荒廃奈落都市
剣山おの
第1話 魔法と弾丸、そして少女
———2135年。首都東京。
「これよりこのエネルギーを、『魔力』と呼称します」
遥かなる彼方からの恩恵、神の恵み、かつて無い至上のエネルギー。
『魔力』の発見、そして、それの応用である『魔法』の発明が世に発表された。
各企業に従来の役割に準じた魔法が与えられ、厳しく魔法の使い方は管理されてきた。
魔法の発明者、Dr.メギストスを名乗る者は、その危険性を案じ、2165年まで、30年に渡って魔法と魔力を自己の管理下に置いた。
世界は魔法の恩恵を授かり、電力などに代わる新エネルギーの存在に歓喜した。
……彼が暗殺されるまでは。
彼を暗殺した団体は、魔法を一般人でも扱えるようにし、あらゆる人へと普及させた。
……だが、その魔法の力は。
ただの人間が扱うには、余りにも強大だった。
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———2235年。荒廃奈落都市、東京。
「弾薬、回路、アタッチメント……オールオーケー」
鉄臭い古びたシェルターの中で、今日も今日とて狩りの支度をする。ランプの光を頼りに、銃全体に魔法式を込め、闇市で仕入れた弾薬とアタッチメントをセットする。
バレットM82スナイパーライフル。今じゃ貴重な旧時代の遺産だ。
「さて、と。やるしかないんだもんなぁ、面倒くさいっつっても」
今から狩りに行くのは『テリオン』。生物なのかロボットなのか、そもそもどこから来たのか、全く持って分からないヤツだ。唯一分かってるのは…65年前、突如として現れたってことだけだ。
コイツらを狩れば、剥ぎ取った素材から魔力結晶とかを色々作れる。そして何より、ここら一帯の物資やら何やらを管理してる中央都市管理協会から物資と資金の支援を受けれる。金はまだ価値があるのかって?そりゃ65年前に比べたら色々変わったらしいが……まぁ、流通してるってことはまだ価値があるってことなんだろうよ。
「さ、仕事の時間だ」
ガラッと埃まみれのシェルターの扉を開け、外に出る。扉に付いてた炭のようなものが手につき、早速少し嫌になる。
シェルターを掃除して埃を除去したいところだが、そんな物資の余裕は無い。
「…雑巾なり箒なり、くれてもいいんじゃねぇの?」
そんな愚痴を言いながら、狩場へと向かう。昨晩は雨が降ったのか、足元はぬかるんでいる。それでもまぁ、特にいつもと違いは無い。
いつも通りの匂い、いつも通りの騒音、いつも通りの地獄絵図。ビルには苔が生え、旧時代の遺物は自然に取り込まれかけ、テリオンに殺された人間がそこら中に放置されている。そりゃそうだ、回収してもどうしようもねぇんだから。
中央都市管理協会のヤツらも、そんなものに一々時間を掛けてる暇は無いらしい。全く、何が『管理』だ、ただの配給施設じゃねぇか。
「…と、そんなこんなで…発見しましたよっと」
崩れた瓦礫の脇。雑草が生い茂る草むら。影と草で詳しくは見えないが、その裏に何かいる。テリオンにしちゃかなり小さいが、こんなとこにいるのはテリオンか俺みたいなテリオンハンターだけだ。
「さ、仕留めちまうか」
「何かいつもと足音が違うが、ま、そんなテリオンもいるんだろうな」
銃を構える。冷たい銃身が、手にひんやりと伝わってくる。引き金に指をかけ、銃口に加速用の魔法式を展開する。スコープは壊れちまって付けて無いが、アイアンサイトで十分だ。
撃てば必中必殺、それが俺の銃。
随分素早く動いているようだが、絶対に外れることはない
……はずだった。
「なむさ…んん!?」
「2体目!?」
ビルの影からどデカいテリオンが現れる。影で隠れてても分かる、ありゃぁケッコー賞金貰えるレベルのA級テリオンだ。
