3!」
「ビンゴ!!」今度は野球帽の男が手を挙げた。「やった! 2等!?」
「はい、2等! アジア圏一周旅行ペアチケットです!」
「マジかああああ!」男は感動のあまり膝から崩れ落ちた。「彼女と行ける...! プロポーズも計画できる...!」
「えっ」周りがざわついた。「プロポーズするの!?」
「頑張れ!」
「幸せになれよ!」
なぜか会場全体が祝福ムードに。富山も思わず「おめでとう」と小さく拍手していた。
「O-71!」
「ビンゴ!」カップルの女性が飛び跳ねた。「私たちも!」
「3等、高級テント『グランピングマスター3000』です!」
「やったあ! これで次のキャンプが捗る!」
「G-55!」
「ビンゴ!」ソロキャンパーの若い女性。
「4等、温泉旅館ペア宿泊券です!」
「わあ! 母と一緒に行こう!」
富山はその瞬間、心の中で「ああああ」と叫んだ。温泉が、温泉が誰かの手に...! でも表情は冷静を装っている。
「N-42!」
「ビンゴ!」今度は家族連れの父親。
「5等、ミッキー・ローレンスのサイン入りボール!」
「息子が野球やってるんだ! これ見せたら喜ぶぞ!」
父親が嬉しそうにボールを受け取る。石川はそれを見て満足そうに頷いた。
「I-16!」
「ビンゴ!」
「ビンゴ!」
「私も!」
一気に3人がビンゴに。6等から8等が次々と決まっていく。
千葉はまだ当たっていない。でも彼は全く焦っていない。むしろ周りの盛り上がりを見て、目を輝かせていた。
「すげえ...みんな本気だ...! これぞ『どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる』だ!」
「楽しんでるのはいいけど、千葉は当たらないの?」富山が隣で呟いた。
「俺は最後でいいよ! みんなの喜ぶ顔見てるだけで幸せだから!」
「...優しいのか何なのかわかんない人ね」
富山は自分のカードをまた見た。まだ7つしか穴が開いていない。全然ダメだ。でも、何故か少しドキドキしている自分がいた。
「B-9!」
「あっ」富山の手が止まった。B-9、あった。
「O-68!」
「あっ」またあった。
「N-33!」
「えっ」またあった。
富山の心臓がドクドクと鳴り始めた。気づけば、あと3つでビンゴだ。いや、待って。これは、もしかして...?
「G-46!」
「あっ!」富山が小さく声を上げた。あった。あと2つ。
「I-19!」
「きゃっ!」今度は大きめの声。あった。あと1つ。リーチだ。
千葉が富山の様子に気づいた。
「富山さん! リーチ!?」
「え、あ、うん...」富山が顔を赤らめながらカードを見つめる。「でも、まあ、当たらないでしょ...」
そう言いながらも、その目は期待に輝いていた。残りの景品は9等と10等。高級BBQセットと特大スイカだ。
「次の番号! B-15!」
「...」富山のカードを見る。違う。
「O-70!」
「...」違う。
「G-52!」
「...!」
富山が立ち上がった。いや、立ち上がろうとして、足がもつれて千葉にぶつかった。
「ビ、ビンゴ...」
「富山さんビンゴ!?」千葉が歓声を上げた。
「おめでとうございます! 9等、高級BBQセット!」
田中管理人がBBQセットを渡そうとしたが、富山は明らかにガッカリした表情だった。
「...温泉じゃなかった...」
「富山さん、温泉狙ってたの!?」千葉が驚いた顔で言った。
「だって...」富山が視線を逸らしながら小さく言った。「最近仕事疲れてて...温泉行きたかったなって...」
その瞬間、石川がポンと富山の肩を叩いた。
「富山、お前も楽しんでるじゃねえか」
「う、うるさい! これはその、流れで...!」
富山が顔を真っ赤にして反論するが、その表情はどこか嬉しそうだった。
「そして最後! 10等!」
まだビンゴしていない参加者は5人。その中に千葉もいた。
「N-37!」
「...違う」千葉が呟いた。
「I-21!」
「...違う」
「B-4!」
「...違う」
「O-65!」
「...違う」
段々と会場が静まり返ってきた。残り5人全員、あと1つでビンゴという状況だ。
「次で決まる...!」誰かが呟いた。
田中管理人がゆっくりとマシーンを回す。全員が固唾を飲んで見守る。
「G...48!」
「ビンゴおおおおお!!!」
千葉が跳び上がった。いや、跳び上がりすぎて、そのまま地面に転んだ。
「痛っ! でもビンゴ! 俺ビンゴ!」
「おめでとうございます! 10等、特大スイカ5玉!」
「スイカああああ!」千葉が転がったまま両手を広げた。「最高! スイカ大好き!」
富山と石川が顔を見合わせて笑った。
「あいつ、本当に楽しんでるな」
「まあ、千葉らしいわね」
結局、ビンゴ大会は大成功に終わった。全員が景品を手に、満面の笑みで自分のテントサイトに戻っていく。コシヒカリを抱えた中年男性は、もう米を離さないという気迫で歩いていた。
「米...米...」
「お父さん、もういいから!」奥さんが苦笑いで引っ張っている。
旅行チケットを手にした野球帽の男は、既にスマホで旅行プランを検索していた。
高級テントを手にしたカップルは、「次は冬キャンプ行こうね」と盛り上がっている。
温泉チケットを手にした若い女性は、母親に電話をかけていた。「お母さん、温泉行こう!」という嬉しそうな声が聞こえる。
サイン入りボールを手にした父親は、息子に写真を送っていた。
そして千葉は、スイカを5玉、全部抱えて戻ってきた。
「重い...でも幸せ...」
「千葉、顔真っ赤だよ」富山が心配そうに言った。
「大丈夫! これも『グレートなキャンプ』の一部!」
石川は全員の様子を見て、満足そうに腕を組んだ。
「よし! 大成功だな!」
「まあ...確かに」富山が渋々認めた。「みんな喜んでたわね」
「だろ? 『奇抜でグレートなキャンプ』は人を幸せにするんだ!」
「100万使って幸せにするのはどうかと思うけど...」
富山が呆れたように言うが、その表情はどこか柔らかかった。手元の高級BBQセットを見つめながら、小さく微笑んでいる。
「富山さん、そのBBQセット使って肉焼こうよ!」千葉が提案した。
「え? でも...」
「いいじゃねえか! せっかく当たったんだし!」石川も賛成する。
「...まあ、そうね」
3人は自分達のテントサイトに戻り、富山が当てた高級BBQセットを広げた。千葉が当てたスイカも冷やすために川に浸けに行く。
夕暮れ時。キャンプ場全体から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。あちこちで「ビンゴ楽しかったね」「まさか本当に豪華景品だったとは」「また参加したい」という声。
田中管理人も管理棟から顔を出して、満足そうに頷いていた。
「石川さん、また来てくださいね。次は何をやるか楽しみです」
「もちろん! 次は215回記念だ! もっとグレートなことやりますよ!」
「215回はキリ悪いから!」富山が即座にツッコんだ。
BBQの火が赤々と燃える。肉が焼ける音。スイカを切る音。3人の笑い声。
「で、石川」富山が串を持ちながら言った。「貯金全部使ったって本当?」
「ああ」石川が何でもないように答えた。「でもまた貯めりゃいいだろ」
「...バカね」
「だな!」千葉が笑った。
「でもさ」富山がスイカを一口食べて続けた。「...ちょっとだけ、楽しかったわ」
「え、富山さんが認めた!?」千葉が驚いた。
「ちょっとだけよ、ちょっとだけ! 次はもっとまともな企画にしてよね!」
「無理だな!」石川が即答した。「次は215回記念! もっとグレートに...」
「もういい! 聞きたくない!」
富山が両手で耳を塞いだ。でもその顔は笑っていた。
キャンプ場の夜は更けていく。焚き火の炎が揺れる。星が瞬く。どこからか虫の声。
そして石川の声。
「よし! 次のキャンプ215回記念は『空からキャンプ用品が降ってくる! ヘリコプター大作戦』だ!」
「「ヘリコプター!?」」
富山と千葉の驚愕の声が、静かな夜のキャンプ場に響き渡った。
翌朝、撤収作業をしていると、昨日ビンゴに参加していたキャンパー達が次々と挨拶に来た。
「石川さん、本当にありがとうございました! 最高の思い出になりました!」
「また開催してください!」
「次も絶対参加します!」
口々に感謝の言葉。石川は満面の笑みでそれに応えていた。
車に荷物を積み込み、出発する直前。田中管理人が駆け寄ってきた。
「石川さん! これ、受付に忘れ物です!」
手渡されたのは、ビンゴカード。いや、よく見ると石川のビンゴカードだ。
「あ、俺のか。すっかり忘れてた」
石川がカードを見ると、穴が一つも開いていなかった。
「...石川、あんた自分は参加してなかったの?」富山が呆れた顔で言った。
「そういえばそうだな」石川がカラカラと笑った。「まあいいだろ。俺は企画する方が楽しいんだ」
「...本当にバカね」
富山が呆れながらも、少し嬉しそうに言った。
車が動き出す。キャンプ場が遠ざかっていく。バックミラーに映る田中管理人と他のキャンパー達が手を振っている。
「さあて! 次のキャンプ215回記念の準備始めるか!」
「ヘリコプターは却下だからね!?」
「じゃあ熱気球は?」
「それも却下!」
「セスナ機は?」
「全部空系じゃない!!」
富山の絶叫が車内に響く。千葉は助手席で笑いながら、窓の外の景色を眺めていた。
「でもさ、富山さん。結局楽しかったよね?」
「...まあね」
富山が小さく笑った。
「『どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる』だろ?」
千葉が振り返って言う。
「...そうね」
富山が頷いた。
こうして『俺達のグレートなキャンプ214』は幕を閉じた。
総額100万円超えの景品。熱狂するキャンパー達。米に執着する中年男性。温泉を逃した富山。スイカ5玉を抱える千葉。
確かに突飛で、確かにおかしくて、確かにハチャメチャだった。
でも、間違いなく、最高に『グレートなキャンプ』だった。
そして次回『俺達のグレートなキャンプ215』の企画はまだ決まっていない。でも一つだけ確かなことがある。
それは絶対に、もっとハチャメチャになる、ということだ。
「よし! 次は『富士山頂でキャンプ&BBQ世界記録に挑戦』だ!」
「「それは無理!!」」
富山と千葉の声が重なった。
車は高速道路を走り続ける。次なるグレートなキャンプへ向かって。
『俺達のグレートなキャンプ214 大博打!キャンプ場でビンゴ大会』 海山純平 @umiyama117
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