黒羊を数える

@Equuleus_

黒羊を数える

 生きてほしい。

 べつに、死ぬわけじゃないけど、どこかで死を見つめているあなた。


 「ねえ、今夜はちゃんと寝てね。」

 今日の部活は先生の講義を聴くだけだった。遥か彼方、光年という単位を使うかたわら、ミリ秒という単位も平気で使うこの部活は本当におもしろい。

 「寝るよ寝るよ」

 笑いながら言ってる。寝る気ないなこりゃ。いや、真顔で言われても信頼性は低い。


 「最近ちゃんと寝てる?」

 「んー? ばっちり。今日は日が昇るまでに寝れたもん。」

 「いや、それ遅すぎだって。保健の時間ちゃんと起きてた?適正睡眠時間言える?」

 「5時間とかちゃうん?」

分かって言っているのか、わざとなのか。瞳を見ても真実を知ることはできない。

 「8から10時間。」

 「なっが。赤ちゃんかよ」

 「んで、あなたの睡眠時間は3時間?」

 「2時間」

 「ぱぼだな」

 「は?ぱぼにぱぼていわれたくない」


 睡眠時間の話をしたのは何度目だろう。

 私ね、寿命を削ってるの。だって、長生きしたいと思わない。

 いつだったか。チャットで話したあなたの言葉。ブルーライトとともに静かに届けられた告白。


 私が出会う前のはなし。いじめられるとね、手が震えるの。

 知らない世界を生きてきたあなた。

 あしたも病院。めんどいぃ。なんど聞いたことだろう。

 世界が重なる日は来ないだろう。


 あなたは知ってるのかな。私の、この気持ち。

 ねえ、無理しないでね?ちゃんと休んでね?

 元気そうにみえるけど、ほんとは頭痛いんじゃないの?腰も痛いんじゃないの?


 知ってるよ。覚えてるよ?

 ストレスで、寝れなくなって、その習慣がまだ残ってるって。

 寝てもすぐに目が覚めちゃうって。


 でも、でも、今のままじゃ、よくないよ。

 そんなのわかってるよね。

 わかってるけど、どうにもできない。

 私もどうにもしてあげられない。

 

 また明日と、使い古して思いを乗せることを忘れた言葉を交わして、私たちは家に帰る。

 夜は長い。いつものように生暖かい空気も、あなたが目を閉じるころには明日も夏を忘れているのだろうか。

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