「何だ…?テリオンは同種で活動も争うこともしないはず…」
「……チッ、面倒くせぇ!デカいのからやる!」
銃口に魔力を込め、加速用の魔法陣を展開する。あのクラスになると、いつもの銃弾じゃ核には届かないだろう。
となれば……。
「対A級特殊貫通弾…!」
俺の加速魔法と併用するのに特化した、錬金で作った貫通弾。コストが高いからな、A級未満に使うと損が出ちまう。
弾を込め、標的に銃口を向ける。
「距離…約200m」
「核解析完了。加速用魔法陣、多重展開」
銃口に3つの魔法陣が展開される。青白く光るその魔法陣は、テリオンの胸元を正確に見ている。
「反動軽減魔法、同時展開。照準…固定」
「……南無三!!!」
フォォォン、と高く鈍い音が鳴り響き、銃口から一本の光が放たれる。直径1.2cmの、細く、鋭い光が。
「……ジャスト。仕留めた…よな?」
確認の為に見てみると、テリオンは既にピクリとも動かなくなっていた。胸に1.2cmの穴を開け、生きているかのように綺麗な姿で眠っていた。よかった、しなくてもいい詠唱をした甲斐があったぜ。
「あーあ、予想外の出費だが…このサイズのテリオンなら、素材売っぱらった金と賞金で元は取れるだろ。次は小さいのを…」
「……ん?」
「オイオイオイ…嘘だろ……」
「……子供?」
デカいテリオンを仕留めたら、次は小さいヤツだ。魔法無しで仕留められるだろうと思って構えたら…目に入ってきたのは、背の低い、ここらじゃ見かけない…いや、今の世界じゃほぼ見れないような、綺麗なドレスを着た少女だった。
「擬態型…じゃ、ねぇよな…余りにも場違いすぎる」
「おい!そこの嬢ちゃん!」
周りにテリオンがいないことを確認してから、近づいて声をかけてみる。すると、少女は驚いたような顔をしてこちらを見る。
「何してんだ、ここは危険だぞ!?」
「あ……」
旧時代に生息してたタヌキっつー生き物は、多分あんな顔をしてたんだろうなって顔でキョトンとしている。
「あーじゃねぇよ……ちょっ、こっち来い!危ねぇから!」
「あ……はい!」
トトトっと、いかにもお上品って感じの走り方でこちらに来る。どっかで転んだのか、綺麗なドレスには泥がつき、顔にも擦り傷がある。
色々聞きたいことはあるが…ひとまず、外じゃ危ないからシェルターの中に連れていくことにした。
「……色々聞きてぇことはあるが…ここじゃ危険だ、俺のシェルターに連れてってやる」
「シェルター?」
「あぁ、元々は小型の核シェルターとして使われる予定だったらしい。そのお陰で、結構頑丈なんだぜ?」
「シェルター……」
「……何か言いたそうだな」
「いえ…」
「まぁいい。ひとまず!お前をシェルターに送って、俺はさっきのテリオンの素材を剥ぎ取って協会に渡す!そうしないと金が入んねぇからな!話はそれからだ!」
「テリオン……?」
「……っだぁぁぁ!お前…っなぁ!ホンットに何も知らねぇのか!?」
思わず頭を抱える。何なんだ、コイツはどっかの国のお嬢様なのか!?そうでもなきゃこんな無知なのはありえねぇ!
だが!そんなヤツがここにいるのはもっとありえねぇ!
「ず、ずびばぜん……」
「いやその…あ〜、泣かないでくれ!ごめんな、怖かったよな!色々あっただろうからな!」
俺が強く言い過ぎたのか、目に涙を浮かべて頭を下げる。そんなに泣かれても困るが…どうすべきか。
そうだな、ひとまずシェルターに帰ろう。そうしないと、コイツを安心させることも俺が安心することも出来ねぇ。
面倒なことに巻き込まれそうだと思いながら、夕陽が沈むように俺とコイツはシェルターに向かい始めた。
荒廃奈落都市 剣山おの @hunsaimuteki
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