惑星呪殺裁判
@may-sick0501
第1話 冒頭手続
「宇宙歴六七三年サファール船団時間六時、現在より裁判を執り行います」
時間きっかり、裁判長の静かな声が法廷に響いた。
「検察側準備できています」
「弁護側準備できています」
裁判長の声に応えて、担当検事の二人組と共に担当弁護士であるサンクリフトは立ち上がってお互いに、そして裁判長に、その背後に掲げられた水平を保つ天秤に一礼し、着席する。
そして裁判は始まった。
「被告は前へ。今から質問を行いますので答えてください。まず名前、生年、種族を教えてください」
「はい」
衣擦れの音すら大きく聞こえそうな静寂の中で返事が響き、サンクリフトの隣に座っていた依頼人が立ち上がって証人台に立つ。
「まず名前を教えてください」
「フジノ・ハイブリッジ」
「生年と種族、責任年齢に当たるかを教えてください」
「生年は宇宙歴六五六年。地球人女性。地球歴で三十四歳。責任年齢です」
「本籍と現在の住所、現在の職業を教えてください」
「本籍はユビキュラス船団地球コロニー、現在は……SOF銀河系4ー67星の宇宙連盟が所持する宿舎に住所をおいていましたが、既に解雇されているためよくわかりません。同じく職業は無職です」
「住所の変更申請は確認されていないので説明で合っていますよ」
手元の資料を確認しながら話を聞いていた裁判長が頷いた。
「被告。あなたには黙秘権というものがあります。裁判でのあなたの発言は、あなたにとって有利であること不利であることを問わずに証拠能力が伴います。あなたは個々の質問に対して答えること、拒むこと、沈黙し答えないことができます。ただし、拒むことや答えないことがあなたに不利に働く場合もあります。わかりますか?」
「はい」
緊張で強ばった声でフジノは頷いた。
「では検察官、起訴状をお願いします」
サンクリフトの対面に座っていた二体の検察官のうち、片方が立ち上がって簡易呼吸器ごしに流麗な共通語で今回の裁判の起訴内容を読み上げ始める。
「被告は、宇宙歴六七三年SOF銀河系4ー67星。現地呼称フキオでの支援活動従事中に地球の呪詛文化を原生住民に伝達し、その危険性を承知しながら原生住民が呪詛行為を行うのを制止しなかったことにより当該星における原生住民約二億を致死せしめた。罪名及び罰条『業務上過失致死』宇宙刑法第二一一条」
原生住民約二億の致死。
もう少し正確に言うならその星で暮らしていた約二億の知性生命体……その全てが数時間のうちに原因不明の死を迎えた。サンクリフトが弁護を務める、フジノ・ハイブリッジはその事件の責任能力を問われているのだ。
「被告、弁護士。起訴内容になにか意見はありますか?」
「………………………………」
裁判長に問われてフジノは長く沈黙した。裁判長はチラリと弁護士であるサンクリフトに視線を送ってから手慣れた説明を続ける。
「被告と弁護士は起訴内容について意見を述べることができます。意見とは起訴内容を認めること、起訴内容の一部に間違いがある場合はそこを指摘すること、起訴内容全てを否定することなどを指します。ほか今弁解したいことなどあれば発言をすることができます。また、あなたの弁護士に発言を任せることも可能です」
「………………………………」
それでも無言のままの依頼人を見てサンクリフトは少し心配になる、事前の打ち合わせでここの弁解内容については練習していたはずだった。同情を買うためにも依頼人からの弁解が適していると判断したからだ。
この重苦しい空気感に飲まれてしまったのかもしれない。仕方なく発言の許可を得るために手を挙げる。
「……はい、弁護s「わかりません」
裁判長がちょうどサンクリフトを示し、発言の許可を与えようとしたタイミングでフジノは声を絞り出した。
それはサンクリフトとフジノで打ち合わせを行った意見陳述内容では無かったが、止める間も無く震えた声が予定に無い、それでも彼女自身の本音を裁判所の記録に刻む。
「わかりません。私はいったい何をしたんですか?」
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