のらりくらりと短編集

のらりくるり

初めてのクリスマスデート、その帰り道

「デート誘ってくれたことは嬉しいよ? でもさ、クリスマスにホラー映画ってどうなの?」


「だって、前見たいって言ってたから……」


「それも嬉しいけど! そういうことじゃないの!」


 付き合い始めて最初のクリスマス。前に彼女が見たいと言っていた、ホラー映画をチョイスした訳だが、どうもお気に召さなかったみたい。


「お互い受験生だしさ。会える時間も少ないんだからさ。もっと、こう、さ……」


 街灯もまばらな暗い道。来年高校生になる予定の彼女は縁石の上を綱渡りしながら、不満げに少し先を歩いている。


「もう暗いんだから、危ないよ」


「ふん」


 聞く耳を持ってくれない。今まで女の子と付き合ったことない僕は、こういう時どうすればいいのか分からない。


 気まずい沈黙が続く。もうすぐ分かれ道。いつもそこで別れて、すぐにひとり反省会が始まる。


 今日の反省会は盛り上がりそうだ。彼女と喧嘩して、渡すものも渡せず、そのまま受験が終わるまでゆっくり話す機会もなくなって、モヤモヤした気持ちを抱えたまま高校生になってしまう。それだけは嫌だ。


「この道暗いからやだ! 怖い!」


 信号待ちの交差点。小学生くらいの女の子が、涙目になっている。一緒にいる男の子は、少し困ったように笑いながら手を差し出す。


「ほら。手繋いでてあげるから。一緒に行こ?」


 純粋さというか、男気というか。小さな小学生の背中が大きく見えた。一方、僕。彼女の顔もろくに見れず、話すことすらままならない。


「? 信号変わったぞ?」


 さっきまで前を歩いていた彼女がいないことに気がついて振り向く。街灯の灯りが届かない少しの暗闇とマフラーで隠れている顔は、どんな表情をしているのか分からない。


「分かってるよ!」


 小走りで近づいて来る彼女は縁石から下りて、僕の少し後ろを歩いている。


「……暗いの、怖いなぁ」


 ぽつりと、そんな声が聞こえて振り向く。


 彼女の顔が車のライトで照らされる。寒さのせいか、頬が真っ赤に染まっている。


 いや、分かってる。寒さのせいなんかじゃない。さっきの二人を見て、彼女なりに勇気を出してくれたんだ。


 顔が熱くなる。そんなこと言ったこともないし、柄じゃないとも思う。


「て、手。繋いでて、あげるから。一緒に、歩こう……か」


「うん!」


 彼女の顔がぱっと明るくなり、横に駆け寄ってくる。彼女の手は、ずっとポケットに手を入れていた僕の手よりずっと凍えていた。


「暖かいね」


「そう、だね」


 分かれ道まで、あと数十m。そこに着けば、この手を離してそれぞれの帰路に着くことになる。


「あのさ!」


「どうしたの?」


 彼女は勇気をだしてくれた。僕はそれに答えただけ。今度は、僕が勇気を出す番。


「この先の駅前広場、イルミネーション綺麗だから……一緒に見に行かないか」


 柄じゃない、なんて考えてる場合じゃない。せっかくのクリスマス。少しくらいわがまま言ったって、バチは当たらないと思う。


「もう少しだけ……一緒にいたいから……」


「うん! 行こ!」


 彼女は少し驚いた顔をして、すぐにくしゃっとした笑顔になった。


***


「綺麗だね」


「だね」


「見てあれ! 綿あめみたい!」


「そうか? いや、そうかも……」


「なんかお腹空いてきちゃった。もう遅いし、そろそろ帰ろっか」


「ちょっと待って!」


「なに?」


「これ……クリスマスプレゼント。あと、今日はごめん」


「プレゼント、選んでくれたの?」


「まぁ、うん。どれが一番似合うかなって、考えてた」


「開けていい?」


「……どうぞ」


「うわぁ! ネックレス! 猫のチャームついてる! つけてみてもいい?」


「……うん」


「どう?」


「似合ってる」


「かわいい?」


「か、かわいい! 世界一!」


「そ、そっか……ありがと……」


「来年も、また一緒に来ような」


「うん、約束だよ」


「ほら、手」


「ありがと」


「ちょ、ちょっと待って! それはまだ早いっていうか……」


「でも、私たち恋人同士だよ?」


「まだ中学生だから!」


「じゃあ、来年までお預けね」


「一年後、またここで、ね?」

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