第5話 いつか……絶対にこの国のヤツらを悔しがらせてやる!



「地図が割とテキトーっていうか、まあ、これで分かるんだろうけど。道がシンプルみたいだし」

「人間の作る大きな街は、だいたい縦横の道で作られると聞いたことがあるのじゃ」

「まさにそれ。曲がり角の数を間違えなかったら、迷子にはならない、はず。ええと森の木陰亭っていうアパートか。なんか、宿屋っぽい名前だな……」


 そんなことを思いながら、ボクは地図通りに歩いた。

 そうすると無事、森の木陰亭にたどり着いた。


「……宿屋じゃのう」

「あ、やっぱり? そうじゃないかとは思ったけど」


 ……これ、まさか1カ月とか2カ月とかしか、暮らせない感じか? それともずっと部屋を確保してくれてんの?


 アパート的なやつじゃなくて宿屋って時点で……永遠ではない気がする。


 いや。気にするな。

 そもそもここから出て行くつもりなんだ。


 ボクは宿屋の中に入っていく。


「すみません。王城からここに行けと言われてきたんですけど」

「ああ、アンタかい。話は聞いてるよ」

「ボクの部屋をここに用意してもらったみたいで」

「そうさね。お城の役人からは1カ月って聞いてるよ」

「1カ月……」


 大きなお腹のぽっちゃり女将さんがボクの部屋は1カ月だと教えてくれた。


 短い!?

 いや、ホテルに1カ月って考えたら長いのか?


「ちなみに食事なんかは?」

「そりゃ別に決まってるだろ」

「ですよねー」


 くっ。

 1カ月なのは10日間とかよりもマシだけど、メシ付きじゃないのか。


 まあいい。

 もらった金貨でいろいろと買って、早くこの国を出て行こう。


(……ご主人さま)


 小さな声でミカゲが話しかけてくる。


「なんだ?」

(とりあえず部屋に行くのじゃ……)


 ……何か、秘密の相談でもあるんだろうか?


「すみません、すぐに部屋には入れますか?」

「ああ、問題ないよ。そらっ、これがカギだよ」


 ひょいと投げられたのがどうやら部屋のカギらしい。

 ボクが住んでた日本とは違うからどこまで信じていいかは分からないけど、カギをかけるくらいの防犯意識はあるようだ。


「2階の角の部屋だから」

「はい、どうも」


 ボクは階段を上って、角の部屋を目指す。


「……ニラクマの木か。森の木陰亭だから部屋の名前を木の名前に? うん? あれ? ボク、字が読める……?」

「ご主人さま。召喚された勇者は言葉や文字でなぜか苦労しないと聞いたことがあるのじゃ。そんなことよりも早く部屋に入るのじゃ」

「へー、そうなんだ。助かるな、それは」


 カギをぐるりと回して、ドアを押し開く。

 そして、そのまま部屋の中に入る。


 ボクではなく、そのドアをミカゲがぱたんと閉めてすぐにカギをかけた。


「それでミカゲ? 何が……」

「もう我慢できぬのじゃ。あぁ、ご主人さま、ミカゲは、ミカゲは……」


 一瞬でミカゲにベッドへと押し倒された。力でも負けてる気がする。

 ミカゲが消していた姿はもう見えるようになってる。


 早く部屋に行けってこれかよっ!?


 ボクの尊厳はいったいどこへ……。

 あっ……うっ……。


 いや、嫌ってわけじゃないとはいえ……あっ……。






 ミカゲと一戦交えて完敗してから、ボクはまず服を買いに出かけた。

 ベッドでミカゲに勝てる気がしない。強すぎる。これでよくミカゲをテイムできたなと思う。


 さて、服を買いに行く理由はひとつ。

 ミカゲが王城でボクを襲ったのはこの制服姿だったから、らしい。つまりこのままだとかなり目立つ。


 こっちの世界での一般的な服に買い替えて、制服は買い取ってもらう。

 制服は生地がかなり頑丈らしく、思ったよりも高く買い取ってもらえた。ボタンなんかもひとつひとつが金になった。


 それからは武器と鎧、それに食料もよく見て、できるだけ安くそろえた。

 それでも金貨は10枚以上、使うことになった。


 金貨50枚くらいではまともに生きていけないんじゃないかと思う。

 普通の『魔物使い』だったら。


「それでご主人さま。どうするのじゃ?」

「今日はここに泊って、明日の朝早くに出る。近くに森があるらしいけど……120年生きた魔族のミカゲはこのへんの森の魔物よりも強いんだろ?」

「もちろんなのじゃ」

「なら、置手紙でも書いて、そのままいなくなるよ」


 パターンとしては『探さないで下さい』って書き置きがいいだろうな。

 ちょっと自殺でも匂わせておけば……『魔物使い』をあそこまで見下してる国だから、勝手にボクが死んだと思い込むはず。


 それで忘れられてこの国とはさよならだ。


 森に行くのは……ボクは『魔物使い』なんだから、森みたいな魔物がいっぱいいるところでこそ、テイムが生きる。

 危険だけど、ミカゲ情報が正しいのなら問題ないはず。


 ……できればダンジョンがよかったけど、まだ情報が足りない。ダンジョンみたいなのはあるらしい。これもミカゲ情報だ。


 しばらくはミカゲ頼りだな。

 いろいろとエッチなロリばばあだけど、この世界のことはボクよりもよっぽど詳しい訳だし。


 せっかくの異世界で、せっかくのチートだ。

 いろいろ楽しんでやる。


 そんでもって……ボクを切り捨てたこの国が悔しがるような存在にいつか、なってやるからな!


 ボクとミカゲの戦いは! これからだ!

(ただの事実で、かつ、ダブルミーニングでもある。今から宿屋で夜を過ごすんだし。)





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