嘆きの泉に願うもの
夢咲愛鈴
第1話
変な話。
女を「禍いをもたらす者」だとホラ吹く昔話、多すぎない?
どこの国の神話にも似たような話があるだろう?
あちこちで浮気して、バレたらなんでもかんでも星座にしちゃう無責任な神様なんて、最悪中の最悪だし。
痴情のもつれで国を滅ぼした系とか、振られて逆ギレするストーカーと変わらなくない?
それで、泥棒猫とか、女狐とか、性悪女とか、毒婦とか、女を罵る言葉はいくらでもあるのにさぁ。
勝手にあれこれして破滅しちゃう男の愚かさを誰も責めないの、馬鹿馬鹿し過ぎない?
――なんて、宗教学の講義ノートを写しながら、今夜の合コンのイメージトレーニングをしてた。
いや、流石にこのネタはおもんなさすぎる。
頭のおかしい奴だと思われるかも。
封印しよう。
でも、女の肩を持つと好かれやすいって聞くし、方向性はこのままで悪くないかも。
痴漢の話とかにしたら、案外イケるんじゃない?
マスコミもネットも冤罪冤罪ってばっか騒ぐから、フェミの作り話ばかりだと思ってきたけど、実際、俺らの統一試験の時も、被害に遭った子が何人かいたな。
力のねぇ子供ばっか狙って、犯罪行為を武勇伝のように扱う時代遅れのジジィのせいで、俺らみたいな健全男子まで女子から変な目で見られて、いい迷惑だ。
……こうして考えれば、あれだけ高等生物だの文明だの叡智だのを自慢してきた人間のオスは、千年経っても頭んの中が野蛮な猿のままだな。
あんな大人にはなりたくないな。
大人、か。
年齢区分的に、俺はもう、大人らしい。
全く実感がない。
もう大人だから、バイトでなんとか生活費を稼げて、酒の付き合いしかない友達と飲みまくってるけど、気持ち的には高校生とそんなに変わらない気がする。
なんなら、うるせぇ親がいなくなってからはカップ麺とコンビニ飯ばっか口にして、勉強もロクにしないで、自堕落な生活を繰り返す毎日だ。
中身は高校生よりもガキじゃねぇか。
そろそろ就活も始めなきゃやばいのに、全くその気力が湧かない。
最悪な人生だ。
「先輩、どうしたんですか?そんな顔して、何か悩み事…」
ノートの主が心配そうにじーっとこっちを見つめてる。
ったく、後輩のいる前で何くだらないこと考えてるんだ、俺は。
合コンの話なんて、慕ってくれてる女の子の前で出来るわけないから、適当な言葉を口にして誤魔化した。
「あっ、いや、なんか、物騒な話ばっか書いてて、怖いなぁって、思っただけ」
「そう、ですよね。助けが必要な時は賢者とか、聖女とか、綺麗事ばかり並べて讃えるのに、ふとしたことで手のひらを返して、魔女だから処刑するって、酷いことばかりして、本当に酷いです」
「なぁ。だから迷信なんて大嫌いなんだよ。馬鹿馬鹿しい」
……びっくりした。
ちょっと助けてやっただけでいつまでも懐いてくるから、てっきり頭の空っぽなチョロ女だと舐めてたけど、もしかしたらこいつ、意外と頭が良かった?
そういえば、こいつはド田舎から上京してるって聞くし、俺の方が先輩なのに、いつもノート写してもらってるばっかだから、少なくとも俺よりは頭が良かったはず。
こんな気弱い芋女に頼るしかないなんて、俺って本当に情けない。
そう思うと、自分のことが無性に腹立ってきた。
これじゃ就活どころか、卒業も危ないんじゃない。
「なぁ、今夜、時間ある?ちょっと付き合ってくれない?」
嘆きの泉に願うもの 夢咲愛鈴 @Y-Alice
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。嘆きの泉に願うものの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます