彼女の恋と、その未来。

山野小雪

第1話  彼女とは?


私の名前は「ちいちゃん」。

大好きなトシキ君の部屋で、一緒に暮らしている。

トシキ君は、私のことをいつもかわいいと言ってくれて、頭をなでてくれる。

スマホで色んな私の姿を写すのが、好きみたい。

ありのままの私の姿をたくさん撮影してくれる。


私はトシキ君と結婚したい、子どももほしい。


──だから私はを産んだ。



毎日、卵を生み続けた。トシキ君は困った顔をしていた。

そして、私に触れる事も少なくなっていった。



ある日、見知らぬ男の子が部屋に入ってきた。


「ちいちゃん、この子はフウタっていうんだ。仲良くてあげてね」


 信じられなかった。 トシキ君が、私に「他の男」を紹介するなんて。

よく見ると、フウタという男は私より年下みたい。

 でも、それよりも——トシキ君の裏切りが許せなかった。

 


***


「今のちいちゃんの状態はよくないね」

 

 獣医師の言葉であった。

 このままでは、過産卵かさんらんで、ちいちゃんは命を落とす可能性があるという。

 

 ちいちゃんは、手のりのセキセイインコだ。

 セキセイインコのメスを一羽だけで飼うと、飼い主に強い愛着を持ち、卵を生み続けてしまうことがある。

 ちいちゃんは永遠に孵化することのない卵を、抱き温め続けているのだ。


偽卵ぎらんとかは抱かせた?」

「それもしましたけど、僕が触れると、発情して卵を産み出すんです」


 「偽卵」とは、プラスチックでできた小さな卵のことだ。

 それを抱かせることで「抱卵中」と体が判断し、産卵をやめる場合がある。

 産んだ卵は数日で腐ってしまうため、捨てなければならない。

 

 ちなみに大きさはウズラの卵よりも小さい。

 


「飼い主さんに冷たくされると、卵を産まなくなる子もいるんだけど——色んな子がいるからね」


 ちいちゃんの体は常に卵を作るので、カルシウム不足でガリガリに痩せ細っていた。

 それでも、ちいちゃんは卵を産むのをやめなかった。



 ***


 僕は友人に相談した。同じくセキセイインコを飼っている「鳥トモ」だ。 

 セキセイインコのメス一羽飼いでの死亡率は高い。

 原因は「卵」だ。卵管に卵を詰まらせたり、体力が落ちて産み落とせなくなったりする。


 「去年生まれたオスがいるから、やるよ」

 「手のり?」

 「まあ、俺には結構、手のりになっているかな」


 

 *** 


 現在、ちいちゃんは、新しく我が家にやってきた「フウタ」と仲良く子育てをやっている。

 僕よりも、同じセキセイインコの同士の方が自然だし、いいと思う。

 

 ——今日も僕は彼らの写真を撮っている。

  

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彼女の恋と、その未来。 山野小雪 @touri2005

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