ステータス画面は消えない

みなも

ステータス画面は消えない

異世界から帰還して三年。

ステータス画面だけが消えなかった。

今は都内で会社員をしている。


改札を抜けた瞬間、視界がチカッとした。


〈危機察知:発動〉

〈敵意感知:全方位〉


満員電車だ。

敵意というより、全員眠い。


ドアが閉まる。

足が自然に踏ん張る。


〈バランス制御:自動〉


隣のサラリーマンがよろけて俺に寄りかかる。

助けたつもりはない。勝手に体がやった。


会社に着く。

席に座る。

昼飯はあの蕎麦屋にしよう。

上司が機嫌悪そうに咳払いをする。


〈恐怖耐性:有効〉


「先輩、肝座ってますよね」


後輩が感心した声で言う。

肝じゃない。慣れだ。


昼休み、飲み会の案内が回ってくる。

唐揚げ食べ放題。


〈毒耐性:反応〉


それ、油が古いだけだと思う。


乾杯。

ビール一口。


〈状態異常:無効〉


隣の同僚は赤くなっている。

酔うのはまだ早くないか?


「先輩、強いっすね」


強いのは肝臓だ。


帰り道、健康診断の結果を見る。


〈HP:満タン〉

〈睡眠不足:慢性〉


母からメッセージ。

「ちゃんと寝てる?」


「大丈夫」


送信した瞬間、画面が更新される。


〈自己申告:虚偽〉


おい。


家に帰る。

靴を脱ぐ。

ソファに沈む。

何にもしたくない。

洗濯機を回す。


〈孤独耐性:過剰〉


過剰って何だ。

耐性は高い方がいいだろ。


色々済ませて電気を消す。


〈希望:測定不能〉


まあいい。

明日も会社だ。


ステータス画面は消えない。

俺も気にしない。

使い道もない。


〈自己管理:良好〉


それはステータスが決めることじゃない。


〈社会適応:B-〉

〈勇者適性:不要〉


一回小さなあくびが漏れて、

布団を被り直した。

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ステータス画面は消えない みなも @minamo_

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